ヨーグルトに七色ジャムを乗せてみた 甘いのは口に合わない、という君だから。これくらいなら、まあ大丈夫かな、と思ったんだけれど。 気に入らなかった?隣に座る君は、細い眉を難しげに歪めて、ぼくからの贈り物をじいっと睨み付けている。 「紫苑」 「うん」 「これは、何」 「見れば分かるだろ。お菓子だよ、Treat。今日はハロウィンだから」 「‥‥」 君は一瞬、ぼくに何か言いかけたけれど。呆れ顔で息を吐いたなら、もう顔を逸らしてしまった。 取り残されたのはぼくと、市販のプレーンヨーグルトにジャムを乗っけただけの、簡素なデザート。 いいじゃないか、別に。食後の口直しだと思って、食べておくれよ。大体君、コンビニのパンだけで腹が満たされるのかい。 「そいつは、余計なお気遣いをどうも。あんたって、イベント事が好きな奴だったっけ?」 「いや?なんとなく、便乗してみただけ」 「あっそ。ていうか、おれあんたにTrick or treatも、何も言ってないんだけど」 「君が言ったら、逆に怖いさ。いいじゃないか、細かい事は」 ああ因みに、そのジャムはぼくの手製だよ。ちゃあんと、心もこもってるんだから。 「ふうん」 生返事をして、君は長い指でカップを持ち上げる。何だかんだ言って、食べてくれるらしい。 「ジャム、何味?」 「ぼくの愛情の味」 「あら素敵」 下らない冗談を吐き合って、どちらともなくぷっと吹き出す。視界の隅では校庭の紅葉が風に揺れて、時折ひらひら、その葉を秋空へと踊らせていた。 雲一つ無い空の下、屋上のコンクリートは少し冷たいけれど。隣に君がいれば、そんな事もさして気にならないんだ。不思議なものだね。 「‥なあ、」 「何?」 「Trick or treat.」 黙々とヨーグルトを口に運んでいた君に、そう告げる。 さあ今度は、君が答える番。ぼくはにんまりと笑ってみせた。どうするんだい。 「‥‥」 君は案の定、随分と嫌そうな顔をしてから、はあと溜め息を吐きスプーンで白いのを掬いあげる。 「―ほら。Treat」 ぶっきらぼうな言葉と共に口元に突き付けられたそれを、ぼくは素直に受け取った。 なあそれ、ぼくがあげたやつなんだけど、とは思ったけれど、艶やかな笑顔で君に「間接キスだ、喜べ」なんて言われてしまっては、反論のしようがないでしょう。 全く、ちゃんとお菓子をあげた筈なのに、悪戯されたような気分だよ。 「‥美味しいじゃないか」 「まあまあね」 不貞腐れた声でぼやいたぼくを適当にあしらいながら、君が最後の一口をぱくりと食む。なんだ。何だかんだ言って、気に入ったみたいじゃないか。 ぽかぽかと暖かな陽に照らされて、君の癖の無い黒髪が、幾重も白い輪を作っている。 嗚呼やっぱり。当たり前のように君が隣にいる事が、とても幸せであるように感じるよ。綺麗な横顔を眺めながら、ぼくはぼんやりとそんな事を思う。 「ごちそうさま」 「何味かわかった?」 「あんたの愛情の味だろう?」 くすくすと、可笑しそうに君が笑う。それを見ていると、例えからかわれているのだとしたって、自然と頬が緩んでしまうのだ。だって嬉しいんだもの。 ―愛情の味、嘘でもないよ。 君とぼくがこうして共に在る事の出来る今が幸せだって、きっとずっと続きますようにって。そんな願いを目一杯、こめて作った。 知っていたかい。 君と一緒に過ごせるのなら、例えどんな時間だって、どれ程の時間だって、眩く輝く虹色に、熟れてみせるんだよ。 甘いのは口に合わない、という君だから。 控えた砂糖の代わりにたっぷりと、そんな想いを溶かしたジャムを、乗せてみた。 ねえ幸せだよ。 これからもきっと、よろしくって。 少しでも君に、伝える事が出来たかな。 ‥そうだといいなあ。 《ヨーグルトに七色ジャムを乗せてみた》 そんな事をきみに直接言ったら、胸焼けするって言われそうだ。 了. ------------ 上手くお題に沿えてない感が激しい‥(^^; 駄文、失礼致しました! (ペラルゴニウム master:玲花) 11/06 17:01(Sun) |