雪隠詰め | ナノ


▼ ギリア×満 A


 久しぶりの休暇。
 朝はゆっくり心行くまで寝れるし、明日も予定が無い。そして俺が休みという事は生徒であるアイツも休みな訳で。
 やる事と言ったら一つしかねぇだろ?




 昼間の明るい陽射しが、レースのカーテンからリビングを照らす。
 そんな中、アイツはソファーに背を凭れかけながら雑誌を読んでいたが、読み切ったのか顔を上げ真っ黒な瞳で真っ直ぐこちらを見るとふっと笑みの形に細めた。
「本当、こんな風に過ごせるの久しぶりですよね」
「あーそうだな」
 ナトリは床に座っている所為でソファーに座っている俺を見ると、自然に上目使いになる。
(――そんな風に見んじゃねぇよ。ここで犯すぞ)
 胸の中でそう呟いたが、この日の為に温めておいた計画の為にもそんな事はしない。
 だが既に頭の中は目の前の身体を貪る事しか考えていなかった。
「そういえば借りていた映画ありましたよね、折角だし見ます?」
「そうするか。……あーじゃあ俺は飲み物持って来るわ」
「あ、お願いします」
 映画を見る準備を始めるナトリにそっと自然に見える様に口にすれば、こちらも見ずに頷く。
 ほくそ笑む口元を抑えて台所に向かい、グラスを二つ取り出すと氷を幾つか入れ、オレンジジュースを両方に注ぐ。
 そして後ろを向き、まだナトリが準備をしているのを確認して胸ポケットからこっそりと小さな瓶を取り出した。
 ――真昼間から乱れる、ってのも良いだろ?
 くっと口角を上げ、片方のグラスに少しとろみのあるそれを注ぐと、マドラーでかき混ぜる。
 カラカラと耳に涼しい音が響いて心地良い。
 液体だし、氷が入っていても難なく溶けた様だ。それを確認するとナトリの元へそれを運ぶ。
「セット出来たか?」
 話しかけながら近づき、さっきの液体を溶かし込んだジュースの方をナトリの近くに置いた。
「あ、ありがとうございます。あ、そうだ。どうせならあのケーキも食べましょうよ」
「ケーキ? ああ……」
 そういえば昨日こいつがイロンからケーキをもらっていた気がする。
「お前、こんな甘い物飲みながらケーキ食えんのか……」
「え、普通じゃないですか? 先生取って来てくださいよ、俺まだ用意してるし。ついでついで」
「ついでっつってももうここまで戻って来たじゃねぇかよ」
 はぁと溜息を吐きながらもケーキを取りに戻るのは恋人を甘やかしたい心理か、それともこれから起こる事への僅かばかりの謝罪の気持ちからか。
 冷蔵庫の中からケーキの箱を引っ張り出し、皿とフォークを一組持って戻る。
 そうすれば既にジュースのコップに口を付けていたアイツが嬉しそうに笑って「ありがとうございます」とそれらを受け取った。
 笑みを返しながら「おう」と言ったのは勿論、媚薬入りのジュースに口を付けた事に対する笑みだ。
 後は罠に掛かった獲物を眺めながら熟すのを待つだけ。
 鼻歌でも歌ってしまいそうな気持ちでソファーに座れば、その足元にナトリが座る。
(――いつも思うんだが、こいつのこういう無意識に誘う様な仕草が堪んねぇな……)
 しかし今日はその無意識を意識的にさせるのだ。
 どろどろになった思考のこいつを焦らしに焦らし、自分から進んで誘い、強請らせたい。
 そんな状態のナトリを想像しただけでぞくぞくした。
 ニヤつく口元を抑えながら自分のグラスに手を伸ばす。
「あれ、先生はケーキ食べないんですか?」
「俺は甘いのは一つで良いんだよ」
「そういえば先生がジュースって珍しいですね」
「まぁな」
 違う飲み物を用意して、あ、俺そっちが良いですだなんて言われたら計画がダメになるからな、という呟きを俺は甘ったるい液体と共に喉奥に流し込んだ。




(――まだかよ)
 映画を一心に見ているナトリの横顔をちらりと見て、心の中で呟く。
 確かに即効性ではバレる可能性が高いからと遅効性の物にはしたが、そんなに効き目が遅い物なのだろうか。
(――まさか気付いていないとかじゃねぇだろうな)
 いや、いくら鈍感なこいつでもそれはないだろう。
 それにじわじわと欲情させると言うよりも、時間を置いて爆発的に効く物の筈だ。
 早くしろと何度もナトリを確認してしまうため、映画も中程まで来ているというのに、内容がさっぱり頭に入って来ない。
(――つか、暑……)
 夏も過ぎ、徐々に暑さも収まって来たかと思っていたがまだまだ暑い。
 さっきからエアコンをがんがん利かせているというのに、暑くて仕方が無かった。
 もう少し設定温度を下げるかとリモコンに手を伸ばせば、ナトリが困った様に振り返る。
「先生、また下げるんですか?」
「あ? だってお前暑くないのか」
「俺もう寒いくらいで……」
「そうか?」
 腕を擦るナトリに渋々リモコンから手を離す。
 蛇である自分は寒さに弱い。だからナトリが寒がって俺が暑いと思うのはおかしい。
 いや、どことなく来る睡魔の気配はその所為なのかもしれない。
 冬になるといつも付き纏う眠気と似た気配に眉間に皺を寄せた。
(――体感温度がおかしい……?)
 それはつまり、肌で感じる温度より体温の方が――そこまで考えた瞬間、カッと身体が燃える様な感覚に陥った。
「……!?」
 無言で瞠目する。
 身体を熱が凄い勢いで蝕み、あっというまに喉が干乾びるように渇いた。
(――おいおいおいおい嘘だろ!)
 まさか自分が飲んでしまったと言うのか、例の媚薬入りの物を。
 ケーキを取りに行った際にこいつが間違えたのだろう。それに気付けなかったとは。
 浮かれていたにも程がある。こいつがちゃんと例の方に口を付けるのを見届けるべきだったと後悔してももう遅い。
 異変に気付いたのかナトリがこちらを仰ぎ、ぎょっと目を見開いた。
「せ、先生!? ど、どうしたんですか顔真っ赤……って熱っ! え、風邪!?」
 腕を掴み、いつもと違う体温に更に驚きの色を深めたナトリが俺の額に手を当てる。
 勿論それだけ距離が近くなるという事で。
 鼻孔からこいつの匂いが流れ込んで来て、頭の中がそれで埋め尽くされた。
 衝動に駆られるまま腰と腕を引っ掴むと、自分の身体を跨らせる形を取らせて唇を奪う。
 ナトリが目を見張っている間に右手は髪を掻き回し、左手がシャツの裾から中に入り弄る。
 頭も身体も全て性急に事に及ぼうとしていた。
「せっ先生、せんせ……っ、ん……う……っぷは、何して、ちょっと!」
 困惑や怒りが混じった声をナトリが上げる。
 それを無視して肌蹴た胸元に顔を突っ込めば、頭の両脇を掴んで引き剥がされた。
「ちょ、いい加減にしてくださいよ! 何ですか突然。顔真っ赤だから心配したのに……俺、映画見てんですけど!?」
「……なぁ」
「何です!?」
「頼むから抱かせろ」
「はぁ!?」
 素っ頓狂な声を上げるナトリの肩を掴んで引き寄せようとすれば、全力で抗われる。が、それもナトリが俺の表情を見ると力が弱まった。
 息を荒げる俺を本気で心配そうに覗き込む。
「ど、どうしちゃったんですか……。発情期……じゃないですよね、脱皮してませんもんね?」
「……あー……媚薬飲んだ」
「はい!?」
 何故に!? とナトリが俺を見下ろす。
「え、先生何したいんですか。え? Mだとか? まさか枯れて来たとか言いませんよね。言っておきますけど先生ちょっとくらい枯れた方が良いんですからね!? それくらいでも……」
「馬鹿、お前に飲まそうとしたのに手前が俺の奴飲んじまったから間違えたんだ……くっそ」
「……先生、自業自得って言葉知ってます?」
 うるせぇよ、と返してその身体を、恋人の身体を抱き締めた。
 発情期並みに身体が疼く。
 いや、むしろ下手に理性が残っている分、感じる辛さが大きい気がした。
「おい……選択肢は二つだ。選べ」
 もはや唸り声の様な低さでナトリに告げる。
「ベッドで抱かれるのと、ここで犯されるの。どっちが良い」
「ほ、他の選択肢は?」
「無い」
 ばっさりと切り捨てればナトリの顔が引き攣った。
「……俺とシたく無ぇのか、ゴラ」
「そんなこと無いですけど……」
 今の先生怖いですし……ともごもごと口籠るナトリの首筋に唇を這わせ、軽く歯を立てる。
 小さく跳ねた身体を折れそうな程強く抱きしめながら耳に口をつけた。
「……頼む、辛い」
 本気で辛い。
 そう低く囁いて媚薬の所為で勃ちあがったそこを、跨るナトリの秘所に擦り付けた。
 布越しでもヤバイくらいに気持ちが良くて、夢中になってごりごりとそこに押し付ければナトリが真っ赤になる。
「なぁ……」
「〜〜っ! 分かりましたっ分かったから、こ、擦り付けないでください……」
 尻窄みに訴えるナトリの耳を食むと腕を叩かれて怒られた。
「ベッド! ベッド行きますから! ここでは……あっ、ちょっ! ここでやるなって言った!!」




 肩に担がれて寝室に運ばれ、ベッドの上に半ば放り投げられる形で下された。
 痛くは無かったが、余りの扱い方に文句の一つでも言わなければと睨もうと顔を上げて……そんな気も吹っ飛んだ。
 欲に塗れた金の瞳でこっちを縫い止めながら荒々しい動作で服を脱いでゆく。
 そこにはいつもの余裕さなんて欠片も無くて、今すぐ欲しいと態度で言われている様な物だった。
 唖然としている間にギリア先生はズボンも脱ぎ捨て、ベッドの下に落とすと覆い被さってくる。
 身長差の所為もあるが、筋肉質でガタイの良い先生が覆い被さってくると組み敷かれている感じが凄くして怖い。……が、そこに一種の恍惚も含まれていた。
 既に肌蹴たシャツを更に広げるように大きな手が胸板を滑り、もう片方の手が俺のズボンとパンツに手を掛け鬱陶しいとばかりに剥ぐ。
 シャツを腕に絡ませ、下半身は真っ裸という何とも情けない恰好なのに先生はそれを見下ろすと喉奥で低く唸りながら二つに裂けた舌をべろりと覘かせ、金の目を細めて嬉しそうに笑った。
 金の瞳が近づき、キスをされる。
 二股の舌は何度キスをしても慣れなくて、いつも翻弄されてしまう。直ぐに唇が離れ――。
「……っ、せん、せ……何……」
 キスをしながら先生は下着をおろし、取り出した熱り立ったそれを扱いていた。
 挿入する為に勃たせる行為では無く、完全に欲望を吐き出すための動き。
 肌と肌が擦れる乾いた音が直ぐに粘着質な音に変わり、かぁっと顔が赤くなるのが分かった。
「な、何してるんですかっ」
「うるせぇ。……薬の所為で持ちそうにねぇんだよ、一回抜く」
 黙ってろ、と言われてどうしたら良いのか分からず目が泳ぐ。
 恐る恐る下に向ければ赤黒い怒張が大きな手で擦り、扱かれている様子が入ってしまい慌てて目を逸らす。
 目の前で自慰をされるなんて考えた事も無かった。
 荒い息が耳に入り、顔を上げる事が出来ない。
 両手で顔を覆えば「馬鹿、隠すな」と両手をシャツで拘束されてしまった。
「か、隠させてくださいよ……っ」
「ああ? 最高のおかずがここにあんのにそれを食わせねぇつもりか。てめぇは鬼か」
「うわああおかず言うなぁああ!!」
 余りにもストレートすぎる言葉に顔を上げて食って掛かれば、片手で顎を固定される。
 おかげで俯く事が出来ず、快楽に眉間に皺を寄せる先生の顔がもろに視界に入る事になってしまう。
「そうだ……全部見せろ」
 ふっと金の目が一瞬だけ細まり、軽いキスをした後身体が少し離れる。
 でも顎はまだ固定されたままで。
 快楽に軽く歯を食いしばっている姿や、額を伝う汗。雄の色気を撒き散らしながら舐めるように見つめる視線にこっちまで煽られて息が荒くなった。
「……っ、っく」
 先生が息を詰めた瞬間、顎を固定していた手が離れたと思ったらその手で俺の片足を掴み、思い切り持ち上げた。
 驚く暇も無いまま、先生の身体がその間に入り、そして後孔に熱の先端を押し当てられた感覚にぞわっと肌が粟立つ。
「え、何!? ひっ! や、ぁああ!!」
 ぐにりと押し当てられた先端は少しだけ後孔に入り、そしてそのまま白濁を吐いた。
 解されていないし、射精の勢いだけで全部が中に注がれる事は無いけれど少し入ってしまったのか何だかねちゃねちゃする。入口付近にもべったりと白濁が付着しているのが見なくても分かった。
「へ……変態!」
 アブノーマルな行為にそう呟けば「これでローションいらずだろ?」と不敵に笑いながら言われる。この変態め!
 だけど抗う暇も無いまま長く節のある指が指し込まれて、吐き出された精液を中に塗り込めていった。
「やべぇ……中出しした後みたいで興奮するな、コレ」
「そ、んな……っ知りません、んっう……っ」
「……っは、今すぐ抱きてぇ……」
 いつもより早急にそこを解され、早々に灼熱を突きつけられた。
「挿れるぞ……っ」
「えっまだ早……っあ、うぁ……ああぁ!!」
 ずぐぐっと割り入って来る長大な熱に背を反らせて喘ぐ。
 熱に慣れる暇も無いまま、直ぐに抽挿が始まって俺はただ穿たれるままになるしかない。
 微かに引き攣れる様な痛みもすぐに快楽で塗り替えられていく。
 肉が打ち付けられる音に喘ぎ声が混じるのはそう遅くなかった。
「ひ、ぁっあっ、ひぁ、ふ……うぁっ!」
 いつもならナカを抉られながら胸の飾りをいやという程弄られたり、耳を塞ぎたい程厭らしい事を囁かれたり、途中で止められて自分から卑猥な言葉で強請らないとイかせてもらえなかったりするのに、今日は違う。
 腰を痛いくらいに掴まれ、只管穿ち、抉られ、掻き回される。己の快楽を得る為だけの動き。
 それなのに俺は……嬉しくて仕方が無かった。
 好きな人が自分で気持ち良くなってくれている。求めてくれているというのが嬉しい。
 いつも先生は余裕で、俺ばかりが気持ち良いみたいで。その先生がこんな風に快楽を貪っているという事実がとんでもなく興奮した。
 後孔を意図して引き絞ったり、先生の動きに合わせて腰を振る。
 きゅうきゅうとナカがヒクつけば耳元で先生が色っぽい呻き声を上げた。
「あ、んっん、っ、せ、んせ……気持ち、いい……? ん、ぁあっおれ、気持ち、っい?」
「はっ……当たり前……だろうが、ぐ……っ」
 その答えが嬉しくて、首を後ろに向けながら力の抜けた笑みを浮かべたら肩に思い切り噛みつかれた。
「いっ……!」
「余裕そうな、面しやがって……っ」
 悔しそうな言葉に思わず苦笑が零れた。
 余裕なんてどこにもないのに。
「そん、なっこと無い……で、……んっんぅっ……」
 言葉を否定しようとすれば、その口を口で塞がれる。
 舌と舌が擦り合わされる感覚に蕩ける意識に「絶対ぇ次はお前に飲ますからな……!」と吹き込まれたが、スピードの上がった抽挿に受け止める事が出来なかった。
「っ、出る……っ出す、ぞ……っぐ、うっ……!」
「あ、やっひっあっあぁっあァあぁ……!!」
 ナカに飛沫を感じ、その時に一番感じる所を抉られて俺も痙攣しながら白を吐き出す。
 荒い息を吐きながら注いだ物を腰を回してナカに塗りたくる先生のモノは全然萎えていなくて。
 明日は多分ベッドから出れないなと意識が遠くなりそうだった。


 次の休暇に本当に媚薬を盛られたのは、また別のお話。






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