雪隠詰め | ナノ


▼ アズ×満


 目を覚ますと腰にがっちりと腕が絡みついていた。そりゃもうがっちりと。
 目線を上に向けると、深い呼吸をしてまだ眠りの中にいる俺の恋人の無防備な顔が目に入る。

 こうやって俺の一日は始まる。

 俺は小さく笑うと時折ピクピクと動いているアズの耳元に顔を近づけ、「離してー」と笑い混じりに囁いた。
 面白い事に、そうすると寝ているのにアズの腕は緩む。
 まるで飼い主に従順な犬の様だと苦笑いしながら、起こさないよう腕を外した。
 そのまま音を立てないようにベッドから起きると両手を上に伸ばして伸びをする。
「……ん?」
 その時何か違和感を感じたが、気の所為かとシャワーを浴びる為に浴室に向かった。


「ぎにゃぁあああああ!!??」
 奇声が部屋に響き渡り、アズが飛び起きるのはその十六秒後。




「ミツル!? どうした!?」
 ばんっと脱衣所のドアが開かれた瞬間に、俺はアズが広げた両腕に飛び込んだ。
「ミツル!?」
「あ、アズ!! 俺、無い! 無くて、なんかある!!!」
「み、ミツル?」
 わたわたと俺は叫んで素っ裸のまましがみ付く。
 な、何なんだ、これ! え、夢!? 夢なのか!?
 寝起きでさらに意味のわからないことを言われ、目を白黒させているアズに申し訳なさを感じる。
 とにかく見てもらおうと、しがみ付くのを止めると数歩後ろに下がった。
「お、俺、何かシャワー浴びようと思ったら……その……」
 一体どこを隠せばいいのか分からない。
 え、やっぱりアソコ? でも無くなっちゃったから別に良くない? いやいややっぱり隠さなきゃダメ? それより今は何かくっついてる胸を隠すべきなのか? え、でも胸ってどう隠すの? 両手? 片手? そもそも見せなきゃいけないから隠しちゃいけなくないか?
 両手をふらふらと意味も無く動かした後、やっぱり恥ずかしくて右手で胸を。左手で下を隠した。
「え、えと……見た、よな? ……もう隠す、よ?」
 そうおろおろ言って目を上げたら、アズがぽかんとした顔で俺を見ていた。
「えっとー……」
「……ど、どういう、ことだ……?」
「そ、それは…俺も良くわかんないけど、無い筈の胸が出来て、有る筈のアレが無くなって……」
「……それは、つまり……」
「じょ、女性の身体……って事……かな」
 二人顔を見合わせ、はは…っと乾いた笑いを一つすると、呆然と呟いた。
「嘘ぉ……」
「マジかよ……」




「とりあえず良く見せろ…」
 腕をそっと掴まれると、隠していた前を再び晒された。
 確かに良く見せ無いと分からないだろうから、逆らわずに見せる……けど。
(――はっず!)
 幾らなんでもそんなに凝視されると恥ずかしい。
 例え付き合っている相手で、何度となく裸を見せ合う事をしてきたと言えども、上から下まで舐めるように見られて恥ずかしくない訳が無い。
「あ、あのさ、流石に俺、恥ずかしい……な」
 おずおずとそう伝え、目だけでアズを見上げると―――アズは鼻を片手で覆って上を向いた。
「え」
「ごめ……ちょ、待て、止めて来る……っ」
「直ぐ戻るから!」と、駆けだしたアズのいた後には赤い液体が落ちていた。
 ……え、鼻血……?
 その点々と落ちている朱は気の所為にして、アズがいない間に後ろにある姿見できちんと現状を直視する事にした。
「うわぁ……本当に女の子だよ」
 振り返り、まじまじとそこに映る自分の身体を見つめた。
 女性の身体になっても心は俺のままなのだから、もしかして興奮するかも……? と少し思ったのだけれど、何も感じない。
 自分の身体だからなのだろうか。興奮というより興味や感心に近い気がする。
 男性の身体を表現すると角ばった四角や三角で、女性は滑らかな曲線だという話を聞いたことがあったけどその通りだと思う。
 肩とか、腰とか、いつもなら硬いそこは柔らかそうな丸みを帯びていた。
「うわ……っ柔らか……っ」
 自分の首から肩をなぞり、二の腕を摘む。
 ……別にたぷたぷと言う訳ではないと思うけど、男の身体ではありえない柔らかさがそこにあった。
 腰も滑らかに括れていて、その下はあった物が無くなって物寂しくなったアソコ。
 手も細く、小さくなってしまった。喉仏が無くなってつるんとした喉から出る声は心なしか高い。
 顔は俺のままなんだけど、何となく顎が細くなった……? というかこうやって女性の身体で見てみると少し母さんの面影がある様な気がする。
 まあ女の子になったからと言って美人になる事は当然無く、顔はいつも通り平々凡々。
 そして……認めたくないけど……。
「ち、縮んだな。これ……」
 がっくりと肩が落ちる。
 だって何となく目線が低い。これは完全に母さんの遺伝だろう。
「なのになんでかな……」
 しょぼん……と目を胸に向けた。
 そこは明らか小さいサイズに分類されると思われる胸。……なんでここは母さんみたいにデカくないんだ……。
 溜息をついて指で突いてみる。
 柔らかい。柔らかいが、これは手の平にすっぽり収まるサイズじゃないか。それも『俺の手の平』で、だ。
「これじゃなぁ……」
 溜息が出る。俺の手の平に収まると言う事はアズの手の平では一体どうなると言うんだ。
 デカくなくても別に良いと思う俺でさえ小さいと思うサイズだ。アズが貧乳好きか聞いた事はないが、その可能性は低いのではないだろうか。
「だって巨乳は男の夢みたいなもんだもんなぁ」
 これじゃあパ……パイズ…………む、胸で奉仕は無理……だと思う。
 え? ていうかアレってどれくらい胸のサイズがないと駄目なの? そして俺の胸のサイズは一体いくつ!
 俗に言うまな板ってほどでもないだろうけど……これは……貧乳だよなぁ……。
「折角女の子の身体なのに……」
 再度溜息をついていると物凄い足音と共にアズが脱衣所に掛け込んできた。
「ミツル!」
 鼻血はもう止まったのかと目を向けると、余りに真面目な表情に俺も真面目な顔になる。
「な、に?」
「シよう!」
「……何を?」
 「子作り!」と声高らかに言ったアズの腹に思わず拳がめり込んだのは仕方が無いと思う。

「確かに俺は女の子の身体になったからそれは可能だと思うよ?でもさ、『はいじゃあそうですか、子作りしましょう』だなんて簡単に言える訳ないと思うんだ、俺は」
 リビングにある三人位は座れそうなソファーに一人で腰掛けてとつとつと喋る。
 ちなみに服は自分のを着ている。
 いつもはピッタリなサイズの服が少し緩いのは何だか悲しい。それも袖や裾が余るから尚更だ。
 まあ、それは取りあえずおいておくことにして。
「だって俺達まだ学生だよ? 勉強とか他にも色々……どうすんの」
 俺は足元で正座しているアズにそう言った。
 俺はともかくアズはのちのちケイナインを纏める様な立場になる訳だ。
 途中で学業を止める訳にはいかないし、俺の所為でそうなるのも嫌だ。
(アズの子供が欲しく無いって言ったら嘘になるけど、さ……)
 女の子の身体になって驚きはしたけど、不思議な事にショックは余りない。
 元々受け身だったというのがあるのだと思う。むしろ、少し嬉しいかもしれない。
 男だったら不可能だった、“子供”を産むという事が可能になるのだから。
(だからこそ、アズの言う事叶えたいけど……)
 子供を一人育てる事がどれだけ大変なのは母さんを見てきたから分かってる。主にお金の面で。
 一人で生活していくだけでも大変だった。
 それを、もう一人増やして、稼ぎのない学生がどうのこうの出来るなんてのは余りに現実味が無い。
「だからさ、子供はその……俺が卒業して、少し経済的にも余裕が……」
 出来るまで待って欲しい。と言おうとしたら反省していた筈のアズが顔を上げてうっとりと口を開く。
「ミツル……マジ可愛い」
「え、全然聞いてない!?」
 大声を上げた俺の両手をがしりとアズが掴んだ。紅い瞳が俺の目を覗き込む。
「俺は後二年したら卒業する。ぜってぇする。試験も全部パスして、ンでもって狗王になってミツルを楽にさせるから、産んで」
「う、産んでって……だから経済的な問題が」
「金は次期候補になった時点であるんだよ。経済的にも大丈夫だ。それでも不安なら、親に金借りて俺が稼いで返す。俺ンとこの血族、王候補が多数出るから裕福だ。な? だから俺の子産んで」
「え、ちょ、だってほら俺、アズの親御さんに挨拶とか――」
「大丈夫。俺の親、ミツルの写真とか動画とか送ってあるからもう知ってる。ミツルの事気にいってるし、そのミツルが俺の子産むってなったら諸手を上げて賛成するはずだ」
「何勝手にしてんの!? てか動画って何! いつ撮ったの!?」
 じりじりと顔を近づけるのを止めて欲しい。
 でもそれより……左の薬指を撫で続けるのを止めて……!
 意図してされるその行為に顔が赤くなる。
「な? 問題ないだろ? ミツルが勉強したいっていうなら家庭教師呼べばいい。女の。初産が怖いって言うなら専属の医者を雇う。女で。俺の実家は近いから、身籠ったらミツルはそこでゆっくりして、俺は許可貰えばそこから学園に通えるからよ。な? な? だからさ、俺の子産んで。俺と――結婚して」
「け……っ!!」
 がっと顔に血が昇った。
 いつもアズの言葉はストレートで、羞恥心で俺はいつも死にそうになる。
「〜〜っ……な、なんでそんなに“今”子供欲しいの……」
 頭を抱えようとしたけれど、頬を挟まれて目を合わせられた。
 アズのルビーみたいな目が、焦った色を浮かべているのを見つける。
「男の時だって心配だったってのに、ミツルが女になって心配でたまらねぇんだよ。ここは男子校だろ? 学園を出て、俺の目の届かない所に行くのはぜってぇ嫌だ。でも女になったってのを黙ってここに居続けるのは、気が狂いそうになるほど心配だ。他の雄に取られたらたまんねぇ。その前に俺の物にしたい」
 俺は、ミツルとの間に誰にも奪う事が出来ない証が欲しい。と、真っ直ぐ言われて、俺は言葉も無く口をぱっくり開けた。
 も、もう言い返す言葉が見つからない。
 いつもそうだ。アズの真っ直ぐで飾らない告白は強いアルコールの様にいっきに身体に回る。そして正常な思考を奪っていってしまう。
「ミツルと俺の子が欲しい」
 その言葉に、俺はとうとう小さく頷いた。

 頷いた俺に満面の笑みを向け、尾をぶんぶんふりながら抱きかかえるとアズの脚は真っ直ぐ寝室へと向かった。
 俺をベッドの上に下ろすと、服の上を脱ぎ始めるアズ。
 まだアズの告白に酔ったままの俺は、シャツを脱ぎ捨てるアズをぼんやりと見つめた。
「あー……俺とミツルの子かぁ……想像しただけでイきそ」
 ベッドに上がりながら恍惚とした顔でそういうアズは引き締まった上半身を惜し気も無く晒す。
 ぱさん、ぱさん、と尻尾がベッドを一定のリズムで叩く音が耳に入った。
 ゆっくりとした動作で俺の上に覆い被さって来るのを確認した途端、下腹の奥できゅぅっと甘い痛みを感じた。
「ん?」
「どうした?」
「う、ううん」
 なんでも無い。と首を振るとアズが心配そうな顔で見る。
「どっかおかしいって思ったら言えよ? 女の身体になったんだし、初めてなんだし……」
 あ。そっか、初めてだ。
 男の身体では何度となくやっているから失念していた。
(――て、ことは、俺……し、処女……?)
 うわぁ、うわぁ……! 何か物凄く緊張してきた……!!
 身体が強張るのがアズに伝わったのか、安心させるように抱きしめられる。
「怖がんな……大丈夫、痛くしねぇようにすっから……な?」
「……わかった……」
 顔を合わせると、自然と唇が重なる。
 そのいつも通りの温かさと感触にふっと身体から力が抜けた。
 服の裾からアズの手が入ってきて、胸を揉む。ビクリと身体を竦ませると唇が離れた。
「あ、……ご、ごめん」
「何が?」
「その……小さくって」
 見たら分かる事だけど、触って更にがっかりさせたのではと落ち込む。
 そんな俺にアズは喉奥で笑った。
「別にこのサイズ俺好きだけど?」
「う、嘘は言わなくて良いよ」
「嘘じゃねぇよ。俺だけのって感じがしていいじゃんか」
 ニィっと犬歯を見せると俺の服を嬉しそうに剥いでいく。
「それにもとは無かった物だし? てか俺はミツルが男でも、女でも関係ねぇよ」
 「ミツルがミツルであれば」という言葉に胸がいっぱいになって、泣きそうになるのを誤魔化す様に俺は手を伸ばすとアズの耳を触った。
 うっとりとアズが目を細める。
「ああ……この指はかわんねぇのな」
「そう?」
「すっげぇキモチ良い」
 そう言いながら胸を揉まれて、またキスをする。
(あ、まただ)
 甘さを伴う痛みがさっきと同じ場所からした。
 嫌じゃない。むしろ気持ち良いのだけれど、ふとその感覚を探ってしまう。
「どうした?ミツル」
「え……うん……お腹が痛い、っていうか……」
 そう言うとアズが慌て始める。
「マジか!? 待て、やっぱり今は止めて――」
「あ、ううん、大丈夫。なんていうのかな、ここからじわっとなんか……」
 下腹に手を置いてどうにか伝えようと言葉を選んでいると、アズが真顔でそれを遮った。
「ここって……“ここ”か?」
 ぐっと指で押される下腹部。
「うん、そうなんだけど……」
「そ、っか……」
 声音に嬉しそうな響きが混じっていて、見上げると片手で口元を覆っていた。
 指の下からにやけている唇が覗いている。
「ミツル……感じてんだ?」
「感じ?」
 へ? と見上げると、優しく下腹を撫でられた。
「女は感じる場所が色々あってさ、その内でも奥で感じるのが一番気持ちイイんだってよ……」
 むちゃくちゃ感じさせてやっから……。
 と妖艶な笑みを浮かべるアズにまた甘い痛みが広がった。




「ひぅうぅ……っあ、ひあ……っ」
(女の人って皆こんな感じなのか……!?)
 後ろの方を使っていた感覚を想像していたのだけれど、違った。
 部分部分が感じる後ろと違って、全体が気持ち良い。ざわざわと全身が粟立ち、足が跳ねる。
(――ま、まだ指なんだよな!?)
 アズの長い指が二本差し込まれているだけでこんなんだったら、本番になったら俺は一体どうなってしまうんだろう。
 それを想像したら、奥の方から何か溢れるような感覚がした。
「今何考えたんだ? すっげえ濡れて来た」
 ほら。と見せられた指から勢いよく目を背ける。
(お、おおおかしいだろ!)
 ローションとか使って無い筈なのにアズの指はてらてらと何かの液体で光っていた。
 いや、知っている。一応男としての知識として女性がそうやって濡れるのは知っている。
 けどまさかそれを自分がするとなると衝撃度が半端ない。だって俺は生まれてから死ぬまで男の予定だったし。
 おそるおそる目を戻して目を疑った。
 アズが舌を出して指を濡らしている液体を舐め取っている。
「ちょ、何して、そんなもの」
「ん? 美味ぇよ?」
 コテンと首を傾げるアズに眩暈がした。
 そうなんですか? 美味しい物出してるんですか? 教えてください女性の皆さん。
「あー……もっと舐めたい……直接舐めて良い?」
「駄目! 絶対駄目!!」
 バッと両手でそこを隠すとアズの喉が上下した。
「カワイー……」
「がっ、眼科行って来い!!」
 流石の俺も絶叫してしまった。


 最初だからと念入りに慣らされるそこからは、ずっと水音が絶えない。
「もう大丈夫か……?」
 ……大丈夫だと思います。
 俺は息も絶え絶えに内心で呟いた。
 なんなの、なんなんだよ。一言で言わせてもらうと……女体って意味が分からん……!
 イく感じがぶわっと全身でイく。んでもって長く続く。おまけに男では考えれないくらいイける。
 既に指で少なくとも三回はイってる気がする。なのに本番は今からだ。
(お、俺おかしくなりそう……)
 枕に顔埋めて躯を震わせる俺の耳にアズが下を脱ぐ衣擦れが聴こえた。
「ん……挿れるぞ」
 後ろから覆い被さるアズの熱の先が押し当てられて、身体が緊張する。
「……っは……ぁ!」
 ずずっと中に入る感覚に背筋が撓った。
 思っていたよりも、痛みは余りない……。
「……あ、くぅっ!」
 ずんっと奥まで突かれた時、鈍痛が走った。
 い、痛かった……けど、後孔を使う時みたいに無理矢理入れている感じが無いというのはやっぱり挿れるべき所か、出すべき所かの違いなんだと思う。
「……っは……全部入った」
 満足げなアズの声に俺も嬉しい。
 後ろから髪を梳かれて、耳に唇が落された。
「……ミツル」
「うん?」
「子供産んでな?」
「……まだ出来ても無いのに」
 小さく笑うと、真剣な声で「ぜってぇ出来る」と返された。
「んなの分かんないじゃんか」
「大丈夫だ」
 ぐっと腰を掴まれ、回転させられて顔を合わせる。
 その時に中を擦って変な声が出た。
 きらきらと輝く紅の目が俺を見つめて優しく細められた。
「たっぷり注いでやるから、ぜってぇ出来る」
「……え?」
 優しく細められたと思ったのに、瞬きをしたら、それは輝きを増して淫靡な物に変わっていた。
「だから……」
 アズは脚を持ち直すと、ベロリと舌を出して自分の唇を舐めた。
「孕めよ? ミツル」




「やっ、あっ、あっ、あっぁああ!ア、あ…!やんっあ…!」
 柔らかみを増したミツルの太腿に指を食い込ませて脚を広げさせる。
 最初は俺を止めようと伸ばされていた腕は、今は自身を抱くように縮込められていた。
「ひ、うぅ……っア、ズ!アぁ、ず……っ! も、もう、ヤメ、やぁああ!!」
 いつもより高めの声が耳に心地いい。
 小さい事を気にしていた胸も、俺が突き上げる振動で動いていた。
「んっ、まだ……だっ、まだ……」
「お、俺、も、ダ……っあっ、あっ、あっ! お、おかしく……っ」
 俺を咥え込んでいるそこは処女膜を突き破った事で滲む血と、ミツルが感じる事で溢れだす愛液でぐじゅぐじゅに泡立っている。
「……っぁ!?」
 びくりとミツルの脚が跳ね上がった。
「あ、ああ!? や、待って! うご、動か、ないでぇっ!! や、やぁっ!」
「ん? どうした?」
 反らされた喉に舌を這わす。
 『どうした?』と聞きながら律動は止める事は無い。だって、俺の子を孕んでもらうのだから。
「ヤダ、ヤダっ何か、クる……っこ、わい……怖い、よっ」
「……ああ……大丈夫だ」
 女としての絶頂に怖れを抱くミツルを抱きしめて、優しく諭す。
「んっ、気持ちイイんだろ? ここ……っ」
「ああぁああ!! や、ヤメっ!」
 腰を深く突きだすと、先にとんっとんっと当たる感覚がした。
 数回突いた後、深くハメ込んでぐりぐりと押し付ける。
「ここにぶっかけてやっから……」
「ひっ」
「安心して……イけ」
「や、ぁあぁあああっ!!」
 びくん! と大きく腰を波打たせて全身で達したミツルの中は最高で、俺は呻くと大量の精液を宣言通りミツルの中で撒き散らした。
 ひくひくとまだ痙攣しているミツルを抱きしめて額に一つキスを落すと
「ここから溢れだすまで注いでやっからな……」
 と耳に吹き込むように囁いて、再度律動を始めた。
 「お、れ…しんじゃ…ぅ」という吐息とほぼ変わらないミツルの訴えは聴こえなかったという事にしておこう。




 腕の中で身をぐったりとさせるミツルを抱きしめて、もう中に子供が出来ているかのように腹を撫でる。
 いや、出来てるに違いない。
 だってあれだけ注いだんだ、出来ていて欲しい。
 名前何にしようか……などと想像しつつ、ミツルの肩にキスを落した。
「身体は冷やさない様にしろよ、んでもって栄養つくもの喰わねぇとな」
「アズ……」
「うん?」
「お、俺、子供出来なかったらどうしよう……」
 ずっと俯いていたミツルは目の淵に涙を溜めて俺を見上げた。
「良く考えたらさ、俺、アズと違って人間じゃんか? ……子供出来るのか分かんないし、もしかしたら女の人の身体としては不完全かもしんない。明日には男に戻ってるかもわかんない……っ」
 言ってて不安になって来たのか、青ざめて小さく震え始める。
「ご、めん……アズがあれだけ欲しがってたのに、俺、応えられなかったら――」
「ミツル」
 震えを止めるかのように抱きしめると、背を撫でさすった。
「確かにミツルと俺の子は欲しいけど、それよりも俺はミツルが欲しいんだ。だから子供が出来なくっても、男に戻っても、俺はミツルが好きな事に関係はない」
 実を言うと、ミツルが妊娠するためのセックスを断っていたら無理矢理してでも孕ませるつもりだった。
 しかし、それは子供が欲しいのではなくてミツルを完全に手に入れる為だ。
 勿論、子供が産まれたらミツルと同じくらい大切になるだろう。
 でも今は子供を使って自分の物にしたいと思うくらいミツルが欲しい。
 それが子供にとって失礼な事だと分かっていても欲しい。
 だから、確かに子供が出来なかったら悲しいといえば悲しいが、それは他の雄にも言える事だ。
 それはそれで、俺以外の子を孕んで手の内から毟り取られる心配がないから良しだと思う。
「まぁ……男に戻らなくて、女のままで出来なかったら、出来るまで何度でもしようなっ」
「お、俺、死んじゃうって……」
 顔を引き攣らせるミツルを見て笑うと二、三度尾を振った。
 こんな歪んだ考えをミツルに話すつもりは無い。
 嫌われたくないから。……嫌われたくないけど、でもこれだけ言いたいと時々思う。
(どれだけ俺が歪んでも、ミツルが好きだという気持ちは歪むことはない)
 むしろその気持ち故に歪んでいるくらいなのだから。
 そんな万感の想いを込めて俺はミツルの額に口付けると、再度ミツルの腹を撫でた。




 市販の検査薬を覗き込んで喜びの余り泣きだすなんて事が、一ケ月後に待っているのを、二人は知らない。






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