雪隠詰め | ナノ


▼ ルエト×満


 昼休み。 
俺はるんるんな――男がるんるんとかどうなんだというのは置いといて、そんな気持ちで出かけた。
 実は先日、良いものを見つけたのだ。




「確かここらへんだった気が……」
 前回の≪追いかけっこ≫が終わって、ザインさんといつもの森から出る時に目の端に入った赤い物。
そ の時は会場に戻らなきゃいけなかったから放っておいたけど、俺の目が間違いじゃなかったらアレは――。
「やっぱり!!」
 それは赤く熟れた木イチゴだった。


 うふふと気持ち悪い笑いを零しながら一つそれを摘み取って口に入れる。
「〜〜美味しい……っ」
 綺麗な赤、ぷちぷちとした感触、みずみずしくて甘酸っぱい味、もー最高……!!
 なにを隠そう、俺は大の果物好き。とりあえず樹についてて色が付いている実は口に入れてみたくなる。
 もぎ取る、食べる、美味しい。の三拍子がそろったら俺は幸せだ。
「二夜に持って帰ってあげようかなぁ……」
 もう少しないかと茂みをかきわけて数分、俺は目の前に広がる光景に息を呑んだ。
「なに、これ―――」
 そこは一面の木イチゴパラダイスだった。

 ――なんですかここは、天国ですか、ヘブンですか、バルハラですか、桃源郷ですか そうですか。
 とりあえず……。
「いただきます」
 俺は目の前の恵みに両手を合わせ、誰にか分からないが深々と頭を下げて木イチゴに手を伸ばした。


 もくもくと木イチゴを頬張る。
 まるで木イチゴを食べる機械のように手はイチゴを摘み、口は咀嚼を続ける。
 これはあれだ マク○ナルドのポテトを食べてる状態に近い。『なんで俺食べ続けてるんだろう……?』という無我の境地だ。
 もう脳内はバラ色。このまま体中にイチゴの匂いが染みついてしまえば良いのに……と半ば本気で思っていた俺は、後ろに近づく存在に気付かなかった。
「何をしている」
 突然の声に驚き、思わず手に持っていた木イチゴをばらばらと取り落とした。
「あ、ああ!」
 慌てて拾い上げて後ろを向くと、そこには黒い三本脚の獣……。
「ルエトさん?」
 小首を傾げた俺の顔を見て、ぎょっと黒ヒョウ姿のルエトさんが目を見開く。
「お前小動物でも喰ったのか?」
「はい?」
「口の周りをそんなに朱に染めて……」
 朱? 自分の口を掌で拭うと、べっとりと赤い汁がついた。
「うわっ、これ木イチゴの……」
「木イチゴ?……ああ後ろのか そんなになるまで食べたのかお前は……」
 呆れたような顔をするルエトさん。
「右にもついてる、違うもう少し右だ……右だといってるだろうが」
 ルエトさんの指示に従って顔を拭うけれど、言っている場所を中々拭えない。
 ったく……と溜息をついたルエトさんの顔がアップになると、ベロリと口元を舐められた。
「……甘い」
 不機嫌そうにルエトさんの顔が離れる。
「……あ、どうも」
 一瞬何が起こったのか分からなかったけど、ルエトさんが舐めて綺麗にしてくれたのだと気付く。
「甘いの嫌いなんですか?」
「……好まない」
「なんですかその回りくどい言い方……」
 こんなに美味しいのに……。
「そんなに好きなのか?」
「摘みたてはそれに輪をかけて好きです。ほら美味しいですから、食べてみて下さいよ」
 側の赤い実を摘むとルエトさんの口に近付ける。
 眉根を寄せて嫌そうな顔をしていたが、しぶしぶと開けて俺の指ごと口に含んだ。
「どうです?」
「……甘い」
 く……だからそれが美味しいのに……。
「じゃあなんで此処に来たんですか?」
「ここは良い昼寝場所なんだ」
 じゃあこの楽園に何の用なんだという八つ当たり気味に聞くと、ルエトさんはそう言いながらごろりと黒い肢体を日向に横たえた。
「人も寄らず、静かで、暖かい」
 うっとりと目を細める黒い豹。心なしか低くごろごろと喉の鳴る音が聞こえる気がする。
「じゃあ俺邪魔しないように食べてますね」
「まだ食うのか……」
「俺は煩悩が満足するまで食います」
 勝手にしろと呟いて目を瞑ったルエトさんを後ろに、俺はまた食べ始めた。




「あー……満足」
 お腹いっぱいになった俺は語尾にハートがつきそうな声でそう言うと、ルエトさんを振り返った。
 ピクリともしないしなやかか黒い身体は日光を燦々と浴びて気持ちよさそうだ。
 思わずそっと手を伸ばす。何時ぞやのように止められるかと思ったが、熟睡しているのか今度は触れる事が出来た。
「凄い……」
 なめらかな黒い毛は日光とルエトさんの体温でほかほかと暖かい。
 そういえばお腹一杯になったからか少し眠くなってきた。
「……少しくらい良いかな……?」
 少し考えた後にルエトさんの腹部に頭を乗せる。
 太陽と草の匂いに混じって少し花の匂いがした。
 どくんどくんと心地良い鼓動と頬に感じる柔らかい毛に、俺は自分でも驚く程早く眠りに引きずり込まれた。




「……おい」
 低い声がそっと紡がれる。
「……おい、こら、何をしている」 
 むくりと上体を起こしたルエトは、己の身体に顔を埋めて眠る存在を見つめた。
 起こしてやろうかと思ったが、その幼い寝顔にその気が失せる。
「……ったく……また汚しやがって」
 そっと顔を寄せて口元をベロリと舌で拭う。
「……甘い、な」
 その呟きは最初ほど不機嫌なものを含んでいなかった。
 ルエトはそよぐ風に髭を靡かせ、緑の目を細めると己の脚の上に頭を預けてまた目を閉じた。






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