雪隠詰め | ナノ


▼ ザイン×満 A


 ザインさんの告白を受けて悩んだ末、OKをしてからこれで一ヶ月。
 悩んだといっても男の俺なんかで良いのかという意味で、俺もザインさんの事が好きだったから本当に嬉しかった。
 そんな幸せ絶頂の俺は、何かした方がいいのかと頭を抱えていた。
(――記念日でもないんだよね……)
 でも、一ヶ月って何かこうキリが良いっていうか……。いやいやキリが良いって何よ俺!?
 でもなんかザインさんってこうイベント好きそうだよなぁ……。いやでも、逆に重いとか思われたらどうしよう……!?
 うーうーと唸っていると。
「どうした……?」
「うわぁあ!?」
 考えていたザインさん本人の声が後ろというか、上からして俺は大声をあげて跳びあがった。
「ざざ、ザインさん!」
 急に話しかけないでください! と俺は大声を上げてしまった恥ずかしさと、考えていた本人の登場で赤面した。
 そんな俺を見てザインさんは甘く微笑む。
「何か……考えていただろう……?」
 何を考えていたんだ……? と聞くザインさんに、あんたの事だよ! と心の中でつっこむ。
「い、いえ……なんでもないです!」
 俺が両手を目の前でぶんぶんふると、手を伸ばして俺の頬に触って。
「なんでもなくは……ないだろう?」
 それとも……俺には言えない事か? と言いながらゆるゆると撫でる。
 微笑んでいるが、目が笑っていない。
 こ、こえぇえ……! と俺は小さく震えた。
 付き合ってわかった事だけど、ザインさんは独占欲が相当強い。余りにもベタな話だが、蚊に刺されたのをキスマークと間違えた時なんて凄かった。
 何が凄いって……ナニが凄かったです。
 もう言い訳をしようと口を開けばキスの嵐で、その後は腰がどうにかなるんじゃないかってくらい喰われました。
 んでもって、ようやく誤解が解けたと思ったら、その後は仲直りと称してもうどろどろになるまで甘やかされましたよ。
 三日くらい腰の痛みが取れなかった……。
「ち、違いますよ!!」
 慌てる俺に、じゃあ言えるな? とばかりに微笑むザインさん。
「あ……や……その……悩み事? があって……」
 そうそうと頷く俺にザインさんはにっこりと。それはもうにっこりと笑って。
「そうか」
 と言うと抱きかかえられた。
「へ!?」
 そのまま大股でどこかへ向かうザインさん。いや……この方向はザインさんの部屋だ。
 俺、なんか変な事言ったか!? と慌てる俺をよそにザインさんは自室のドアを開けて、俺を優しくベッドの上に下ろした。
 ちなみにブリューインの人は皆でかくて、人数が少ないので一人部屋を充てられている。ベッドもかなり大きい。
 俺の頭を撫でながら。
「悩みなら……他人のいるところでは……言いにくいだろう?」
 と柔らかく微笑むザインさん。
 さすが紳士……! 優しい……優しいけど、今回はその優しさも意味無いよ! だって悩みの種が目の前にあるんですもん!
「あー……その……」
 もごもご言いながら思わず俯いてしまう。
「もしかして……俺の事か?」
 静かにザインさんが聞いた。
 さすがザインさん。わかっていらっしゃる。おずおずと頷く。
「……そうか……なら言えないな……」
 少し寂しそうな声にばっと顔を上げると、声と同じように少し寂しさを滲ませた笑みを浮かべていた。
「あ……」
「一つだけ良いか?」
 ザインさんの手が頭から頬に下りてくる。
「俺の事が……嫌いになったとか……そういう悩みか……?」
 何かを堪えるような表情でそう聞くザインさんに俺は少し腹が立った。
「……そうだって言ったらどうするんですか?」
 目を見開いてザインさんが息を呑む。
「俺がザインさんを嫌いになったって、愛想が尽きたって言ったら、それで はいじゃあさよならですか?」
 泣きそうになってまた俯く。
「……俺のどこが……嫌いになったかきいて、直す」
 それを直すのが待てないと言うなら……一緒にいるのが苦痛なら……。と絞り出すような声で言うザインさんに我慢できなくなって俺は抱きしめた。
「馬鹿ですか!? 俺はザインさんの事が大好きです!! 直すとこなんてありません!嫌いなとこなんかないし、むしろ俺の方が嫌われやしないかって不安なくらいでっ! 考えてたのだって、付き合って一ヶ月になるから何かした方がいいかなとか、でもそんなの重いとか思われないかなって……!」
 あー……言ってしまった。
「それは……」
 俺を抱きしめる腕に力がこもる。そのまま押し倒されてキスをされた。
 軽くふれるだけのものを。
「凄く嬉しい」
 目を喜びで輝かせながらザインさんは微笑んで――そのまま俺の制服を脱がしにかかった。
「な!? 何しようとしてるんですか!?」
「……ナニ……?」
 止めてください! 俺そんな言葉ザインさんの口から聞きたくありません!!
 手際良く服を脱がせるザインさん。
 気付けば俺は上に何も着ていなくて、ザインさんの指はズボンにかかっていた。
「まっ、待って、待ってください!!」
 真っ赤になってザインさんの手を掴んで止めさせる。
 付き合ってこの行為はもう何度もしているけれど、なかなか慣れることはない。
 慌てる俺の顎を指でくいっとこっちに向けさせると、ザインさんはまたキスをした。
 でも今度は驚いた俺の口の隙間から舌が入り込んでくる深いもの。
 歯列をなぞり、上顎を舐め、俺の舌を絡めとってゆく。ザインさんの唇が凄く熱い。
「ん……っ、ふっ……んんっ!!」
 息苦しくなって、ばんばんと胸板を叩くとようやく離れてくれた。
 唇をつぅっと糸がつなぐ。それを指で切って俺の唇を撫でながらザインさんは本当に優しく微笑む。
「ミツルが嫌なら……俺はしない……」
 ここまでしといて何を言うのかこの人は。
 好きな相手にあんなキスをされて、これで足りると思っているのだろうか。それにこんな所で止めたら自分だって辛いだろうに。
 でも、ザインさんは俺が嫌と言えば絶対にしないだろう。それがザインさんだ。なによりも俺を優先してくれる。
 俺は少しザインさんを睨むと、首に手を回した。
「……か、身体が熱いです……責任、とって……ください」
 そう小さく囁いた。


「あっ……は……っんっんっんぁぁあっ」
 小さな声で誘うと、ザインさんは凄い速さで残っていた服を脱がした。
 思わずまた制止の声を上げようとした俺はザインさんの欲情に濡れた目を見て呑まれてしまって――今に至る。
 がくがくと揺さぶられるリズムと同じリズムで口から声が漏れる。
 口を開くと自分の声だと信じたくないくらい甘い嬌声が飛び出るから必死で口を噤むのに、ザインさんはそれを許さないとでも言うように、口に手をやると激しく奥まで突くものだから俺はいつも声を抑えるのに失敗する。
「あ……あ……ザっインさぁあ!!」
 ずちゅずちゅと卑猥な水音と自分の声が響いて、たまらず両耳を手で押さえる。
 それを見てザインさんはふっと微笑むと、耳を塞いだ掌に唇を落として、指の隙間から腰にクる低くて甘い声で
「手を離せ……ミツル」
「……! ひぁっ!? んぁああっ!!」
 ……し、信じられない……名前を呼ばれただけでイってしまった……。
 余りの恥ずかしさに涙が滲んで来る。
 そんな俺の目の縁を指でゆるゆるとなぞってザインさんが優しく笑った。
「可愛い……ミツル……」
「かわいくなんてないです……っ!」
「可愛い」
 目を細くするザインさんは本当に格好いい。
 緩やかに波打つ髪が少し汗に濡れているとことか、肌蹴て見える割れた腹筋とか、吐息とか、指とか、もう全部格好良くて……すごい色っぽい。
「……てか、なんで俺裸なのにザインさんは服着てるんですかっ」
 恥ずかしさで八つ当たりすると。
「じゃあ……ミツルが脱がしてくれるか?」
 そう言って口の端を上げて妖しく微笑んだ。
 言われた通り、おずおずと手を伸ばして肌蹴たシャツの前をつかんだ瞬間、ザインさんが突き上げた。
「んぁうっ!?」
 予想外の刺激に俺はシャツを握りしめて震える。
「な、にするんですうぁああっ、ひぁっ」
 ずぐずぐと突き上げられて、俺はシャツにしがみつくしかない。
 くす……っと笑うザインさんが小憎たらしくて、俺は自分からザインさんの唇を奪った。
 目を見開く気配が一瞬したが、途端に腰の動きが速まる。
「いぁああっ、あっ、も……っ、いっちゃ……!」
「……っ……俺も……だっ」
 うっすらと目を開けると、快楽に歪むザインさんの顔が目に入る。
 それを見た瞬間、俺は愛おしさで中のザインさんを思い切り締め付けてしまった。
「うっ……く……っ」
「んひゃぁあああっ!!!」
 その締め付けでザインさんはナカにどくどくと欲望を注ぎ込んで、その感覚に俺は白濁をザインさんの腹部に散らした。
 繋がったまま、ザインさんが汗で濡れた俺の髪を梳く。
 この時間が俺は凄く好きだ。シてる時も気持ち良くて好きだけれど、ザインさんの顔がしっかり見えないから。
 ザインさんの額に触れて、そのまま 瞼、鼻筋、頬、唇となぞる。その間ザインさんは微笑んだままじっとしていた。
「一ヶ月記念……何にしましょうか」
 こうなったきっかけの問題をふと口にする。
「何か欲しいものありますか? ザインさん」
「……ミツル」
「却下です」
 悲しそうな顔をするザインさんに俺は真っ赤になりながら、既にあげたものはあげれませんと返すと、驚いた顔をした後、「そうか……」と嬉しそうに目を細めた。
「……じゃあ……『ザイン』と呼んで欲しい」
「? 呼んでるじゃないですか」
「“さん”をつけないで、呼んで欲しい……」
 そんな事でいいんですか? と小首を傾げる。
「ザイ、ン……さん」
 ……あれ“さん”付けちゃった……ってか何これ、思ってた以上に恥ずかしい!
 “さん”を取るだけなんだよ!? でもなんか、凄い恥ずかしい!!
 あぐあぐと口を開いたり閉じたりする俺をザインさんは凄い期待のこもった目で見つめて来る。
「ザ…………ザイン……うひゃぁあ!?」
 ようやくポツリと小さく言うと、まだ俺のナカにいたザインさんがぐんっと大きくなった。
「あっ、なに大きくっ、んんっ、してるんですかぁあっ!!」
 ばんばんと厚い胸板を叩いて抗議するが、耳元で囁かれた「可愛いすぎて……な」と熱っぽい声に思わず言葉を飲んでしまう。

「それに……」
 もうミツルは俺のものなんだろう……? と妖しく微笑むザインさんに、俺の馬鹿――!と心の中で叫んだが、時すでに遅く。
 俺は次の日の朝まで喘がされる事となった。






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