雪隠詰め | ナノ


▼ ザイン×満


「えーっと……どこだったかな……」
 台に乗って棚を漁る。もうちょっと奥の方に置いてあった気もするけれど、棚が高すぎて見えやしない。
「やっぱこういうのも、持ち主のサイズに合わせてあるのかな、っと」
 それならばなるほど、俺が台に乗ったって届かない訳だ。
 いや、台って言ってもそこらへんに置いてあった頑丈そうな低い箱を代用しているだけだから全然足りないし、その上で爪先立ちしてもまだ手がぷるぷるする。
 いっその事この部屋の持ち主に取ってくれるようにお願いした方が早いかもしれないな、と思った俺の指先に何か固い物が触れた。
「お?」
 目当ての物ではなさそうだが、一体なんだろうかと取っ手らしき所に指をひっかけて前に引きずり出す。
 あともうちょっと……という所でその物体がこちら側に傾くのを感じるのと、そしてこの部屋の持ち主が「大丈夫か……?何か手伝おうか……」と覗き込むのは同時だった。




「あちゃー……」
 もうそう言うしかない。
 傾いたのは直径二十センチくらいの壺みたいな形の入れ物で。
 そこから零れてきたのは金色の粘液だった。
 甘ったるい匂いを放ちながら腕を伝ったそれは、慌てて入れ物を戻してくれたザインさんのお陰で頭上に零れる事は無かったが、まぁ惨事には変わらない訳で。
「ごめんなさい……」
「いや、別に大丈夫だ……むしろこっちが、すまなかった……あんな所に、置いておいた方が悪い……」
「いやいやそんな事ないですから! 最初っからザインさんに頼んでおけば良かったのに……」
 ザインさんが俺が作ったものを食べたいと言うので台所で色々頑張っていたのだけれど、必要な調理器具が取れなくて奮闘していたらこの結果だ。
 腕を伝って袖の中までねっとりとしているこれは、洗濯しないとどうしようもないだろう。
「これ、蜂蜜……?」
 独特の甘い匂いにすんすんと鼻を動かすと、ザインさんが苦い笑みを浮かべた。
「ああ……。親戚が、こういう職についててな……時折こうやって……送ってくる」
「あれ? 甘いの嫌いですか?」
「いや嫌いな訳じゃないが……こんなに沢山送られても、な。……使い道が、わからない」
「蜂蜜かぁ……スイーツじゃなければ、煮物の砂糖の代わりとか、肉を焼く時にちょっと塗っておくと柔らかくなるとか聞いたことありますけど……どうなんだろ?」
 指を濡らすそれを口に入れた。
 一瞬金属臭いような癖のある味がした後に喉に絡み付く甘味が広がる。
 この癖のある感じが好き嫌いを分けるのだと思う。でも決して俺は嫌いじゃないし、蜂蜜を使った料理は癖も消え、優しい味がするから好きだ。
 って言っても俺は料理なんて自分が食べれる程度のレベルしか作れないから、余り隠し味とか凝った事はしないのだけど……。
「後は喉が痛い時に舐めるくらいかなぁ……それにしても、ザインさんに蜂蜜とか似合いますね」
 指を口に含みながら笑う。
 ザインさんは分からないかもしれないが、クマに蜂蜜といったらあの眠そうな黄色いクマを思い出す。
 壺に入っている所なんかそっくりだと思ってくすくすと笑うと、ふいにザインさんにもう片手を取られた。
「あ、触ると付きます、うわぁっ!?」
 制止の声が驚きでひっくり返ってしまったが悪くないと思う。
 何故ならザインさんが舌を伸ばして俺の指を舐め始めたからで。
 厚い舌がぬるりと這わされる感覚に慌てて手を引っ込めようとして、凄い力で止められた。
「ナトリ……良い蜂蜜の使い方を、見つけたんだが……試してみるか」
「え……いや、その……え、遠慮しま」
「試して、みようか」
「はいぃ……っ」
 にっこりと向けられた笑顔は何故か酷く恐怖を誘う物で、俺はがくがくと首を縦に振るしかなかった。


「ざ、ザインさ……」
「ん?」
「汚れるから止めましょうよ……」
 俺は半裸になりながらずりずりと後ずさった。
 ザインさんの後ろにさっきまで身に着けていたシャツが放り投げられて落ちている。
「俺が掃除すれば……問題ないだろう?」
「そ、そういう訳でもないような……」
 がっと腰を掴まれたと思ったら、蜂蜜に濡れたザインさんの指が俺の胸を滑った。
「……っ」
「……美味そうだな……」
 既に立ち上がっている胸の飾りを潰される様に触られて体がびくつく。
 ザインさんの指が離れた後、てらてらと何だか厭らしく光るそこから目を逸らした。
「ひゃうっ!?」
 だけどそれも驚きの声と共に元に戻る。
「な、なにして……何して……!!」
「甘い……」
 蜂蜜で濡れたそこをザインさんがべろりと舐めあげ、軽く歯を立てた。
 そこから走る快楽に身を捩る。前は何も感じなかったそこはザインさんによって性感帯の一つにされてしまった。
「や……ザインさ、止め……」
「最近、喉が痛かったからな……丁度良い」
「そんな話聞いてませ、ちょ、待……っ!」
 ズボンにも手を掛けられ、慌てるとザインさんの顔が近づいて軽く唇に触れた。
 ほんのりと甘い味に抵抗を止める。
 何度か触れる程度のキスを交わした後、ふっとザインさんが笑みを浮かべた。
 間近で甘く笑みを見せられるとどうしてこうも絆されてしまうのだろうか。
「……ずるい」
「? 何がだ……?」
「俺、ザインさんの笑顔に弱いのに……そんな顔で笑われたら抵抗出来ないじゃないですか……」
「……嫌か?」
「……いやじゃ、ないです……」
 そう。嫌じゃないから困るんだ。
 もうその場で消えてしまいたいくらい凄く恥ずかしいけど、嫌じゃ、ない。
 赤面して俯いた俺の頬をザインさんの高い鼻がすり……とまるで顔を上げるよう促すように擦る。
 蜂蜜の入っていた容器に手が再び突っ込まれ、ねっとりと金色を絡ませた指が俺の体を這う。
「それなら……良かった」
 ああもう。
 こうなったら俺はまな板の上に大人しく寝っころがる魚みたいになるしかない訳で。
 諦めの溜息というには熱のこもり過ぎた息を俺は口から吐いた。


「あ、う……う……」
 臍に溜まった蜜をザインさんの舌が舐めとる。
 全身に蜂蜜を塗られ、隈なく舌を這わせられる。それはとんでもなく執拗な愛撫となり、自分の中心はとうの昔に触れて欲しげに勃ち上がっていた。
「……こっちは、自分から蜜を溢れさせて……」
 膝下までズボンと下着はずり下げられていて、もう既にそこがどんな状態かと言うのが丸見えだ。
 焦らしに焦らされて先走りで先端が濡れているそれをザインさんの指が愛おしそうにそろりと撫でた。
「あ、あ……」
 期待で胸が高鳴る。
 触って欲しい。もっと、もっと……。
 自分が今どんなに欲に濡れた顔をしているのか分からないまま、俺はただザインさんの手を求めて微かに腰を揺らした。
「ふっ……素直でいい子……だな」
 ザインさんが優しくもいやらしい笑みを浮かべる。
 再び蜂蜜で濡らした指が耐え切れないと言う様に震える俺のに近づき、その指が触れるのを息を詰めて待っていると、あともう少しという所で指が止まった。
「……そうだ、ナトリ……ナトリは、甘いの……好きか?」
「……っへ?」
 期待に潤んだ目でザインさんを見れば、甘い笑みの中に何かを企んでいるような色が見える。
 その色に誘われるように口を開く。
「は、い……」
「そうか……なら、食べるか……?」
 ザインさんは淫猥としか表現できないような笑みを浮かべて、自分のズボンの前を寛げた。
 ブルッとはじけるように出てきた臨戦状態のそこに、ザインさんが蜂蜜に濡れた指を滑らす。
 とろりとした蜜に塗れた大きな雄は卑猥すぎて、思わず唾を飲みこんだ。
「……食べて、みるか?」
 ふっと浮かべられた笑みを見つめながら、恐る恐るその怒張に口を近づける。
 ……ああどうしよう。目の前のそれに喉が渇く程惹かれる。
 熱で蕩けだす蜜は、むわりとした甘い匂いを放っていた。
 震える舌でそれを、ちろりと舐めとる。
 舌に広がる甘い味はさっき自分の指に付いていた蜜となんら変わりない味なのに、どうしてこんなに体が火照るのだろう。
 俺はいつの間にかその甘く厭らしい味を堪能するように、ザインさんの股間にしゃぶりついていた。
「んは、ん……ちゅっ、むぅ……っ」
 ザインさんのガタイに見合ったサイズのペニスは口の中に収まりきれるわけが無く、口をめいっぱい広げても先端部分しか入らない。
 でも蜜は根本まで塗られているから、口を離して竿に舌を這わせる。
 ねっとりとした蜜は一回で舐めとれるものでは無くて、何度も何度も舌を往復させるとふと頭に手を乗せられた。
「……ぁ、ザイン、さ……っ」
 膝立ちのザインさんに四つん這いで舐めていたのだが、顔を上げるとそこには蜂蜜よりもっと甘い笑みを浮かべた大好きな人がいて。
 味、匂い、五感全てが甘くて頭がクラクラする。
「ミツル……」
「んぁっ」
 名前を呼ばれただけで奥が疼く。
 もう身も心もザインさんに染められてしまっている俺は、どうしようもないと本当にそう思った。
「ミツル……横になるから、上に乗れ……」
「ん、ふぁ……」
 ザインさんに言われるまま、横になった大きな体の上に自分の体を重ねる。
 どくどくと鼓動を刻む胸を感じながらうっとりと目を閉じると耳元で笑われた。
「ふっ……違う、ミツル」
「え?」
「逆だ……俺のそれ、まだ甘いだろう……?」
「……え」
 それ、とは勿論さっきまで夢中になって俺がしゃぶっていたやつで。
 てらてらと唾液と蜜で光るそれを見て俺は少し赤くなった。
「ほら……」
 催促するように軽く腰を振られて、ふらふらと顔を寄せようとしたらザインさんに腰を持ってぐるりと百八十度回転させられた。
「え、ちょ……!!」
 これだと確かに口でしやすいけど、それはつまりザインさんに尻を向ける形になるわけで。
 え、これってシ、シックスナイン……!?
「ザインさ、んぁ!」
 再びたっぷり蜜を纏った指が後孔につぷりと挿入る感覚がした。
 くちゅくちゅと中で回されれて、腰を戦慄かせながら縋る様にザインさんの逸物を掴んだ。
「……っは……、ほら、ミツル……」
 腰を上げて頬に軽く押し当てられたそれを唇を開いて咥内に入れる。
 蜂蜜の味は大分薄まっている気がするけれど、まだ甘いそれをちゅくちゅくと吸っていると後孔の指が増やされて思わず口が離れてしまった。
「あ、あ、ザイン、さ……」
「エロい、な……奥から……蜜が溢れだしてくる……」
 ひくひくと開閉するそこは確かに窄まる度にぷちゅり……と中から体温で解けた蜂蜜が溢れだしてくる感覚がする。
 それを間近でまじまじと見られていると思うだけで恥ずかしくて死にそうだ。
「ひっ!? 何!? え、うそ、な、やめ……!!!」
 ぬるりとした指とは違う感覚に声を上げる。
 一瞬なんなのか分からなかったが、ぺちょり、ぺちょりという音に顔が真っ青になった。
「止めてください、お願いザインさん……!! そんな、やめて……!!」
「溢れてくるんだ……仕方ないだろう?」
 双丘に顔を埋めてる所為かくぐもった声がさらに羞恥を煽る。
 慌てて意識して後孔をきつく引き絞ると、まるでノックするように舌先でつんつんと突かれた。
「ミツル……」
「やだ、嫌です……っ」
 頑なに首を振って拒否をすると、快感が全身を走って背を反らす。
 俺の中心がザインさんに握り込まれ、蜜で濡れた手でゆっくりと扱かれていた。
 爆発寸前のそれを放っておかれたわけで、だからそんな刺激に意識が全部持っていかれるなんてあっというまで。
 緩んだ後孔に、ザインさんは舌を挿し込んでしまった。
「あ、やぁあああっ!!」
 中を舐められる感覚に生理的な涙がどっと溢れた。
 じゅるじゅると吸われる音から逃れるように身を捩るが、音は全然止んでくれなくて。
 とうとうザインさんの気が済むまでそこを弄られた。
「……っはぁ……吸っても吸っても、中から……蜜が溢れてくる、な……」
「そんなわけ、ないじゃないですか……っ」
 ぐすぐすと鼻を鳴らして抗議する。
 弄られ倒されたそこは熱を孕んで、舌では届かない奥が、疼く。
 体に手を差し込まれ、再び回転させられるとザインさんと顔を突き合わせた。
 蜂蜜よりずっと甘い笑み。金色の蜂蜜のようにとろけそうな眼差しにいつも俺は溺れてしまう。
「ミツルは、どこもかしこも……甘い」
「……ザインさんだって甘かった……」
「ふっ……そうか……?」
 孔を弄られ、ぴとりと灼熱の塊が押し当てられた。
 ああ、ようやく……。
 期待に震えながらザインさんを見上げると、厚い唇が瞼に落ちて
「――っ!!」
「……っ、く……っ」
 声さえ上げる間もなくずぐりと熱が奥まで突き刺さった。
 大きすぎる熱を受け入れる事は半端じゃない負担がかかるのだけれど、そんなの気にならない程満たされた気持ちになって、俺達は蜂蜜の味がする舌を絡め合い、腰を動かし始めた。
 甘い匂いが満ちるキッチンの床で、全身が蕩けて一つになってしまえば良いのに……と思いながら。






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