雪隠詰め | ナノ


▼ ニヤ×満 B


「っはぁ……」
 溜息を吐いて、ソファーに崩れるように座る。
「疲れたー」
 ゴキゴキと首を鳴らしてネクタイを緩める。
 こちらの世界に残り、エレミヤ先生に色々お世話になりながら社会人になり、こうやって職に就けた。そして最近その仕事がとても忙しかったのだ。

 呻きながら目頭を揉む。
 ぐぅっと体を反らせて伸びをすると、足が前に置いてある机に当たった。
 学生時代と比べると成長したというよりか、年を取ったと言うべきなのか。
 いや二十四でそんな事を思いたくはないが、靴下を取り去った足はこの世界に来た頃と比べるとやはり少しばかり骨ばっているような気がした。
 全盛期並みの成長はしなかったが、一応は背も伸びて百七十ちょいになった。
 ぐったりとソファーに頭を乗せていると、後ろのドアが開き、ひたひたと足音が耳に入る。
 その足音は俺の頭の所まで近づくと。
「おつかれ」
 言葉と共に濡れたタオルが目の上に乗せられる。
 そのひんやりとした感覚が心地良くて、この場でも寝てしまいそうだ。
 そんな眠気を振り払って重い腕を上げてタオルを除けると、足音の持ち主を見上げた。
「ただいま、二夜」

 社会人になって、学生時代から付き合っていた二夜と同棲する事になった。
 あの時みたいになんでもかんでも甘い空気になるような事はないが、傍にいるだけで心が落ち着く、そんな良い恋人関係をずっと続けられている。
「これサンキュ。ん、もう風呂入ったんだ?」
「うん」
 腰にタオルを巻いただけの二夜が俺の隣に座る。
 彼もやはり成長して、背も伸び、顔付きも少し変わった気もする。
 ……まぁ、それでも良い意味で二夜は二夜なのだけど。
「今日はいつもよりかは早く帰って来れたんだ」
「ああ、俺も今日でようやく片が付いて……明日は休みがもらえる」
「そっか……俺は仕事あるけど、少し遅めに出れる」
 お互いお疲れ様でした、と苦い笑みを浮かべ合う。
 二夜がおもむろに、テーブルの上のリモコンを取ってテレビを付けた。
 体は拭かれているが、髪はまだ微かに濡れている。晒された上半身は湯を浴びたため、しっとりと濡れていて綺麗だった。
「……」
 やばい。ちょっとムラムラしてきた。
 大人になった二夜は、あの時と変わらず優しくて、綺麗な顔立ちで。
 でももっと男らしくなって、若さのもたらす滑らかさよりもしっかりとした硬さを印象に持つ。
 と言っても、着痩せするタイプだがら服を着ると分からないのだけど。
(――自分だけがその体の変化を知っている)
 そう思うと、優越感と共に胸が苦しくなる程の愛おしさを感じる。
 あの腕に抱きしめられて、抱きしめ返して、熱を分け合う心地良さを思い出して体が火照る、が。
(体力が……なぁ)
 体は熱い。だけど、いくら明日仕事場に行くのが遅くても良いと言えど仕事はあるわけで。
 行為を行うのは非常に体力を使う。あの時の若さもそこまで無く、おまけに仕事で疲れているのだ。
 二夜だって疲れているだろう。だから二夜を誘うのは気が引けるし、そもそも誘う元気が無い。
(だけど)
 ちらりと横目で盗み見る。
 二人の忙しい時期が重なったせいで、ここ最近全然そういった事にならないのだ。
 前回肌を重ねたのはいつだったか……一ヶ月前か?
 はっきりとは覚えてないが、多分それくらいにはなると思う。
 体に燻る熱を持て余しながら未練がましげに見つめていると、急に二夜がこっちを向いた。
「風呂入ってきたら? 疲れてるんだ……ろ……」
 二夜が俺の顔を見て、口籠る。
 あああヤバい、今俺凄い欲求不満な顔してた……!!
 付き合って大分長く一緒にいるんだ。きっと分かってしまったに違いない。
「そっ、そうだな、入ってすぐ寝るわ……っ!」
 慌てて立ち上がろうとしたら、腕を掴まれて膝の上に座らされる。
「ごごごめん! 俺、いや、確かにそうだけど、今日はホント疲れてて……! ホント無理だから、むぅ!」
 早口に口にした言い訳を二夜の唇で塞がれた。
 でも、舌は入って来ない。触れるような優しいキス。
 何度かそれを繰り返された後、鼻と鼻をすりすりと擦り合わされた。
 鼻をすり合わせるのは猫の愛情表現、そして二夜はこの行為が酷く好きらしい。
 欲情を満たす為のキスでは無く、癒すような触れ方に体の力が抜ける。
 くたりと肩に頭を乗せ、目を閉じてその幸せな時間に身を浸そうと思った意識を、ベルトのバックルがカチャカチャと外される音が殴りつけるように覚ます。
「ちょ、ちょっと二夜!」
「ん、大丈夫」
 慌てて二夜の腕を掴むが、そっとその手を外された。
 いやいやいや大丈夫じゃないって! 今日やっちゃったら、俺明日絶対休まないといけなくなる……!
「ミツルだけにしておくからさ」
「……へ?」
 優しく甘い声音で囁かれて、抵抗が止まる。え、どういう事?
 そうやっている内にズボンのチャックを下ろされ、下着の上から刺激されて驚いた。
「だ、だから!」
「大丈夫だって。ミツルがイったら終りにすっから」
「え、それってどういう……」
「俺がイかせてやるっていう意味。……ほら、集中」
 甘みを乗せた微苦笑を浮かべた二夜に、ゆるゆると下着越しに愛撫を加えられる。
 火照った熱はすぐに自分の中心に集まってしまう。
「っあ、やめっ、んん……っ」
 ボクサーパンツの上から形をなぞる様に触られ、親指と中指で鈴口を摘まれながらくりくりと人差し指で尿道口を刺激される。
「……染みてきた」
「ぁあ……はぁっ……」
 快楽に虚ろになりかける目を下ろせば、尿道口の所だけ色を変えたパンツが目に入る。
 その厭らしい光景にまた奥からじゅわりと何か溢れてきそうになった。
 壊れそうなくらい激しい悦楽ではなく、緩やかで蕩けそうな快楽に力が抜けてしまう。
 ベロリ……と頬から耳まで舐められた。
「あっ……ぁあ……に、や……」
「ん?」
「二夜は……?」
「……俺は良いから」
 誤魔化すように愛撫で完全に勃ちあがった俺自身を取り出される。
 シュッシュッと音を立てて擦られて、腰がびくつく。
「はぁっあっ、んっ」
「その代り」
 二夜の舌が耳に差し込まれ、ぺちゃぺちゃという音が頭の中に響き渡る。
「……その代り、俺にミツルのイき顔見せて……」
「……え? ……っあ!」
 激しく上下に扱かれ、ぐりぐりと先端を押し潰される。
 微かな痛みとそれを超える快楽に首ががくりと後ろに仰け反った。そんな俺を覗き込むように二夜が見つめてくる。
 薄い水色の瞳に快楽に喘ぐところを見つめられるのはとても恥ずかしくて、腕で顔を覆った。が、それもすぐに下ろされてしまう。
「駄目。なぁ、お願いだから見せて……」
「やっ、見るもんじゃなっ、ぁっ」
 渇いた音が水音を含んだ音へと変わる頃、俺は身を包まれる快楽に口の端から唾液が零れそうになっていた。
「俺、ミツルのイく瞬間すっげぇ好きだ……」
「あっ、ぅ……ん、ふぁっも、う……ぁっ」
「もうイく? 良いよ、イって……俺に見せて……」
「あぁあっみ、ないで。見な……ぁあっ」
「俺の手で、俺があげた刺激でイって……見せながらイって……」
「や、ぁ、あぁああっ!」
 まるで洗脳するみたいに何度も耳元で甘く『イって』と繰り返されて、俺は鈴口を強く揉み込まれた瞬間に腰を跳ね上げながら吐精した。
 ここ最近は自分でも処理をしていなかったからか、重い白濁が二夜の手を伝って床へ滴る。
 まだぴくぴくと反応するそれを何度か扱かれ、放心している間にさっき目に当ててくれたタオルで拭いて綺麗にしてくれた。
 ついでに床に付着したそれを拭いて、最後に俺の頬に唇を落とした二夜にはっと我に返る。
「な、何して……!」
「ん、だって疲れてるだろ? でもミツルがあんな顔するからさ。こうすれば余計な負担かけずにすっきりする」
「そりゃそうだけど……!」
 お前はどうすんだ、と言う前に「俺はミツルのイくとこ見れただけで満腹」と言われて閉口した。
 それは嬉しいが、どことなく寂しい。だってそれは体を重ねたいという思いがあまりないという事じゃないか。
 一ヵ月だよ、一ヵ月!!
 いや確かにじゃあやるぞって言われたら無理だけど、こうもしないと逆に不安になるというか……。
 そんな俺の思いを余所に、じゃあ俺も着替えて寝るわ……と立ち上がりかけた二夜の肩を掴んで座らせ直す。
「ちょっと待てって、そんな……の……」
 今度は俺の言葉が尻すぼみになって消えた。だ、だって……。
「ちょ……!」
「……勃ってる、じゃんか……」
 二夜の腰に巻かれていたタオルの中央がテントの様に張っている。
 それを隠そうとでもする様に持ってくる二夜の手を除けて、やんわりとその上から触った。
「うぁ……!」
 それだけなのに、喉を晒して喘ぐ二夜。
 横にある尻尾もぶるぶると震えて快楽を耐えているみたいだ。
「こ、こんなになってるのに!」
「だ、だから、ミツル疲れてるだろ、俺自分でヌくから……!」
「じっ、自分でって……」
 タオル越しにドクドクと脈と熱を伝えてくるのを手の平で感じ、俺は意を決して二夜の膝の間に座りこんだ。
「な、何して!」
 二夜の制止を無視し、タオルを除けると、熱り立つペニスが目の前に現れる。
 腹に付きそうなくらい固くなっているそれにつ……っと指を這わすと、二夜の色っぽい呻き声と共に腹筋がぴくぴくと動いた。
「……俺がいるんだし……その、今日は挿れるのは無理だけど、手伝う事は出来るからさ……」
 血管を浮き上がらせ、苦しげに時折ピクピクと動くペニスに目が釘付けになる。
 そっと手の平で覆うと凄い熱と脈が伝わって来る。
「熱……」
 カリの所に指を這わせると、ぷくりと先端から透明な汁が溢れてきた。
 つるつるとした鈴口に浮かぶそれは何だか美味しそうで、快楽に耐える二夜にバレない様に顔を近づける。
 触れていないのに熱が頬に伝わってくる事に少し驚きながらも、おそるおそる舌を伸ばして先端のすっと引かれた縦の線を舐めあげた。
「うぁ!?」
 その途端に二夜の腰が跳ねあがって、慌ててこちらを見てくる。
「なな何して……!!」
「いやその……挿れさせてあげられない代わりに、口で……とか思って」
「にゃ、にゃに言って!」
 二夜の慌て様が凄い。
 ……うん、さっきのもそんな酷い味じゃなかったし……いけそう。
 口でするのは実は初めてで――それは二夜がしてって言わなかったからなのだけど、良く考えれば俺は二夜にしてもらった事あるし、俺だけとか不公平だよな。
 そう思って、はむっと唇で竿を挟む。
 きゅぅっと二夜の瞳孔が狭まったのを見上げながら、ちゅっとリップ音を立てて唇を離す。
 その後浮き上がった裏筋にぴっとりと合わせるように舌を這わせ、尿道口にキスをした。
(それから……)
 いつも二夜にしてもらって気持ちが良い事を思い出しながら口を動かす。
 歯を当てない様に口を思い切り開かなければいけないのは顎が疲れるが、二夜の快楽に歪む顔を見ているとそんなの苦でもない。
 やってもらった事のある様にカリの括れを舐め、鈴口にくるくると舌を這わした。
 根元まではどうやっても咥内に収まらなくて、余った所は手で扱く。
「く……ぁ……ミツ、ル……っ! 汚い、から……うっ」
「らって、ひゃわーあひらんれひょ?」
「ばっ! 咥えたまま喋んじゃ……!!」
 不定期に当たる舌に感じるのか、二夜の腹筋に力が入ったのがわかった。
 晒された太腿に浮いた筋を手の平で撫でると震える。
「……っは、はぁっ……っ」
 どんどん硬さを増していく二夜を舐めしゃぶっていると髪にそっと添えるように手が置かれた。
 その感触にふと顔を上げて、息を呑む。
 そこには快楽に歯を食いしばって、でも爛々と光る眼で自分の中心を舐める俺をじっと見つめる二夜がいて。
 その目に宿る光が余りにも強すぎて、少し慌ててしまった俺は何も考えずに口に溜まっている唾液を、二夜を咥えたまま、じゅるりと啜ってしまった。
「っあ、ば……! イ……っ!!」
「……っ! ん、む……っ」
 二夜の呻きにも似た慌て声が上からしたと思った瞬間、咥えている熱が膨張して熱い粘液を喉奥に吐き出した。
「ん、ん……ぅ」
 口の中に溜まっていく量は明らかいつもよりも多くて、そして濃い気がする。
 二夜のを口でした事は今まで無かったけど、精液はちょっとだけ口にした事がある。
 その時のよりもどろりと濃くて舌に絡み、そして……。
(――ちょっとだけ、甘い……?)
 だから、粘性の高さ故に飲み下すのは大変なのだけど、不快感が少ない。
 疲れている人の精液は甘いと聞いたことがあったがそれなのだろうかと、ちゅくちゅくと尿道の中に残っている白濁を吸い上げていると、無理やり頭を掴まれて離される。
 ちゅぱっと音を立てて射精した事で少しだけ萎えたペニスが口から離れるが、白い糸が先端と俺の口を繋いだ。
「〜〜っ!」
 それを見て赤面した二夜が慌てて指でその糸を切る。
「こっ、こんな事! ミツル、疲れてんだろ!」
「うん……でも、それは二夜もだし」
「あのな」
「気持ち良くなかった?」
「……そ、そりゃ良かったけどさ……」
「なら良いじゃん?」
 二夜と一緒に気持ち良くなりたいけれど、それが今は出来ない。
 だからといって、相手がいるのに一人慰めるなんて事は出来るだけして欲しくないじゃないか。
「俺がしたかったんだしさ?」
「う、うん……」
 まだ納得いってなさげな二夜の膝に跨って、すり、と鼻を擦り合わせる。
「大好きだよ、二夜」
「っ、俺もだよ……」
 そのまま唇を合わせてこようとした二夜の口を慌てて手で遮った。
「ちょ、俺さっき二夜のを口に――」
「別に良い」
 遮っていた手を退かせられて、俺達はソファーの上で微かに笑いながら唇を重ねた。






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