▼ ニヤ×満 A
(――なんで)
唖然と俺の上に覆いかぶさり、息を荒げる二夜を見つめた。
片方のピンが外れて前髪が右頬に掛かっている。その奥から覗く瞳も、もう片方の瞳もぎらぎらと光り、餌を前にした肉食獣のような色をしていた。
(――なんでこうなった!?)
「二夜〜」
俺は部屋のソファーにごろごろと横になりながら、二夜から借りた漫画を読んでいた。
当たり前なのだけれど漫画の中のキャラにも尻尾や耳が生えていたりして、まるでそういう設定の漫画なのかと思ってしまう。
「ん〜?」
でも目を横に向ければばっちり耳と尻尾が生えた本物が、俺が寝転んでいるソファーに背中を凭れさせて、俺が読んでいる漫画の次巻を読んでいる訳で。
「これもう読んじゃった」
「はっ!? もう!? ミツル読むの早くね!?」
「二夜が読むの遅いんだよー」
「ばっか、これくらいの速度で読まないと頭に残んねぇだろ」
「えーそうかなぁ」
そう言いながらそろそろと二夜の読んでいる漫画に手を伸ばす。が、後ちょっとという所で二夜に見つかり、阻まれてしまった。
「こらっ俺読んでるから!」
「だって二夜もう何回も読んでるんだろー?」
「そういう問題じゃねぇ!」
勿論本気で他人が読んでいる物を横取りするつもりはない。
でも二夜とこうやって他愛もなく騒ぐのが好きで、ついついやってしまう。
「ケチー」
「だっ、誰がケチだ!」
「二夜だしっ」
笑いながら答えると、わざと怒った顔をした二夜が俺の脇腹に手を伸ばして、思い切り擽り始めた。
「わっ! 何すんだ! っひっはっはっはっは」
「さっきの言葉取り消せっ、じゃないともっとするからな!」
「あははっやーだっ」
くっくっと笑いを必死に押し殺しながらソファーの上で身悶える。
実をいうとそこまで脇腹は擽ったくない。いや勿論擽ったいけど、俺が呼吸困難になるほど擽ったく感じるのは脹脛から足の裏にかけてだったりする。
耐えられる程度の擽ったさに身を捩った。
耐えられるって言っても、やられっぱなしは楽しくない。
「……っ」
わざと俺は無言になって下を向くと、異変に気が付いたのかピタリと二夜が止まる。
「み、ミツル?」
「……」
「ご、ごめん! もしかして痛かったか? 俺ちょっと調子に――」
慌てて謝る二夜に、ばっと顔を上げて突き合わせる。
おろおろとしていた二夜が、驚きのあまりポカンと俺の顔を見つめている間に、軽く二夜の鼻の頭にキスを落とした。
茫然としている二夜に笑いかけて、緩んだ手から漫画をさっと奪う。
「……へ? あ、あれ!? え!?」
ぱっと我に返ったのか、何も掴んでいない手に慌てて目をやり、そしてすごい速さで自分の鼻を手で覆い、俺のしてやったり顔を見て真っ赤になった。
「ミ、ツル〜〜っ!」
「ふふ、もーらいっ」
奪った漫画を背中に隠してすぐ取れないようにすると、わきわきと手を動かした。
「二ー夜ぁ君。好き勝手に擽ってくれたね」
「えっ、やっ、それはミツルが漫画を……!」
「反撃っ」
わっと勢いよくソファーの上から二夜に飛び掛かる。
さっきされたように脇腹に手を入れると指をばらばらに動かした。
「ひっ! ひーひっひっひっひっ」
「どうだっ」
「やめっぶはっ止めっあはははははっ」
ごろごろと転げる二夜を逃さない様に擽り続ける。
(――そうだ。今のうちに二夜の一番擽りに弱いとこ探しておこうかな!)
わきわきと手を動かして脇の下や、首辺りを擽るけれどあんまり“一番”』という感じがしない。
首を傾げながら手をずらした時、とんっと手が腰に当たった。
「っあっ!?」
「お?」
今までと全然違う反応にもう一度軽く腰を叩く。
「ひぁっ!」
「ここかな?」
ニヤっと笑って、とんとんと二夜の腰を軽く叩いた。
擽ってる感じはないけど擽りの力加減って人それぞれだし、二夜にはこれが擽ったいのかもしれない。
無言でさっきよりももがく二夜の尻尾がぴんと上に立ち始めた。
(――そういや尻尾は弱いって言ってたっけ)
いつぞやザインさんに教えてもらった言葉を思い出して、もしかして優しく擽ったら擽ったいかもしれないと手を伸ばした。
「いっ!!?? ぁあああ……!!」
柔らかく揉む様に擽ると、びくんっ!と背を反らしてぐったりとその場に蹲ってしまった二夜に慌てる。
そ、そんなに強く握ったつもりはないのだけれど……!
慌てて二夜の顔を覗きこんだ瞬間、強く腕を引かれてその場に組み伏せられた。
そして冒頭の部分になるのだが……。
「にっ二夜?」
上ずる声で二夜を呼ぶけれど、荒い息を吐いているだけで返事はしてくれない。
ぎりぎりと握りしめられる手首が、鈍い痛みを伝えてくる。
「ご、ごめん二夜、俺、騒ぐのが楽しすぎて……ひぅっ!?」
二夜が今何を思っているのか分からないけれど、とにかく謝罪の言葉を口にした。
怒らせてしまっただろうか。それとも、と思っていた俺の首筋に生暖かい物が這う。
ぬるりとしたそこはすぐに冷えて行ったが、突然で予想外の感触に小さい悲鳴が口から飛び出してしまった。
体を重ねて首筋に鼻を埋める二夜が、腰を俺の腰に押し付けて来る。
「っ……!?」
ごりごりという固い感覚に思わず息を呑んだ。
こ、これはベルトのバックルが当たって……? と答えから目を逸らそうとしたけど、バックルは臍より下の方で固さを伝えている。
「二夜……た、勃って……たり、する?」
恐る恐る口を開くと、二夜は熱い息を吐いて肯定の眼差しを欲情した雄の顔で俺に向けた。
「なっ、何で!」
ぐりぐり押し付けられるそこから逃れる様に身を捩じるけど、余計擦り付けるような形になってしまって俺も少し熱い吐息を吐く。
布に擦り付けられ、二夜の固い物に刺激を与える様に押し潰され、だんだん俺も熱を帯びてきてしまう。
「ん……っ二、夜ぁ……」
「ミツルの所為だかんな……っ」
「え?」
俺の所為……? と二夜の表情を窺うと眉根を寄せて切なさそうに腰を揺らしている。
「あんな風に叩かれて……尾まであんな風に触られたら、俺……頭おかしくなっちまう……」
はぁっ、はぁっ、と息を荒げて二夜の腰の動きが強くなった。
もう行為をしているのと変わらないくらいの強さで二夜の腰が上下し、中心が揉み込まれる。
この異様な行為に俺の中心も完全に固くなり、じわりと下着に染みを付ける感触がした。
(え、じゃあ俺が擽ったから二夜はこんなに……よ、欲情したっていうの……か?)
欲情というか、発情に近い気すらする。
擽っただけで? と疑問が渦巻くが、はっと思い出した。
(ね、猫って腰叩くと気持ち良くなるとかあったっけ……?)
それが性的な物かまでは知らなかったけど、そんな話を向こうの世界で小耳に挟んだことがあった。
俺は猫を飼っていなかったし、近くに猫もいなかったから忘れていたけど……。
それはつまり、俺に責任があるという事では無いだろうか。
(――ど、どうしよう)
いや、どうするもこうするも、方法は一つしか無いような気がする、というか無い。
俺は決心すると二夜の目を見た。
「……二夜、ベッド……行こう……?」
「あぁあ……っはっ、あっ! ひぁ……っ」
ぐちゅぐちゅと二夜が腰を動かす度にイヤらしい音が部屋に響く。
俺からベッドに行こうと言ったことで二夜の中の自分を抑える物が無くなったのか、部屋に行く途中からもう行為に突入しているような感じだった。
「……っは、っは……止まんね……っ」
バックで攻めながら二夜が呻く。
ぶるりと尻に接している腰が震えて、ナカに二夜の物が注がれる感覚がした。
「……っぁ、ああ……」
溜息の様な喘ぎが口から洩れる。
もう何回注がれているか分からない。
二夜は本当に発情期に突入した時みたいに求めてきて、中に挿れられた物は全然熱と硬さを失わない。
容積をとっくの昔に超えたナカから、こぷりと白濁が溢れて内腿を伝っていく生暖かさを感じた。
「ミツル……俺のミツル……っ」
「ん、ぅ……っあぁあっ!」
ゆるゆると腰を動かされながら、ガジガジと首筋を甘く噛まれる。
まだまだ体力があるのか、腰を掴みなおされてさらに密着を深くされた。
でも対する俺はというと、同じくらい達してしまってもう体力は無い。
出す物全部出し切ってしまって達しようとしても透明に近い液が僅かに漏れるくらいだ。
イき切らないというのはとても辛くて、もう今はただただ快楽地獄の中にいる。
その快楽地獄に絶叫する元気さえなくて、掠れて枯れ果てた声で小さく呻くだけだ。
「……ミツル、ごめん、ごめんな…っ」
枕に顔を埋めて、尻に二夜のペニスを銜え込んでいる状態の俺の背中にぱたぱたと熱い物が滴った。
「……う、ん……?」
「疲れたよな? もうボロボロなのに、俺、俺、止まんなくって――……っ」
「……ううん……」
首を捻って二夜を見ると薄い青の瞳から涙が溢れ、頬を伝って滴り落ちている。
その顔を見て、笑顔を見せるけれど、力無い笑みしか浮かべられない。
「だいじょうぶ……。それに俺に二夜をこんな風にした責任があるし……」
二夜……と小さな声で呼ぶと、二夜が顔をくしゃくしゃに歪めながら俺の言葉を聞こうと顔を寄せてきた。
その鼻の頭に、さっきみたいに軽く唇を落とす。
思わず目を見開く二夜に目で笑いかけるた。
「責任だけでしてるんじゃないからね……? 俺は、二夜が好きなんだよ?」
その人に求められて嬉しくない訳がない。
むしろついていくだけの体力がなくて悔しいくらいなんだ。
「ミ、ツル……っ」
「俺は、二夜のものだから……ね?」
次は唇に重ねる、と。
「むぐっ!?」
荒々しく唇を塞がれて、咥内に滑りを帯びた熱い物が滑り込んできた。
それに抗う力もなく蹂躙されるがまま、くちゅり……と糸を引いて唇が離れた。
「ミツル……」
ぎらぎらと欲情した目で見られて、ざぁあっと血の気が引いていく。
た、確かに好きだし嬉しいけど、いや幾らなんでも今からあれ以上のをされたら……!
そんな俺に構わずナカに入っている二夜の分身が、ぐっと体積を増して主張する。
ぐちゅん! と思い切り叩きつけられて眦から涙が零れた。
「ひぁ……っ!」
「ミツル……愛してる……っ」
耳を噛まれながら吹き込まれた一言を聞いて、遠のく意識の中、今度から絶対二夜を擽ったりなんかしないぞ……と心に決めた。
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