雪隠詰め | ナノ


▼ ザイン+ルエト×満


「失礼しまーす……」
 がらがらと職員室の戸を開けて満が現れた。
「おう、ちょっとこっちに来い」
 ギリアはそれに気付くとちょいちょいと手を振る。
「お前なんだこのテスト」
 ぴろりと見せるのは先日受けた小テスト。点数をみると中々に酷い点だ。
「お前がこんな点数取るなんて珍しいと思ってよくみたら、こりゃ間違ってるっていうよりも、回答欄が全部一個ずつずれてんじゃねぇか」
 呆れたように小言を言う。
「これだけじゃなくて他の教科も似たような間違いしてんぞ、お前。完全に間違ってるとか空白ってのだったら勉強不足って分かるが、これはただの注意力散漫なだけだろうが」
「はい……」
「気をつければ良いだけなんだからよ」
「はい……」
「おいちゃんと聞いてんのか……ってお前顔色悪いぞ?」
 まじまじとギリアは満の顔を眺めた。
 顔色は余り良く無く、見つめ返す瞳はどこかぼうっとしていて疲れた表情をしている。
「どうしたんだ 風邪か」
「いや……ここ最近テストが固まってあったじゃないですか……」
 そのテスト勉強で睡眠時間が犠牲になっていて、ここ最近一日三、四時間しか寝ていないのだ。
 酷い時には貫徹したりもしている。
「馬鹿、毎日ちょっとずつ勉強しとけばいいのになんでしないんだ」
「いや俺、直前にならないとやる気しなくて……」
「アホか。自業自得だな」
 溜息をつきながらギリアはごそごそと自分の机の引き出しを探ると、何かを取り出し満に投げた。
 それを危なっかしく受け取って目線を落とすと、手の中にはリ○ビタンdとか表記してありそうな茶色の瓶。
「ドリンク剤だ。お前にやる。それ飲んで今日は寝ろ」
 本当にそうだった。
「ありがとうございます……」
 満は素直に頭を下げると職員室を後にした。

 ――それが惨劇の始まりとも知らずに。




 廊下に出るとさっそく瓶の蓋を開けて口をつける。
「ぶっ!?」
 が、あまりの濃厚さに思わず軽く吹き出しそうになった。
 どろりとした甘い液体が口の中に広がる。粘性の高さや味の濃さはまるでカル○スの原液をそのまま飲んでいるような感じにすら感じる。
「こ、これ、水で割れとか書いてないかな……」
 ドリンク剤を水で割るなんて聞いた事がないが、なにしろこっちは自分の世界とは違うのだからもしかしたら割るのも有りかもしれない。
 瓶に何か書いてないかと調べて見るが、『水で割れ』だけではなくラベルさえもない。
 しかたなく満は甘ったるい液体を全て飲み下し、近くにあったゴミ箱に瓶を捨てた。

「ったく、毎日やりゃ良いのによぉ…」
 さっきと同じ事をぶつぶつ呟きながら、ギリアは再度机の引き出しから満に与えたのと同じドリンク剤を取り出して口をつけた。
 さあもう一仕事頑張るかと肩を回し、ふと止まる。
(――そういや昨日も飲んで、残り一本だから買わねぇといけねぇな……って思ったような……)
 けれども満にやったので一本、今自分が飲んだので一本。計二本。
 一本増えている。
 おかしいな、と首を傾げるが、多分引き出しの奥から出てきたのだろうと見当をつけた。
「汚ねぇしな……」
 うんざりとした目でギリアは自分の机を見つめる。
 そこは積まれたテストやら書類やら教科書やらで溢れかえっていた。
 もちろんそれは引き出しの中も同様で、中身が引っ掛かって開かない なんて事はざらにあるし、何時のか分からない書類が発掘されることもある。
 一番脱力したのは、無くしたと思っていた眼鏡が出てきた時だった。
 目は悪くない方だが、暗くなると時々つけている。だから無くてもそこまで不便では無かったが、流石に二ヵ月もみつから無かったので諦めて新しい物を購入してしまった。
 そしてその購入したまさかの次の日に引き出しから出てきた時は、何ともいえない虚しさを感じた。
 つまりはっきり言って、自分のこの机の中に何が入っているのか見当がつかない。
「……誰か此処に火ぃでも放ってくれねぇかな……」
 そうすりゃすっきりするのによぉ……とドリンク剤を飲んだというのに、虚ろな目のままギリアは呟いた。




 身体が……おかしい。
 満が違和感に気付いたのはそれから少し経ってからだった。
 熱い。……熱いというのは少し違うかもしれない。
 疼くのだ、身体の中心が。
「……っ……ふ……」
 もう少し頑張れば自分の部屋に通じる廊下だというのに、満は壁に寄り掛かって立ち止った。
 どくどくという鼓動の音がうるさい。
 自分の身体の調子がおかしいという焦りに、睡眠不足で疲労している満の精神が悲鳴を上げた。
「……ふっ……く……」
 何が何だか分からない状況に頭と精神が追いつかなく、涙が滲み始め、満はその場にずるずると座り込んでしまった。
 俯き、肩で息をしていると。
「おい、誰だ。何をしている」
 どこかで聞いた事がある声が耳に入った。
 涙で滲む眼差しを向けると、そこにいたのは猫王。
「ル、エト……さん……」
 この状況で知ってる人に会えたという安堵で、ぶわりと涙が零れた。
「……!? お前……!」
 表情はよくわからないが、声が驚いている。
 近くに寄る気配がして、視界に眉根を寄せたルエトの顔が入った。
「ル、……エトさん……たす……た、すけて……っ」
 カラカラに乾いた喉から掠れた声で助けを求めるが、自分がいったいどうしてもらいたいのか、どうしてもらえばいいのかはさっぱり分からない。
 分からないが、ただただ藁にも縋る思いで助けを求めた。
 ルエトは目線をほんの一瞬だけ揺らがせ、少し考え、満の力無い腕を自分の首に掛けさせると右腕を腰に回して抱き上げた。
 その振動さえ満には酷で、小さく呻く。
「大丈夫だ……」
 そんな満にそっと声を掛けると、ルエトは出来るだけ満に振動がいかないように配慮しながら走った。




「邪魔をする」
 そんな掛け声と同時に部屋のドアが物凄い勢いで開かれる。
 驚いて読んでいた本から目を離し、客人を確認したザインはさらに目を丸くした。
「猫王……ナトリ……!?」
 慌てて立ちあがり、近づく。
「廊下に蹲っていた。何があったか俺には分からん」
 それを聞いて、とりあえず満をベットに座らせた。
「何故……俺の所に……?」
「こいつの事をよく知っている存在で一番近い部屋はお前だからだ」
 声音は冷静に聞こえるが、保健室に直行しない所や、苛立たしげに上下に動く尻尾を見ると、もしかしたら内心は焦っているのかもしれない。
 ザインは涙でぐしょぐしょになった満の顔を覗きこんだ。
「ザイ、ンさん……俺……おれ……どうしちゃったの……?」
 細かく震える満を落ち着かせる為に背をさすった瞬間。
「ひぁうっ!?」
 小さく悲鳴を上げて、がくがくと満が震えた。
「ナトリ……? ……もしかして……」
 その悲鳴を聞いてザインは頬に手を伸ばした。そっとふれると熱と震えが伝わってくる。
 ザインは後ろの猫王を振り返った。
「発情……期……か?」
「……時期がおかしい」
「でもこの反応は……」
 再び満に目を向けて困惑したような表情をする。
「……保健室に連れて行くか」
「いや……今の状態で動かすのは……ナトリが辛いだけだ」
「じゃあどうするんだ」
 苛々と猫王がザイン聞く。
「楽に……してやった方が……いい、か?」
 ザインは小さく呟くと満の目線と同じ高さまでしゃがみ、伝わるようにゆっくりと話した。
「ナトリ、これは多分、発情期のようなものだと思う……時期はおかしいが……自分でどうにか出来るか……?」
「はつじょ……き……?」
「そうだ」
「そん、な……かし……おかしい……だって、俺は……はつじょ……ちが……だって……違う……」
 首を右左に振りながら満は言葉に出来ないのか、ザインの腕を力無く掴む。
「自分で……出来ないか……?」
「わか……っ、わかんない……」
 ぼろぼろとまた満は涙を零す。
「わかった。俺がするから……大丈夫だ……泣くな……」
 よしよしとザインは満の頭を撫でると、ベッドに上がった。
「……じゃあ俺は失礼するぞ」
 行為を傍観する趣味は無い、と背を向けたルエトの裾を何かが掴んだ。
 後ろを振り返ると、満が泣き泣き裾を掴んでいる。
「……どうした」
「いか……ないで……こわい……っ」
 いかないでも何も、いない方が満の負担にならないかと思ったのだが、この空間から人が減る事自体が不安を煽るのか「恐いから行かないでくれ」と繰り返す。
「……居てやってくれ」
 満のズボンに手を掛け、首筋に唇を寄せながらザインからも頼まれた。
「……」
 一体なんだこの状況はと心の中で愚痴りながらもルエトは一度大きく尾を揺らすと、無言のまま満の後ろに座った。
 右腕は前に回し、満の背を己で支える。その間にザインは満の中心を取り出した。
 既に芯を持ち、微かに濡れている。
「ふ……ぅん……ん……」
 中心をゆるゆると擦られると、満から鼻にかかった甘い声が漏れた。
 その声を聞きながら、ルエトは初めてケイナインになりたいと思った。
 耳を伏せてこの音を締めだしてしまいたいほどに、これは毒だ。
 だんだん強く扱き始める熊に、そんなことを平常心でよく出来るものだと感心さえする。この匂いと熱と音を発する原因の中心を握る――自分の手で乱れさせる――など……自分なら良からぬ箍が外れてしまいそうだ。
 そう思いながら熊に目を向けると、熊の目は欲に濡れていた。
(――ああなんだ コイツもか)
 それに気づいて、安堵すると同時にもやもやとしたものを胸の内に抱くのを抑えられなかった。
「んっんっあぁっも、やっ、やぁあっ」
 突然満がザインの手を逃れるかのように身動ぎし始めた。絶頂が近いのだろうか。
「おい、落ち着け」
 そう諌めるが、止まらない。
「なんで……っおれ……っおかしっ」
「落ち着け……大丈夫だ」
 前に回していた右手で満の視界を覆う。
 暴れている動物は視界を覆うと落ち着く。
 ここに居ると伝える事で安心させようと強く抱きしめ、髪に唇を落とす。
「大丈夫だ……何も考えるな。ただ素直に感じていろ」
 繰り返しそう言うと、だんだん満の動きは鈍くなった。
「そろそろ……か」
 ザインは自分の手の平の中でびくびくと脈打つ中心を見つめると、先端をこじ開けるように爪をねじ込んだ。
「んあぁあっ!!!」
 途端に満の背が撓り、腰を浮き上がらせて激しく吐精した。
 吐精する直前に手で覆った為、辺りに飛び散らずにだくだくとザインの手を濡らしただけですんだが。
 何度か痙攣した後くたりと脱力し、満はそのまま死んでいくような深い眠りに落ちていった。
「……紙……」
 掌に広がる白を眺め、指の先で少しばかりにちゃにちゃと弄りながら何か一瞬だけ迷った素振りを見せたザインはぼそりと呟いた。
「……」
「……」
「……後ろにあるから取ってくれ」
「あ……? ああ……」
 ルエトはまさか自分に言われているとは思わなかったため反応が遅れたが、自分の後ろのベッドに備え付けてある棚から紙が入った箱を取り出して渡す。
 それで掌を拭ったザインは、その拭った紙を適当な袋に入れると縛った。
「……それ、どうするつもりだ」
「外に捨てに行く……」
「……わざわざか?」
 何か疑うような目で見てくるルエトをちらりとザインは見る。
「……この匂いの中で寝ろ、と……?」
 部屋の中には満の放った物の匂いや、満自身の匂いがした。
 人間にしてみればそこまで強く感じないが、彼らにしては十分過ぎるほどに強い。
「ああ、そうか……すまない」
 今は鼻が慣れてしまっているが、気づいてしまえば気になって仕方がない。
 満自身の部屋に寝かせるために、ズボンをきちんと履かせるとザインは満を背中に背負った。
「……そこまで変態じゃ、ない……」
 換気をするために窓を開け放ち、ルエトと共に部屋を出る時に小さな声でザインがルエトにそう言った。
「……」
「……」
「……お前、掌見て迷ったじゃないか」
「……仕方ないだろう」
「……」
「……今夜は眠れないな……」
「……」
 沈黙で肯定し合う二人の間には、何とも言えない空気が流れていた。




<後日談>

「よ 寝れたか?ナトリ」
「……」
「どうした?」
「ええ。ぐっすりと寝れましたとも。ついでに起きた時は恥ずかしさで永眠したくなりましたよ」
「……? なんのことだ?」
「……先生、今度から俺の半径三メートル以内に入らないでくださいね」
「は? お、おいちょっと、こら、待て、どうしたんだナトリ!?」

 ギリアの誤解が解け、満に許してもらえたのは一ケ月後だったと言う。





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