雪隠詰め | ナノ


▼ SS A


「ミツル……?」
 振り返ってみれば、ミツルはソファーの背もたれに頭を乗せて寝ていた。
 さっきまで見ていたテレビはつけっぱなしだ。
 そんなミツルの寝顔を見ていると、ミツルと出会った日の事を思い出した。




「今日のワースト一位はぁ――残念!九月生まれの貴方!ごめんなさーい!『今日1日は厄日!何をしても悪い方向に進んでしまうでしょう』!」
 明るく喋るテレビをシャコシャコと歯を磨きながら見つめる。
(――朝っぱらから嫌なもん見た……)
 占いのワーストっていうのは、それだけでついてない日だと思わせる。見なきゃ良かった、と口を漱ぐ為にテレビに背を向けた。
 そんな背中に投げつけてくるように「そんな貴方のラッキーアイテムは『青いハンカチ』!ぜひぜひ持ってお出かけくださ〜い!」とテレビが言った。
 そんなものでどうにかなるものなのか、とか思いながらちゃっかり青色のハンカチを選んだ俺を笑っても良い。

 そしてその日に俺はミツルと出会った。
 朝から遅刻し、先公にぐちぐち言われ、なんでか三回も転んだ厄日の俺は、これ以上ない程の最悪な出来事だと本気で思った。
 でもそんなんじゃなかった。
 ミツルに撫でられながら あの時、本気で青いハンカチを持ってきて良かったと思っていたんだ。
「すげぇな、青ハンカチパワー」
 ボソリと呟いてミツルの頭を撫でる。
 もしかしたら、ミツルはあの青ハンカチが引き寄せたのではないかと時々本気で思う。
 あまりに夢物語すぎて笑える。そんなことは無く、本当にミツルは偶然と偶然が重なりあってしまっただけだ。
 ……けれども、もしも万が一にでもそうだとしたら……。
「そうだったら嬉しいとか思う俺はダメ……?」
 撫で続けながら呟く。
 望んで来た訳ではなく、一人ぼっちになってしまったミツルをかわいそうと思うよりも、今ではミツルに出会えた喜びの方が大きい。
 そしてそれを引き起こせた原因が自分だったら……と、不謹慎にも思ってしまう。
 自分にかけがえのないものを引き寄せてくれたように思えるあの青ハンカチは今ではお守りだ。
 自分と同じ種属がいない世界に来てしまったが、寂しい思いはさせない。大切にする。
 だから…。
「ずっと此処にいろよ」
 わしゃわしゃと撫で終わると二夜はふっと微笑んだ後、満をベッドに運ぶために抱き上げた。
「ベッドに運んでやったって言って、明日撫でてもらお」
 そう笑って尻尾をゆらゆらと揺らしながら。



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