Novel | ナノ


▼ 16


 紅の目を見開いたアサドは一瞬泣きそうに顔を歪め、そうしてぐっと身体を寄せ――。
「!?っ、ぁあ!」
「!?イルファーン!すまない、痛かったか!?」
「ち、違……すまない、び、っくりしただけ、で……痛くは、無い……」
 引き寄せられた事で指が内壁を刺激した瞬間、今までとは全く違う感覚が身体を走り抜けた。
 痛みでも異物感でも無く、まるで……性器と連結しているような感覚。
「……もしかして、ここ、か?」
「あっ、ア!!」
 思わず自分で前を押えて腰を跳ねさせる。
 快楽という訳では無いが、何かが押し出されてしまう様な気がした。
「痛く、無いんだな?」
「はっ……あ、ああ……」
 脚を震わせながら頷くと、再度そこを撫でられるのが分かって声が洩れる。
「……男でも気持ち良くなれる場所があると聞いた事があるんだが……これか」
「気持ち良く、なるのか?」
 不安な気持ちが声に交じっていたのか、「必ず、気持ち良くさせる」と目尻に唇を落とされた。
「ん……ッ!ふ、う、ア……っ」
 一体自分の身体はどうしたのだろう。
 アサド曰く少しばかり周囲と違った、しこった様な箇所があるらしい。そこを重点的に指で刺激されながら前も扱かれている内に、何かの一線を踏み越えるかの様に突然異物感が薄れ、快楽が混じる様になった。
 今では前を触られていないのに性器は頭を擡げ、熱を発していた。
「あ、アサ、ド……、んぅ……っ」
「……気持ち良いか?」
「や、う……ちが、わから、な……ッ!」
 首を横に振り、肩に縋りついて声を殺す。
 異物感はもう殆ど無い、というよりはそれに快楽を感じる様になっていた。
 三本目を咥えこんだ後孔はいやらしい水音を絶え間なく立て、抜き差しされる度に擦り上げられる内壁がひっきりなしに快楽を脳に伝える。
 頭が馬鹿になってしまいそうな程の快楽に思考が蕩け、恐怖すら感じた。
「あ!?や、め!それ、や……!!」
 三本の指をばらばらに動かされ、背筋がぐっと伸びあがる。
 前に着き出した腰を一つ撫でられたと思えば、放置されていた性器を一緒に擦り上げられた。
「や!?あ!!や、め……っ一緒に、さわ……っさわ、るなぁ……っ!!」
 ちゅぐちゅぐ と濡れる音が耳を犯す。一気に増した吐精感に太腿がぶるぶると震えた。
「でる、やだ、でるっ」
「……ん。一度イっとけ。その方が楽だ」
「やっ、やだ、やめ……っ」
 アサドの手の中にはしたなく精をぶちまけるなど、正気を保って出来る訳が無かった。
 快楽で上手く回らない舌で必死に嫌だと告げるが、それで扱く手が止まる訳も無く、とうとう絶頂に達してしまった。
「で、る、ぁあぁアあ!!!」
 後孔に挿れられた指を締め付けながら、白濁を勢いよく吐き出す。
 経験した事の無い快楽の頂点に目の前が真っ白になり、口の端から唾液が零れるのが分かった。
 身体を何度か跳ねさせた後脱力すると、後孔から指を抜かれそっと寝台の上に横にさせられる。
 荒い息をどうにか整えさせ、霞む目でアサドを見て赤面した。
 勢いよく吐精した所為で、アサドの腹部や胸にまで精液が飛び散っている。褐色の肌にそれは酷く目立って、余りの卑猥さに目が釘付けになった。
 目線に気が付いたアサドが口角を上げると、こちらを見据えたまま指で腹部に付いた白濁をなぞる。
 にちゃ……と微かな音を立てて、白濁が伸ばされるのが酷くいやらしい。
 一番大きな雫をすくうと紅の瞳を細め、見せつける様にねっとりとその指を舐め上げた。
「ッあ、……っ」
 その溢れる艶にあてられて、何もされていないのに声を上げて身体を震わせる。
「イルファーン」
「あ、あ……」
「イルファーン……」
 そんな声で名前を呼ばれてしまえば、身体が応じてしまう。
 アサドの事を恐れている訳では無いのに身体が震えて、逃げようとする。けれど腰の抜けた状態ではただ小さくもがいて、シーツに皺を寄せるだけだった。
「仰向けだと背中が擦れるだろ。横を向け。……ほら」
 自分より一回りどころか二回りは大きな身体がのしかかってきたかと思うと、脇腹に手を指し込まれ、身体を横向きにさせられる。
 一体今からどうするのだろうと、……いやアサドのアレを挿れるのは分かっているのだが、この体勢でどうやって――と思っていると、右太腿を掴まれて思い切り持ち上げられた。
「なっ、や、止めろ!」
 無理矢理開脚させられて、全てがアサドの目に晒される。
 慌てて隠した手も、手首を掴まれて取り払われてしまった。
「もう……十分解れたな」
 脚の間を凝視していたアサドに、指の腹で後孔の縁を撫でられる。
 濡らし、解され、柔らかく潤みを帯びたそこが、アサドの指に吸い付く様な音を立てたのが分かった。
「イルファーン。……挿れて、良いか」
 低く落とされた言葉に、ふと目線をアサドの脚の間に向けて息を呑む。
 さっき絶頂に意識が一瞬飛んでいた間に脱いだのか、既に下着はつけていなかった。
 髪と同色の下生えが広がり、それを辿った先にある褐色の肌よりも尚濃い色をした性器。
 それは既に熱り立っていると表現しても良い状態で、竿に浮き出た血管が生々しい。
 いや、赤黒い色も、微かに濡れている様に見える先端も、離れているのに脚に伝わる熱も、全て生々しく匂い立つような性のいやらしさを放っていた。
(は、挿入る、のか?それが……)
 身体に見合った大きさのそれは自分のよりも、想像していたのよりも逞しい物だった。それが挿入るというのは到底信じられなかったが……。
(けど、一度は挿入った、訳なのだから)
 無理矢理で激しい痛みを伴ったとはいえ、受け入れた事があるのだからと自分に言い聞かせ、小さく頷く。
 アサドはそれを見て、持ち上げていた脚を肩に掛け、もう片方の足を跨いだ。
 互いの足を組み木の様に交差させる体勢に、なるほどこうすれば横向きのままで良いのかと思っていると、ひたりと後孔に熱が当たった。
「痛かったら、ちゃんと言えよ」
「分かった」
 頷くと、小さく笑って頬を撫でられ……ゆっくりアサドの熱が押し込まれる。

「……ッは、あ、あ……!!」
 指とは比べものにならない大きさに目を見開いて息を吐く。
 けれど痛みは殆ど無く、圧迫感と異物感は確かにあるものの微かに快楽すら混じるほどだった。
「……っ、やっぱり、狭いな……っ痛いか?」
「あ、う、あ、い、痛く、ない……っ」
 どうにか声を振り絞ると、そうかと呟いてまた腰が押し進められる。
 身体を押し広げられる感覚にまるで針で止められる虫の様に、シーツに縫い止められていく様な気がした。
 圧迫感に自然と息が浅くなっていると、ピタリと動きが止まった。
「……全部、入ったぞ」
「ほ、んと……?」
 荒い息で告げられた言葉に聞き返すと、手を取られ、結合部を触らせられる。
 慌てて引っ込めるが、確かに根元までぴったりと挿入っていた。
 ここにアサドのが入っているのかと、そっと下腹に手を当てる。
「アサ、ド……」
「ん……?」
 身体が慣れるのを待っているのか、動こうとはしないアサドを見上げ、息を切らしながら微笑んで見せる。
「いたく、ない」
 アサドは目を見開くと、「言っただろ?」とどこか泣きそうな顔で笑った。


 ゆっくりと律動が始まると、痺れるような快楽が身体中を満たした。さっきのとはまた違った快楽にシーツに指を立てる。
 激しく、高みを目指し、一瞬で身体を突き抜ける吐精の快楽では無い。じわじわと器を満たしていく様な快楽。けれど、その終わりが見えない事に言いようの無い恐怖を覚える。
「あっ、アッ、んっ、ふ、……ッ」
 アサドは決して荒々しく動こうとはせず、けれどじっくりと舐る様にいやらしく腰を動かした。
 あの時の様に振り立てるのでは無く、前に突き出す腰の動きが卑猥だ。
「はっ、凄い……な」
 小さく呟いたアサドが熱を銜え込んでいる後孔の縁を指でなぞった。
「さ、さわるな、ぁ……!」
「凄いいやらしい……イルファーン」
 ぐっとアサドが身体を倒すと、自然と脚が自分の身体に近くなる。
「身体、柔らかいんだな……っ」
 色んな体位でも出来そうだと、笑いながら言うが、瞳は全く笑っていなかった。
 快楽と強い獣欲に浮かされた瞳。けれどその瞳が何よりも愛しみを伝えて来る。
 野性味のある精悍な顔立ちが、欲で溢れた表情で自分を見つめているという事に、ぞくりと身体が震えた。
「イルファーン……」
 肩に掛けていた脚を抱き締められると、鼻筋を擦り付けるように唇を落とされた。
 アサドの一挙一動が心を満たす。愛されているのだと知る。
 腰を使いながら時折色っぽい声を洩らすアサドが愛おしくて、堪らなくて。
「あ、ア……サド……っアサド……ッもっと、んっ」
「ん?」
「も、っと……あっ、ちかくが、いい……」
 この体勢だとどうしても身体が遠い。
 膝に抱えられていた時の様に近くに、アサドの事をもっと近くに感じたかった。
 驚いた顔をしたアサドは瞬間、息を呑む程剣呑な顔つきをした。
 一端性器を抜くと、先程の様に膝の上に抱えられ、後頭部を鷲掴かまれたと思ったら喉を仰け反らされる。
 そこに、大きく口を開けたアサドが齧り付いた。
「ひ!」
 あまり痛みは無かったが、突然まるで捕食されるかの様な行為に小さい悲鳴が零れる。犬歯が、じわりと食い込むのが分かった。
「あんまり煽ると、後悔するのはお前だぞイルファーン」
「え、あ? ア゙ッ!!!」
 噛まれたそこをねっとりと舐め上げられた後、腰を抱え上げられ、何をするのかと思った瞬間熱り立ったアサドの性器の上に座させられた。
 ズパン!と勢いよく奥まで貫いた性器に後ろに仰け反り、目を見開く。
 大きすぎる衝撃に舌が突っぱねるのが分かった。
 衝撃が過ぎない内に、下から突き上げる重い律動が始まる。
「あぁあああ!?や、めっ、アッ、や、ヒッ、」
 遅れて来た快楽に思考が攫われる。
 危ない多幸感にとうとうついて行けなくなり、どっと涙が溢れた。が、それすらも目元に吸い付いたアサドに全て啜られる。
「や、やら、やめったす、け……たす、けて……っアサド、たす、うむぅ……っ」
 快楽に怯えてアサドに縋り付けば、黙れと言わんばかりに唇を奪われた。
 その間も律動は止まらず、むしろ激しさを増す。
 腰を抱えられ上げては落とされ、腰が落ちる瞬間にアサドが腰を突き上げてパンと肌が打ち合わさる音が響いた。

 突然腰を抱えていた手を離し、アサドが両耳を塞いで来た。
 何を、と問おうと開けた口に舌が潜り込み、その意図を知る。耳を塞がれた事で咥内を蹂躙する舌の音が脳に反響するのだ。
 ――グチュグチュ ピチュッ チュッ チュルッ
 水音が激しく響き、脳を直に犯されている気がする。
 耳を塞いでいる手は塞ぎながら耳朶を弄り、髪を弄り、性感を増幅させる。
 ぶるぶると身体が震え、水音の中でぎりぎりまで耐えていた何かがぷつんと切れるのが分かった。
 両手が耳から離れても唇は離れず、そのまま腰に回され律動が再開した。
「……気持ち良いか?」
 唇を漸く離され、耳に吹き込まれた言葉に何度も頷く。
 もう理性などなにも無かった。ただ、目の前の愛しい相手から貰う全てを甘受するだけ。
「きもち、……っ、アッ、きもち、い……!」
 目の前のしがみ付くと受け止めてくれる広い胸が、腕を回した首の逞しさが、抱き締めてくれる腕の強さが、どれもに安堵し、全てに溺れていたかった。
「アサド、アサド……っすき、すき、もっと、きす、して……っだきしめて、だめ、すき、きもち、い」
 全てが口から零れていくのを抑えきれない。
 うわごとの様に全てを吐露しながら、アサドの喉に唇を寄せ、張り出た男らしい喉仏に小さなキスを落とした。
 そこから、ぐる……と獣が唸る様な音がしたかと思うと、ガツガツガツガツ!と腰を小刻みに叩きつけられた。
「ひ、ぁあああ!!!アっ、ひあっ、あっアヒッ!!」
 身も世も無く喘げば、収められている熱がぐっと膨張する。
「あさ、アサド、あさどっきもち?ヒッ、んぁっ、ンッ、アサドも、ちゃんと……っ」
「……ああ……っ」
 ――すげぇ、気持ち良い……たまんねぇ。
 そう、出会ったばかりの頃の様な癖の強い言葉使いで耳に吹き込まれた瞬間、満ちていた物が弾けた。
「〜〜ッ、あぁあアああァああア゙あ!!!」
 絶叫と言っても良い声を上げ、支えられていなければ後ろに倒れる程背中を反らせた。
 真っ白な快楽。
 ビクビクと身体を跳ねさせながら、後孔の中の熱を無意識にきゅうきゅうと引き絞る。瞬間、呻き声を上げてその熱が弾けた。
「あッ」
 ドクドクと脈打ちながら何かを注ぎ込まれる感覚に、口元に自然と笑みが浮かぶ。
 満たされていくのが分かった。
「アサド……」
 遠くなり行く意識の中、腕を伸ばすとアサドがそれに応じてくれる。
 額や瞼、目尻に唇を落とされるのを感じ、幸せという物を噛み締めながら意識を手放した。



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