Novel | ナノ


▼ 5

 目を丸く見開いたソラに、泣き喚きながら抱けと繰り返す。そうしたらどうにかなるかもしれない。そうだ、魔法を解く方法と言ったら十八番のキスもある。可能性が一パーセントでもあるのならば、俺はそれこそなんでもする。
 俺はソラの襟を掴むと、噛みつくように唇を重ねた。それでも何も変わらない。
「駄目か……っ」
 口を離し、舌打ちしかねない勢いでそう呟くと、ソラの腕が後頭部に回って、再度口付けられた。咥内に侵入してきたソラの舌に、最初は一瞬驚いて自分の舌を奥に引っ込めたが、恐る恐る自ら絡めると、ソラの咥内に引きこまれる。
 ようやく口が離れると、ソラが俺の肩をとんと押して倒した。目は爛々と輝いていて、飢えた獣の匂いを漂わせている。
 『この機会を逃す程、お人好しじゃない』と目で語りながら、口角を上げて自嘲的に笑うソラに手を伸ばした。
「早く、抱け……っ」
 早く、早く。間に合わなくなる前に。




 ぺちゃぺちゃと舐める音と水音が響く。
 俺は今、腰を持ち上げられ、ソラに有り得ない場所に指を突っ込まれて、更に舐められている。それだけでも恥ずかしくて死にそうなのに、真昼間、床でこんなことをしているということが、更に追い打ちを掛けた。
 それでも、俺は絶対に拒絶しないと心に決めていた。それに……はっきり言って、不快じゃない。むしろ……。
「……ぁ……っ、く……っう……」
 ぞわぞわと快楽が背筋を這い上ってくる。ソラの指が抜き差しされ、折り曲げられるたびに、性器の先から押し出されるように先走りが漏れた。もう、何本指が入っているのだろうか。
「ソ、ラ……ソラ……ぁっ」
 迷子の子供が泣く様に、涙を零して股の間に顔を埋めるソラに腕を伸ばすと、ソラはそれに応えて手を絡めてくれる。
 その時、太腿にごりっと何か硬い物が当たった。それが何かわからないわけがなく、驚いて目を向けると、ソラが苦笑いを浮かべる。
『挿れて、良いか?』
 口パクでも何となく分かって、頷くとソラは窮屈そうなズボンの前を寛げた。怒張して先が濡れている逸物に小さく息を呑んだが、拒む言葉は喉奥に飲み込む。
 一度だけ俺を見ると、ソラは後孔にそれを押し当てて、ぐちりと挿入した。
「――……っ!」
 ソラが随分と解してくれたからか、不思議と痛みは無い。ただ物凄い圧迫感と熱で息が浅くなる。浅い呼吸を繰り返す中、ソラの様子を窺った途端、腰に甘い痺れが走った。
 フーッ フーッと猫が怒るような荒い息を吐き、眉根を寄せながら快楽に耐えるソラは、濃厚な色っぽさを放っていて、思わず腹に力を入れて絞めつけてしまう。
「……ゥ……ッ!」
「は……ぁっ!!」
 その途端にソラの物が膨れ上がり、背を仰け反らせて耐える。荒い息を共に吐きながら腰を繋げて止まっていたが、堪え切れなくなったのか、ソラがゆるゆると腰を動かし始めた。
「あ……っ、う、あっあぁ!!」
 ゆっくりと動いていたのは最初の方だけで、後は勢いよく腰を叩き付けられる。ぱちゅぱちゅと水音と腰が打ち鳴らされる音が耳を打つ。
 今ここにある全てに煽られて、どちらともなく指を絡め、口付けると、更に腰の動きが速まった。自分の腰も僅かに振られていることに、今更気付く。流石に後ろだけでは達するほどの快楽を得られないが、ソラの腹に先端が擦りつけられて気持ちがいい。
「あ、あ、あ、イ……っも、イク……っイ、ク……っ!」
 絡められた舌を離されると、嬌声が口から漏れ出た。ソラも限界が近いのか、ひくひくと腹筋を引き攣らせている。
「あ、ソラっソ、ラ――ぁっ!!」
「ウ……ッ」
 ごりゅっ、と何かを擦りあげられたような感覚の瞬間に、今までにない凄まじい快楽が体中を巡り、俺は押し出されるように白濁を吐きだした。
 達した時に思いきり後孔に力が入ったせいか、ソラも俺の中でびくびくと達するのを、余りの快楽に薄れる意識の中で感じた。




 ふと、意識が浮上する感覚で、意識を飛ばしていたことに気付く。ハッと慌てて身体を起こそうとしたら、抱きしめられていた。
 横を見ると、ソラの優しい瞳と合い、キスをされる。……が、その耳はやはり猫のままで、黒い尾も消えていない。魔法を掛けられた同士とでもいうのか、ソラから伝わってくるその感覚から、彼が猫に戻ってしまうのを未だ止めることが出来てないのが分かった。
「なんで……なんでだよ、なんで……」
 ボロボロと涙を零してソラに抱きつく。ぽんぽんと宥めるように背中を叩かれ、て更に涙が溢れた。ソラはこんな時にでも俺のことを考えてくれる。
「なんで止まらないんだ。なんで猫に戻るんだ。本当に好きなのに。嘘なんかじゃない。本当にソラが好きなんだ、それなのに……」
 えぐえぐと言葉を切らすと、瞼に唇を落される。優しい光を灯す瞳は『もういい』とでも語っているようで、俺は首を横に振った。
「俺は嫌だ。嫌だ、ソラ。死なないでくれ」
 駄々を捏ねるが、捏ねながら、脳内でもう駄目なのだと冷静な自分が囁いている。ソラは何か伝えたい事があったようで、首を巡らして紙とペンを探していたが、見つからなかったのか、そっと俺の手を取ると、長い指で俺の手の平に文字を書いた。

――『あ り が と う』
――『ず っ と す き だ っ た』

その文字にぶわりと涙が溢れる。嫌だ。嫌だ。
「俺は……俺は、『オ前ニ側ニ居テ欲シインダ』――っ!?」
 叫んだ瞬間、言葉があの硬い響きを纏って口から零れた。それが空気を震わせたと思った瞬間、ソラの尻尾と耳が――消えた。
「……え?」
 ぽかんと二人で顔を見合わせる。
「え?」
 恐る恐るソラの頭に手を伸ばしても、そこには耳の名残すらなく、柔らかい髪があるだけだ。
「う、うそ……」
 じんわりと喜びが湧く。さっきとは違う感情で涙が止まらない。ソラはまだ信じられないのか固まっているが、そんなソラに俺はしがみ付いた。
「良かった……良かった……っ。ソラがいなくならなくて、死ななくて……っ」
 温かくて、硬い肩に濡れた頬を擦り付ける。年下の男に縋り付くなんてをと一瞬頭をよぎったが、そんなことどうでも良くなった。そんな俺の肩に手が掛り、ソラが引き剥がす。
「ソラ……?」
 顔を伏せているソラの顔は見えない。あー、うー……と発声練習のような声が聞こえて来たと思ったら、がばっと顔を上げた。
「その……俺、もう死んじまうと思ったから、思い残すことが無いように……みたいな、思い切った気持ちがあって……。まさか、こんなまだ生きれるなんて、思ってなくって……さ」
 すげぇ、嬉しいと呟くと、僅かに朱が差した顔で
「……俺、日向の側にいて良いか?」
 とソラは言った。

 ああ、馬鹿だな。俺がなんて言ったのか聞いてなかったんだろうか。
「……居てくれ」
 そう囁くとソラを思いきり抱きしめた。


 お前がいないと、俺は俯いて、蹲ってるだけだ。でもお前がいればたとえ真っ直ぐじゃなくても、前に進めると思うんだ。
 手を離さないでくれ。ずっと、俺の傍に居てくれ。そうしたらきっと、モノクロの世界は色鮮やかになるはずだから。

 俺はそれをお前と、一緒に見たい。





- 終 - 
あとがき

2010.11.29



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