Novel | ナノ


▼ 3


「するって……カラエも?」
 舐めてくれるの?と何を考えているか分からない表情に、今更断れる訳もなく、おずおずと頷く。
 それに嬉しそうな表情を返したが、ジルは顎に手を当てて眉をハの字に下げた。
「んー……凄く嬉しいけど、まだシャワー浴びてないから……」
「で、でもお前その服に着替える時、シャワー浴びただろ?」
 ジルは、いつも正装する時は一度シャワーを浴びる。今日はかっちりとした服では無いとしても、浴びているだろうと思ったのだ。勿論、その習慣が変わっていなければ、の話だが。
 途端にジルは嬉しそうな笑みを浮かべた。
「覚えて、いてくれたんだ?」
「しゅっ、主人の習慣を覚えるのは、使用人の基本だし……!」
「……でも、シャワー浴びたの昼過ぎだよ?」
「べ、別に……」
 気にしない、と続けるのが恥ずかしくて口籠れば、ジルの纏う雰囲気が変わった。
 この部屋に入った時のような、艶やかで淫靡な香りの漂う、重く危うい空気。
 蜜色の瞳の甘さが狂気じみた物を孕んで蕩け、唇の端を持ち上げ、うっそりと笑う。
 こんな笑い方をするジルを見たことが無かった。格好の獲物を見つけた悪魔のような。雄の色気を存分に孕んだそれに、ぶわりと全身が粟立った。
「カラエは、まだシャワーを浴びてない、俺のやつ、舐めたいんだ?下着で蒸れてるかもよ?ああ、トイレにも行ったし。……それでも、舐めたいの?」
 俺の、ペニス。
 嬲るように吐息で続けられた台詞は、本来なら馬鹿じゃないのかと怒鳴って一蹴出来るような代物だ。なのに、声音に、息に、体温に、目線に、全て絡め取られて。喉を変に鳴らしながら、震えて頷くことしか出来なかった。

 じゃあこうしようか、と言われてお互いに横向きになって、上下を入れ替えた。
 ジルの長い指がベルトのバックルを外し、チャックを下ろす。開いた前から覗く下着を、親指で無造作にずり下げると、窮屈そうに押し込まれていた性器が目の前に突き出された。
「ぇ、あ」
 想像していた以上に大きくて、グロテスクな表情に思わず青褪め、言葉を失ってしまう。
 体格差もあり、自分のよりも一回りは大きいと言えど、形は見慣れている筈なのに、親近感など微塵も湧かない。
 既に勃ち上がった赤黒い幹には血管が浮き出て、充血していて薄紫にも見える先端はえげつない程にえらが這っている。大人とそう変わらない程であろう濃さのアンダーヘアーは髪と同じ黒色で、卑猥さを際立たせているような気がした。
「……舐めてくれるの?」
 こんなの、と言う声は、自嘲しているようにも、逆に煽っているようにも聞こえた。
 ジルは舐めた訳だし、と自分を奮い立たせて、顔を近づける。むわりと熱が頬にあたり、陰部の匂いが鼻先を擽った。
(――あ)
 けれど嫌な匂いでは無い。三年前、ジルの髪を梳いている時に、用意したシャツを広げる時に、くっ付いて寝ていた時に嗅いだ、どこか安心するジルの体臭だ。
 シャワーの石鹸の香りの名残か、それともつけているコロンなのか、どこか甘い香りも混ざっている。
(――けれど、いやらしい香りも、する)
 ジルが先程表現したそのままの意味を知る。
 蒸れた汗の匂い。ほんの微かに漂うアンモニア臭のような匂い。興奮し、滾っている雄の、匂い。
 それら全てが混ざったこの匂いに、興奮した。匂いに魅了されていくように、思考がだんだん鈍く、熱に浮かされる。
 美味しそうでもなんでもないのに。むしろ、口にするのは躊躇われるくらいなのに、口の中に唾液が溜まっていくのが分かった。
 恐る恐る唾液に塗れた舌を伸ばし、先端に縦に入った線を舌先でなぞる。
 途端に、ビク、と別の生き物のように跳ねたそれが、快楽を素直に表しているようで、思わず可愛く思ってしまった。
 何度か先端を舐め、味や感触に行けなくなくもない、と判断すると、幹の方もなぞってみる。
 その度に、びくりと痙攣したり、息を詰めたりするジルが段々面白くなってきて、舌の動きも大胆になっていく。
 だが、それもジルが愛撫を再開するまでだった。赤ん坊が乳を吸うように性器を吸われ、後孔に指も挿れられる。
「やっ、やっ、ジル!んぁっ!」
 あまりの快楽に、後孔に入れられている異物感も呑み込まれ、頭を振って抗議するが、逆に嚢まで揉みこまれてしまう。
 気付けばジルの頭を、太腿で挟み込んでしまっていたが、身体が自分のいう事を聞かない。
 悔しくて、目の前の滾る性器を咥えこむが、途端にきつくなった咥淫に思わず歯を立ててしまいそうになり、口から吐き出すしかなかった。
 他人に快楽を与えられることに慣れていない身としては、温かく柔らかい口での愛撫は目も眩むような快楽だ。
 はひはひと息も絶え絶えになっていると、ふと目の端に映ったものに意識が行く。
 寛げたズボンの端から覗く、変色した肌。そっとズボンと下着をずらせば、そこにはケロイド状になった皮膚が広がっていた。
 左腰骨から左下腹。気が付かなかったが、左腰を通って背中にも回っているようだ。
 赤く、歪に盛り上がった皮膚は、引き攣れているようにも見える。幼い頃、あの火事で負った傷だ。あの時見つけた人の話では、ジルは俺を庇うように上に覆い被さっていたのだという。
 もう痛みはないかもしれないが、痛々しく見えるそれに、舌を伸ばし、気づけば動物が毛繕いするように何度も這わせていた。
「んっ!ぐ……ッ!」
「あぁ!?い、ぁああ!!」
 が、それが不味かったのか、ジルは低く呻くと、じゅっ、と強く性器を吸ってきた。
 唐突な強い刺激に、堪える間もなく、ジルの口の中に精を吐き出してしまっていた。
 射精の余韻に思考を飛ばして浸りきっていると、脚の間に埋めていたジルが身を起こす。
 濡れた唇を手の甲で拭いながら、こっちを見つめる眼差しは、串刺しにされそうな程鋭かった。
「……煽らないでよ、カラエ」
 そう言って笑ってみせるが、目がまったく笑っていない。
「もういいかな……指、最後のほう三本入ってたの、分かった?」
 ほら、と言って再度ぐちりと指を押し込まれる。圧迫感の中に、じわりとした快楽の端が見え隠れして、戸惑いを隠せない目線を向ければ、あやすように頬を撫でられた。
 ジルは、軟膏を手の平に塗り広げ、それで自身の雄を上下に擦り始める。
 てらりと光って尚凶悪さが増したそれを、親指で下に向けると、後孔に押し当てられる感覚がした。
「……挿れるね」
 呼吸に消えてしまいそうな囁きと共に、指以上の圧迫感が胎の中を犯した。
「あ゙……!あ゙!!」
 苦しい。重い。熱い。気持ち悪い。でも、だいじょうぶ。この感覚の逃がし方は、<わかっている>。
 深く息を吸い、意識的に腹周りの力を逃そうと弛緩させる。
 ふーっ、ふーっ、と何度も大きく息をしていると、ぴたりとジルの動きが止まった。
 全部入ったのだろうか、とジルの顔を窺った瞬間、ジルの両手が首にそっと添えられた。
「ね、カラエ、正直に言って欲しいんだけど」
 掻き上げていた前髪が下りてしまって、表情を窺うことは出来ない。
 なにを?と問うよりも先に、添えられた両手に力が籠められ、思わず目を見開いた。

「――俺以外の誰にこの身体触らせたか、言え」

 地の底から響くような低い声に、本能的な恐怖が爪先から這い上がる。
 漸く合った金茶の瞳は、怒りにぎらぎらと燃え上がっていた。
「最初指を挿れた時、少しおかしいと思ったけど、その感じだと知ってるよな?カラエ。こういう風に挿れられる感覚」
 ズッ!と思いきり突き上げられて、大声が喉から飛び出る。
 しかし、それも首を絞められていて、掠れ声にしかならなかった。
 呼吸を奪うほど強く絞められてはいない。けれど、それも今後どうなるか分からなかった。
「正直に言え。カラエに触らせた奴の名前」
 消してやる。と、ぞっとするほど冷たい声で吐き捨てられた。
「庇ったりしたら、どうなるか分かってるだろうな」
 ぐっ、と指を喉に食い込まされ、息が詰まるが、どうにか声を絞り出した。
「ば、っか、そんなんじゃ、なくて……!」
「だから」
「じっ、自分で、シてたの!」
「え」
 驚いた拍子に思わず零れてしまったような声と同時に、手が緩み、しやすくなった呼吸に咽てしまう。
 咳き込んだ瞬間に、胎内に入っているモノを締め付けてしまい、二人ともそれぞれの反応を返した。
 ……というか、怒りながらガチガチだし。
 胸中で罵りながら、苦しさで目尻に浮かんだ涙もそのままに、話を聞かない苛立たしさ半分、恥ずかしさ半分で、ジルを睨みつける。
「い、色々自分でも男同士のこと調べたんだよ!本とか、たっ、他人のそういう話に聞き耳立ててみたり、とか?多分俺が受け身になるだろうし……そ、そもそもジルを抱こうとは思わなかったし。でも、受け身は最初は凄くその、あそこがきつくて、抱く方も大変だって、聞いて。だから、その、ちょっと自分でやっておこうと思ったんだよ!ゆ、指とかで!!」
 やり始めたのは二年程前だっただろうか。と言っても、毎日熱心にという訳にもいかず、たまに程度だったので、自分でやって気持ちよく感じたことは一度もないのだが。
「おれの、ため?」
「んっ、いや、えっと、そういうわけじゃ……そ、そういうことに、なるの、かな?」
 思わず否定が口をついて出たが、その通りなので、恥ずかしくも渋々と頷く。
 すると、がばりと抱き締められ、きゅう、というか、ぎゅう、というような変な声が出た。勢いが良かっただけに、ジルの性器が深く中を抉る。
「うぁ、う!!」
「ご、ごめん、早とちりして」
 ごめん、ごめんね、と繰り返す様子は、先ほどの凄味は微塵もない。
 むしろ謝っているというのに、口元はにやけていて、自分でも抑えきれないのか、何度も手で押さえている。
「カラエが、そこまでしてくれるなんて……」
「う、う、うるさい!もう良いから!早く動けよ!」
 恥ずかしくて、踵で背中を蹴りつけるが、それすら笑って受け流された。
 おまけに、蹴りつければ振動が繋がっている自分にも伝わってしまい、早々に止めるはめになる。
「ごめん、嬉しくて」
「だから!恥ずかしいから、やめろって!そもそも、その……」
 さっきから気になっていたことを聞きたいが、どういった物かと口籠ってしまう。
「その、ぜんぶ、はいったのかよ……」
 それ、と恐る恐る目だけ向けるが、影になっていて上手く見えない。
 個人的にはこれで全部挿入っていて欲しいのだけれど。
「ん、もうちょっとだけど……」
 するりと手を結合部に伸ばし、指で余っている部分を撫でているのか、手が動く。
 まだ残っているのかと、改めて大きさを実感して少し青褪めた。
「でも、もう限界だから、良い?」
 小首を傾げる仕草は可愛らしいが、やっているのは男を組み敷いている男だ。
 それにさっきのあの激昂した時の態度がまだ脳裏にちらついていて、なんだか全て計算してやっているのではないかと思ってしまう。
 が、良い?と言ったものの、確認では無かったようだ。
 答えてないというのに、ジルの腰は既に前後に動かされ始めていた。
 抜かれる排泄感に身を震わせ、貫かれる異物感に呼吸と声が漏れる。じわじわと体温が上がるような、そんな感覚だが、快楽は感じられない。けれど、息を切らし、切なそうな顔をしているジルに、興奮している自分がいた。
「はっ、あ、あ、カラエ……!」
「うっ、うぁ、あうっ」
「カラエ、からえ……っい、っく……!!」
「えっ、え!?」
 別に物凄く腰を振っていた訳じゃない。
 むしろ、ぬるぬるとゆっくりとした抽挿を数回繰り返していただけだというのに、荒く息を零したジルは、低く呻いて喉を鳴らしたかと思えば、腰を震わせた。
 抜く事もなく、全部中に出されるが、精液の感触は特にはしない。けれど、びくびくと心臓のように脈打つペニスに、絶頂に達していることを知った。
「え、え?」
 幾らなんでも、早すぎやしないだろうか。
 そう言ってしまうのは男のプライドを傷つけるのは十分分かっているから口にしないが、やっぱり早い。……もしかしなくても、早漏なのだろうか。
 今まで抱いて来た相手には笑われたりしなかっただろうか、なんてお節介な疑問が頭に浮かんだ。
 けれどジル本人はというと、至極満足そうに笑って、困惑する俺の額や瞼にキスを降らせてきている。
「カラエ、カラエ。ごめん、あんまりにも気持ち良くて……次は、頑張るから」
「えっ、あっ、うん……」
「凄い気持ちよかった。こういうの、初めてだけど、次はカラエも一緒に――」
「はぁ!?」
 照れたように笑うジルに思わず素っ頓狂な声をぶつけてしまう。
 え、今、なんだって!?
「い、いま、今、なんて」
「え、え?次は、カラエも一緒に」
「バカ、違う!その前!」
「は、初めてだけど?」
「え、ジル、おま、ば、童貞バージン!?」
「えっ、そうだけど?」
 軟膏の話や、枕の用意、それに下準備など、手際が良かったから、一人や二人は経験がある物だと思っていた。それが、まさか、ジルも初めてだなんて。
 貴族出身と言えば、娼館に通うことも珍しくない。付き合いで連れて行かれることもあるという話だし、ジル程容姿が整っており、人脈があれば、そういう機会も多数あっただろう。だから、何人か経験を積んでいたとしても仕方がないと思っていたのに。
 自分がジルの“初めて”の相手だということに、じわじわと喜びが溢れて来る。
「あっ、当たり前だろ、カラエがいるのに……!」
「だって、軟膏とか、じゅ、準備とか詳しいから、つい」
「なっ、軟膏は娼館に行って、話を聞いただけで、今まで誰も抱いたことはないし!準備だって、色々調べて、そっ、想像していただけ、で……!」
 かぁっとジルの頬が朱く染まっていくのを見て、ああ、と心の中で独り言ちた。
(俺たち二人とも、似た者同士なんだ)
 お互いのことが好きで、好きで。その気持ちに絡まって。不格好にもがいて。
 嫉妬で狂わんばかりに首を絞められたとしても、どこかで喜んでしまうほど好きで。
 すれ違った道を一時選んだかもしれないけれど、再び交わった道はより固く結びつくだろう。
 もう、この手を離すことは出来ないに違いない。
 真っ赤に染まった頬に手を伸ばし、撫でながら黒い髪を掻き上げる。
 誰よりも大切で、愛しい人。
 ようやく隣に戻って来れた。
「……ジル、愛してる」
 微笑みながら告げたことばに、一瞬ジルは呆気にとられた表情をした後、くしゃりと顔を歪めた。金茶の瞳からぼろぼろと涙が零れ、身体中に雨のように降り注ぐ。
「待ってた……!!!」
 泣きじゃくりながら、貪るようなキスをされ、ゆるゆると腰も動かされる。
 泣きながら笑って、キスをして、快楽を貪って。
 なんて欲張りなんだろうと笑いが込み上げてくる。
 ジルが吐き出した精液が潤滑剤になっているのか、さっきよりも痛みは少ない。ぐちぐち、と、濡れて掻き混ぜられる音が響いた。
「は、あ、カラエ、もう離さない。どこにも行かせない……っ」
「う、ん、あ、ぁあ、あっ」
「好き。すきだ。ずっと、ずっと、すきだった。カラエ、好きだ……!!」
「あ、あ!おれ、も、すき。すきだから……っ」
 両手を重ね、指を絡め合う。
 そこには乳飲み兄弟でも、幼馴染でも、主と使用人でもなく、ただ愛を貪る恋人同士の姿があった。
「あう、あっ、う」
「カラエ、気持ちいい、からえ、カラエ……っ」
「あ、前、まえ、触って……!」
 後ろだけではやはりイけなくて、懇願すれば、性器に指が絡められ、上下に扱き立てられる。ビリッ、と背骨を駆けあがる快楽に、ジルに腰を押し付ければ、呻き声が降ってきた。
「あ、ぁ、カラエ、もう、イく。イく……ぐ、うっ」
「……れも、おれ、も、イくか、ら……っあ、あ、あぁあ!!!」
 ジルは再びナカに、俺はジルの腹の上に射精をし、息も絶え絶えに崩れ落ちる。
 流石にどろりとした精液が胎の中で動くのが分かって、掠れた笑いが口から零れた。
「なに……?どうかした?」
「ううん、いや」
 ふふ、と笑いながら、ゆっくりと自分の下腹を撫でて見せる。
「世間の淑女が欲しがる、オルタシア家の子種が、こんなところに溢れる程注がれてるなんて、罪にも程があるな、と思って」
 そこには一切僻みも、蔑みもない。もうジルに相応しくないなどと言わせるつもりもなければ、例えそう言われたとしても、彼の傍を誰にも譲るつもりはないからだ。
 これが罪だと言われるのならば、一生背負おう。この人生でたった一度犯す、愛すべき罪だ。
 撫でていた手の上に、ジルの手が重なる。
「……もう、ここにしか注ぐつもりはないから」
「ふふ、お前も罪な奴」
「だから、もっと……注がせて」
 甘く囁かれ、唇が降ってくる。
 お願い、と続けられれば、ジルの“お願い”を断りきれない俺は、喜んで頷くしかないのだ。




「妹の名前、メリルっていうんだ」
 事後の処理はどうにか終えて、くたくたになって枕に顔を埋めていると、身体をひっつけているジルが俺の髪を弄りながら嬉しそうにそう言った
「黒髪に菫色の目で。将来きっと美人になる」
 まだ二人とも服は身に着けておらず、シーツの下で肌と肌が直に触れ合う。
「彼女が大きくなるまで、オルタシアの家は俺が頑張るよ。……でも、大きくなって、しっかりした相手を婿に迎えたら、そうしたら家督を二人に譲ろうと思う」
 突然の予定に驚いてがばりと身を起こせば、ジルは優しく目を細めて、唇に人差し指を押し当てて来た。
「別に、オルタシア家と縁を切るつもりはないよ。でも、表舞台からは下りて、静かにしていたいんだ。家督を継ぐ長男で未婚だと、何かと周囲がうるさいだろ?郊外に家を構えて、オルタシアの家を手伝うんだ。大分先の予定だよ。けど、そのつもりだから、伝えておこうと思って」
 俺の執事バトラーには、ちゃんと。と、意味深に笑っているジルに、つられて笑う。
「周囲に相談も無しに、凄い勝手な予定立ててやんの」
「その時は、カラエ。勿論君も一緒に」
「それ、プロポーズのつもり?」
「ふふ、どうかな」
 小さな笑い混じりの軽口を叩き合いつつ、体温を分け合うように身を寄せる。
 目尻に落とされる柔らかいキスを甘受しながら、漠然と、きっと今後何があっても二人で乗り越えられるような、そんな気がしていた。

「……あ、そうだカラエ、言い忘れてたことがあった」
「今更?なんだよ」
 見つめる金茶の瞳が、愛しさを余さず伝えて来る。
「おかえり」
「……っ、ほ、んとに、今更……っ」
 その瞳を見つめて、同じだけの愛しさを伝え返そう。

「……ただいま!」





- END - 




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