Novel | ナノ


▼ 5


 乳を催促する赤子のように、ちゅくちゅくと幼い性器を吸う男の、隠し切れない恍惚とした表情と、理性を失った濃い赤紫の瞳にイェマは静かに喉奥で笑った。
 ずるりと口から唾液に濡れそぼった性器を引き抜けば、物足りなげな音を微かに漏らす。無意識なのか、舌先を追い縋るように口から覗かせた。
 印の刻まれた頬をするりと撫でてやれば、瞳は更にとろけ、恍惚の表情で応える。
 魂の喜悦に精神が耐えきれなくなったのだろう。いくら戦で鍛え上げられた屈強な精神と言えど、この快楽に耐えられる人間はいるまい。それも元を辿れば己のものなのだから、抗う術もない。
 身も心も堕ちきった姿は、戦場で見惚れた雄姿とは程遠く、それでも、いや、だからこそ愛しい。
 正気に戻った時が見ものだな、と喉奥で笑い、イェマは口を開いた。
「ゼノウィズ――なにが欲しい」
 囁いて問えば、酩酊状態のような蕩けた瞳が揺れた。
 そこにあるのは、葛藤と、恥じらいと――大きな期待だ。
「強請れ。おれはそれを、おまえにやろう」
 やさしく、やさしく囁き、唆す。イェマの心中は舌なめずりをする獣そのもので、甘く美味い肉に齧りつくその瞬間を今か今かと待ち望んでいる。
「口付けか?それなら息が止まるほどしてやるぞ?ここを、泣くまでいじめてやってもいい」
 ここ、と言いながら厚い胸板の胸の飾りを、ぎゅう、と指でつまむ。
 途端にゼノウィズは短く声を上げ、身体を跳ねさせた。
「おれに触れたいのならば、心ゆくまで触ればいい。猛る熱を吐き出したいのなら、空になるまで何度でも絞り出してやろう。肛虐の悦を極めたいのなら、存分に味合わせてやるぞ?」
 は、は、と浅く息を切らす男に、目を細める。
「許す。――強請れ」
 あ、と小さく声を漏らし、ゼノウィズは震える声で「くち、づけを」と望みを口にした。
 随分と可愛い願いに笑い、望み通りその唇にゆっくり唇を合わせる。何度も啄み、舌を挿し込んでは、歯列、顎裏、と這わせ、舌同士を擦り合わせた。くしゃりと銅の髪を掻き回し、顔を離すと、まだ空いたままの口に向かって、れえ、と舌を出す。口の中に溜まっていた唾液が、舌を伝い、ゼノウィズの空いた口にとろりと流れ落ちた。
 それを恍惚の表情で受け止めたゼノウィズに飲むように促せば、従順に口に溜まったそれを飲み下す。

「さあ、ほかには何が欲しい」
 ちゅ、と鼻筋に唇を落とし、身体を離す。
 品定めをするような、楽しむような神の眼差しを受け、張り出した逞しい喉が、ごくりと上下する。
 のろり、と動き、どさりと身体をうつ伏せにする。そうしておずおずと腰を上げると、自らの震える両手で尻を割り、狭間を晒した。
「……ここに、」
 香油で濡れ、朱を帯びた後孔は最早性器と化している。
「ここに……イェマ、の……慈悲、を」
 後孔の熟れ具合を見せつけ、乱れた銅の髪から覗く双眼を羞恥に潤ませ、男はか細い声で懇願した。
 その願いを受け、幼子の姿の神はうっそりと笑い、喜悦に背筋を震わせた。最早目の前の屈強な男は、腹を裂けとばかりに捧げられた贄に他ならない。
 腰に手を掛け、ひくつく後孔に性器の先端を押し当てる。あ、と期待が籠った声を聴きながら、押し当てては離し、また押し当てるを繰り返す。その度に後孔が吸い付き、ちゅぷ、ちゅぷ、とはしたない音を鳴らす。
「ぃ……、……イェマ……」
 首を捩じり、切願の響きを乗せた声で名を呼ばれた瞬間、その幼い腰を前に押し出し、根元まで一気に挿れこんだ。
「――――ッ!!!」
 途端に目の前の身体は、ビクン!と身体を大きく撓らせ、声なき声を迸らせた。
 後孔の肉壁は待ち望んでいたものに歓喜するが如く蠕動し、きちゅきちゅと幼い性器の輪郭を確かめるように引き絞られる。
 未成熟な性器では太さは勿論のこと、最奥を突けるほど長くもないのだが、ゼノウィズの好い場所に当てる程度なら問題はない。
 ずる、と引き抜き、パン、と指で触った好い所を狙って腰を打ち付けると、好い声で鳴いた。

(それにしても、良い身体だ。この腰など、胎を作ってやれば、良い子を孕みそうだな)
 掴んだ腰を見やり、撫でながら快楽の悦の混じった溜息を、ほう、とつく。
 引き締まった頑丈そうな腰。傷だらけの背には綺麗に筋肉がつき、快楽にもがく度に美しく形を変える。そこに銅の長髪が散るのは中々に艶めかしい風景だった。
 そんな肉体を持つ戦士が、己が与えた快楽に身悶えするというのは何とも自尊心が満たされる。
 小刻みに揺すったり、ぴったりと腰をくっつけて奥を狙うように突いたりと繰り返していたが、上って来る熱にイェマはしっかりとゼノウィズの腰を掴んだ。
「ん、ぁ、ゼノウィズ――耐えろよ」
 そう呟き、特別その熱の流れを無理に抑えることなく、神は男の胎の中に精を放った。



 イェマの性器が挿れられた瞬間、羞恥と罪悪感と、恍惚で叫んだ。
(――あ、あ、いま、イェマのものが、ナカ、に)
 指よりは勿論異物感が強いが、それでも未成熟だからか痛みはそこまでない。むしろ歓喜に酔いしれていた。
 全てを捧げた神に抱かれている。犯されている。
 この満たされた幸福を、恥辱の甘さを、どう表現すればいいのか。
 己の汚らしい場所で神の性器を咥えこむなど。あまつさえ、それを強請るなど。
(申し訳ない。みっともない。恥ずかしい。嬉しい。きもちいい。)
 快楽を、身体を捩じって逃がし、それでも逃げられない分は吐息で漏らして。没頭していると、腰を掴まれ、密着しているイェマの身体がふるりと震えて。
(あ――ナカに)
 出されるのだ、と歓喜にじわりと涙が滲んだその時。
「ん、ぁ、ゼノウィズ――耐えろよ」
 何に、という疑問を抱くよりも先に、びしゃり、と脳内に白が撒き散らされた。

「――え?」
 突然何も分からなくなって、脳内を染め上げたそれが良く理解出来なくて。一拍おいて、それが壮絶なまでの快楽だと理解した瞬間、咆えていた。
「あ――――ぁ、ひ、ぃぁああああぁあ!!!!あ゙ぁああ゙あ!!!」
 きもちいい!きもちいい!きもちいい!!
 なんだ、これ、すごい、あたまが、からだが、なんで、あ、あああ、あ。
 ガクガクと身体が痙攣し、意味の分からない快楽に目がぐるりと上を向く。ドッと唾液が溢れ、嚥下できずに口から零れた。
「ぉああ゙っ!あっ、ひぎっ、ああ゙ーっ!」
 爆発的に次から次へと襲い来る快楽に寝台の上でのたうち回り、ごりごりと後頭部を押し付ける。
 さっきまでのが魂で感じる幸福感に近い快楽だったとしたら、これは完全に肉体で感じる快楽だ。もう自分が射精しているのかどうかも分からない。
 快楽を逃がそうと、腰を狂ったように振り乱すが、微塵も効果がない。もはや拷問に近い快楽に、狂いそうになった。
「ひぐ、あっ、あ゙っ、ひっ、ひっ、ひっ」
 暴力的な快楽に喉が引きつれ、息が出来ない。どれだけ大きく口を開けても肺に入ってこない空気に、意識が遠のきそうになった瞬間、両頬に何か触り、口が塞がれ、ふう、と空気が送り込まれた。
 それを切っ掛けにまた呼吸が出来るようになり、思い切り咽ながら、水底から上がった時のようにぜいぜいと息を吐く。
 しかし快楽は収まっておらず、意味をなさない喃語を喚くのを止められなかった。

「あー、おまえでも辛いか。まあ、そうだろうな」
 悶える体力も底をつき、ひくり、ひくり、と痙攣し続けるだけの身体に、イェマが宥めるように抱き着いて何か言った。
「神の体液だ。それも精液ともなれば、宿る神力は尋常ではないからな。人の身で受ければ、まず耐えきれん」
 まあ、おまえはおれと契約したから、大丈夫だとは思うが、と続けられるが、理解をする余裕がない。
「それでも今回おまえは初めておれの精を受けるからな。輪をかけて堪えるだろうが……。まあだが、馴れだ。おれの力がおまえに馴染めばここまで辛くなることもない」
 そう言って下腹を抑えるように撫でられる。ナカに溜まっている精液がじわり、と伸ばされ、沁み込むような錯覚に再び快楽が爆発的に肉体を蝕み、絶叫した。
「あ゙ぁあ゙!あ゙っ!がっ、あ!あっ、あっ!」
 びくん!と前に突き上げた腰に、硬く、反り返った性器が揺らされ、己の腹を打つ。
 その先端からは、とぷとぷと白く粘ついた粘液が際限なく漏れているが、それが精液混じりの先走りなのか、それとも射精としての精液なのか分からない。
 出口の見えない快楽に、舌は突き出て、目は宙を飛ぶ。射精、というのが男の快楽として終わりだというのなら、この快楽の終わりは一体どこになるのだろうか。
 精神が軋み、おかしくなってしまいそうな快楽など、知らない。このままでは壊れてしまうという恐怖に、とうとうみっともなくイェマに縋りついた。
「い、いぇま、あっ、ああ!いぇま……っ!こわい、たのむ、こわい……ぃっ!」
 驚いたように目を大きく見開いた神は、すぐにとろりとその瞳を和らげ、銅の髪を優しく撫でやった。
「大丈夫、だいじょうぶだ。安心しろ。ほら、きもちが良いだけだろ?」
 くふ、と笑い声が耳を擽り、ゆっくりと身体が離れ、腹から腿にかけて撫でられる。
「かわいいやつめ。――今日はあともう一度だけ味を覚えておこうな」
 へ、と言うよりも先に、濡れに濡れた後孔に、ちゅぷん、と何かが潜り込んで来て、目を見開いた。

 ぎしぎしと軋みながら顔を下に向ければ、大きく開いた股の間に、イェマの身体があり、そしてその腰はぴったりと己の尻に密着していて。
「は、え、あ、あ、あ……」
 にっこり、と幼気で愛らしい笑顔を浮かべているが、今はどんな魔物よりも恐ろしく感じる。
「い、イェマ、まっ――」
 待ってくれ、と制止するよりも先に腰を打ちつけられて、かひゅ、と喉を反らせて息を鋭く呑んだ。
 そのまま、ぱちゅ、ぱちゅ、と音を立てて抽挿され、先ほどの挿入とは比べ物にならない快楽に仰け反り、舌を突き出して悲鳴じみた嬌声を上げる。
「いぇ、まァああ!あっ、まっ!あぁあ゙!!!ひぐ、い!いっ、いあっ!!」
 精液を塗り広げるように腰を回され、奥まで流し込むように突き上げられ、その度に瞼の裏に白い光が散り、腹の内から焼き尽くそうとする快楽の炎に、狂ったように悶える。
「あ゙あ、うぁあ゙!ゔ、うぅっ!!ぐ、あ゙っ!!ぉあ゙あああ!!!」
「ふっ、ふふ、ふはは、最早獣のようだな、んっ」
 笑いながら、かわいい、と囁くイェマの美的感覚に疑問を持ちたいが、今はそんなことに構っている余裕はなかった。
 ごり、と音がしたと感じるほど強く腹側を穿たれた瞬間、強烈な快楽の雷に打たれ、びちゅ、と絞り出すように思い切り射精をした。
「あ!ぐ、いぃ゙―――――ッ!!!」
 今まで生きてきた内で一番壮絶に気持ちがいい射精だった。精通を迎えた時よりも、初めて女を抱いて、その膣で射精した時よりも、後孔を穿たれ、前を触らずに達する方が気持ちがいいなど、もう男としてどこかおかしくなっているのでは、と気が遠くなりながら思った。
 が、射精で多少落ち着いた快楽も、腰を打ちつけられて再燃する。
「ひぐっ、い、イった!イェマ、ぁぐぅっ!いぇまっ!イった、から……っ!!」
「は、あ……あー、出すぞ」
「!?」
 告げられた言葉の意味を理解し、血の気が引く。
 出すとはつまり中に射精するという意味で、さっきの快楽をこの状態に上乗せしたら、本当に壊れてしまう。
「まっ、イェマ!!あ゙っ、まて、ゔぁっ!ダメ、だっ!!なか、はぁあ゙っ!しぬ!!しんで、しまう、ぁああっ!からっ!!!」
 抗いたくても、もう力が出ない。それでも必死に喘ぎ声の合間に制止の言葉を口にするが、イェマは止まる気配も見せない。
「やめっ、うあっ、やだ、いぇまぁっ、あぁあっ!や、うっ、ひぐっ、あ!あっ、あ゙っ!」
「あっ、ん、くふ、ふっ、んぁ、ゼノウィズ、存分に――味わえ、んっ」
 びしゃり、と脳内で再び白が撒き散らされる音を聴き、既に極限状態だった快楽がとうとう飽和した。
 ぐるり、と完全に眼球が裏を向き、意味をなさない音が舌と共に零れる。ジョバ、と股間か生暖かくなり、開放感に法悦と恍惚の笑みを浮かべ、意識を失った。




「んあ゙ぁああああ゙ぁ――――……っ!!!!」
 二度目の射精に絶叫していた男は、全身を硬直させて絶頂に浸った直後、その性器の先端から尿を漏らし始めた。
 ショロロロ、と音を立てて腹の上に尿をぶち撒けるその表情は悦に浸りきっており、正気どころか多分意識もないのだろう。
 性器を後孔から抜けば、とろり、と白濁が一緒に溢れるが、それを拒むかのように、ひゅく、と窄み、咀嚼するようにひくひくと痙攣している。
「――ふ」
 痙攣しながら尿を漏らし、白目を剥き、ともすれば笑みにすら見える恍惚の表情は、中々にあられもない。だが。
「ふは、はは、くくく――かわいい」
 弛緩しきった身体に抱き着き、射精の余韻で頬を上気させながら神は頬ずりをする。
「漏らすほど気持ちよかったのか、ゼノウィズ。かわいいな、くく」
 くつくつと機嫌良く喉を鳴らしながら、これからも壊れそうになるほど愛でてやろうと、神は何度も気に入りの人間に頬ずりをした。




 呼び鈴を鳴らされ、神の天幕へと一人の従者が足早に向かう。
 この軍を率いる神は、幼子の姿をした鮮烈な戦神だ。特に理由もなく周囲に怒りを向けるような過激な性格ではないが、何せ相手は神であり、おまけに戦を司っているのだ。不敬と判断されれば、人間の一人や二人、殺すことに躊躇いはないだろう。
 仕えられることに慣れているだろうに、何かと一人でこなすことが好きな戦神が、人を呼びつけるのはあまりないことなのだが、一体何があったのだろうかと小さな不安を抱きながら、ついた天幕の外から声を掛ける。
アツァ、参りました」
「はいれ」
 促されて天幕に入り、まず鼻孔を擽る汗と精の――情事の香りに、ぎょっとする。
「汚れた。新しいのと変えてくれ。今、おれは手が離せん」
 広い天幕の奥に置かれた寝台から声がし、顔を向ければ、なるほど床に敷き布や毛皮が落ちている。そして流れで寝台に目を向けてしまい、見てはいけないものだったと後悔をした。
 ぐったりと戦神に身体を預けている全裸の男。いや、戦神が背後から男を抱きしめているのだろうか。体格差ゆえに、戦神の身体は男の身体で隠れ、かろうじて肩から上が見える程度だ。
 銅色という珍しい色合いの長髪で表情までは分からないが、その引き締まった体躯から、戦いを知っている人間だということは分かる。意識がないのか、他人が入って来ても、ぴくりとも反応がない。
 全裸の男と、同じく多分全裸である戦神。男の身体はよく見れば薄っすらと濡れているようで、加えてこの色濃い情事の香りとなると、一体ここで何があったかは想像に難くない。
 さっさと出ていくことに越したことはないと、手早く多分寝台に敷かれていたのであろうものを回収する。
 天幕を去り際、抱きしめた男の頭に愛おしげに顔を埋め、非常に機嫌良さそうにしている戦神がちらりと視界に入ったが、何も見なかったと己に言い聞かせ、外に出る。

 ――それにしても、あの屈強そうな男が失神するとは、一体なにをされたのか……。
 下世話方向に行きかけた思考を慌てて振り払い、従者は来た時と同じように足早にその場を去った。



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