Novel | ナノ


▼ 5


 既に食べてしまっていた身体は、燻っていた熱を再燃させるのにそんな時間はいらなかった。
 くたりと力が抜け、ろくな抵抗も出来ない内に制服を脱がされてしまう。
 床に仰向けに転がされると、またあのチョコを唇に押し当てられた。
 これ以上食べたらおかしくなると力無く拒めば、先輩はそれを口に含んで、暫くして溶けたチョコを口移して来た。
 喉を通る甘い甘いそれに酔う。
 先輩の喉も時折動いて、それを飲んでしまった事が分かった。
 さっきよりもずっと多い量を摂らされて、思考が輪を掛けてぼんやりとする。
「……はは、結構クるなこれ」
 自嘲の様な笑いを零した先輩は、僕の太腿を掴むとぐいっと持ち上げた。
 裸で赤ん坊がオムツを取り換える様な格好をさせられて、羞恥で顔が赤くなるのは分かるのに、身体も表情もぼんやりとしていて動かない。
 ただ身体が重くて、熱くて、もどかしくて、切なくて堪らなかった。
 する、とあらぬ所を触られて、流石に身体が跳ねる。

「ん……濡れてないもんな……何か使える物……」
 先輩は顔を上げて辺りを見回すと、ニヤリと笑みを浮かべて手を伸ばした。
 暫くの沈黙の後、ぐっと後孔に何か押し当てられ、無理矢理ナカに入って来た。
 まるで幼い頃、座薬を入れられた時みたいな不快感に息が乱れ、眉間に皺が微かに寄る。
「せ、……ぱ……」
「大丈夫だよ、ただのチョコ」
「!?」
 驚いて目を見開くが、自力で出せそうには無いし、体温でみるみる内にチョコが中で溶けて行くのが分かった。
 とろ、と少しだけ漏れ出る感覚が気持ち悪い。
「これで少しは潤滑剤になるな」
 その呟きの後に、ぐぬりと後孔を何かが割り入って来た。
「!?っぁ、あぅ……っ」
「指……まだ一本だけだから。痛い思いしたくなかったら、ゆっくり息吸って、吐いて」
 そう言い放った言葉は冷たい響きなのに、先輩の手が優しく髪を梳いてくれて自然に力が抜ける。
 口は笑みの形に歪んでいるのに、目がとても辛そうで。
 どうしたのか聞きたいのに、ナカでぐりゅりと指が動いて言葉が続けられなかった。
 抜き差しされ、時折曲げられる。内壁を擦る様な仕草は、異物感をさらに深めた。
「ひ、う……っん……ふっ……」
「もう二本入った。分かる?」
 ぐちゃぐちゃと音を立てながら弄られて、生理的な涙が零れる。
 ぽろ……っと眦を涙が伝うと、一瞬後孔を弄る指が止まった。が、直ぐに再開される。

「……んなに俺は嫌か」
 ぼそりと吐き捨てられた低い言葉を聞き取れずに、問う様な眼差しを向けるが、舌打ちと共に荒々しく後孔を解されるだけだった。
 どうしてこんな事をされているのだろう、とぐるぐると考えていると、ナカに入っている指がある一点を擦り上げた。
「んぁあっ!!??」
 途端に身体に走った痺れる様な快楽に、戸惑いの声を上げる。
 ひく、と足が戦慄き、無意識に後孔を引き絞る。
「……ここか」
 暗く沈んだ目で先輩が小さく笑う。
 動けない体の上に覆い被さられると、耳元で囁かれた。
「ここ、前立腺って言って、感じるかは個人差あるらしいけど、感じる人は馬鹿みたいに感じるんだってさ。丸本、薬で敏感になってるし、今弄ったら凄い気持ち良いかもな」
 それこそ、頭おかしくなったらどうする?と囁かれて震える。
 それはおかしくなる事の恐怖からなのか、先輩におかしくされるという事の期待からなのかは分からなかった。


「あ、あう……っん、ん、っぁ!」
 あれからどれくらい後孔を弄られているんだろう。
 前立腺、という場所から身体中に広がる快楽は、多幸感を伴って身体を痺れさせる。
 腹の上には後孔を弄られながら扱かれて一度達した精液が散っていて、その事で薬は少し抜けたものの、元々の量が多いからまだ身体は重い。
 ちゅぽ……と濡れた音を立てて指を引き抜くと、先輩は舌を出してその指を舐めた。
 白いそれは多分、ナカで溶けたチョコレート。
 慣らされながら数えきれないくらい入れられたそれは、ホワイトチョコだったんだと、どうでも良い事を思った。
 「甘……」と呟いた先輩が、此方をしばらく見つめた後、覆い被さって来る。
 カカオの匂いの中、いつも先輩の傍に立った時に薫った匂いがふわりと漂う。
 先輩の、大好きな先輩の香り。
 顔を上げると、先輩の顔が触れられる程近くにあった。目線が絡んで沈黙が広がる。
 次の瞬間、先輩の身体が沈み、後孔に熱い物が捻じ込まれた。

「あ゙っ!!あ……あ、ぁあ!」
 背中を反らせてその熱を受け止める。いや、受け止めさせられた。
 動かない身体を酷使して本能的に逃げようとした腰を、がしりと両手で掴まれて抑え込められる。そのまま腰を押し付けられ、ゆっくりだが確実に熱が入って来て……しまった。
 会陰部にちりちりと毛が当たる感覚がして、先輩の腰がぴったりとくっついている事が分かった。
 沢山弄られた事で多少なりとも柔らかくなっていたのか、後孔に引き攣れる感覚はあっても裂けた様な痛みは無い。
 ただ、ナカがとても重くて圧迫されている感覚が凄い。
 ドク、ドク、と脈打つ鼓動は自身のなのか、それとも先輩の物なのか。
 ふと先輩は一体どんな顔をしているのだろうと、そんな余裕は無いのに浅い息を吐きながら顔を向け――どきりとした。
 眉を切なそうに寄せ、歯を食いしばっている様子はどう見ても快楽を得ている表情で。
(――僕で、先輩が……気持ち良くなってる。)
 そう思っただけで胸が痛いくらい鳴って、無意識の内に後孔をきゅうっと引き絞っていた。
「……っ丸本っ」
 それが皮切りになって律動が始まった。
 最初は押し付けるだけだったのが、パンパンと肌と肌が打ち付けられる音がし始める程に段々と大きく。
 ガクガク揺さぶられ、ナカを性器で擦られる度に、熱い様な痛みと微かな快楽が走る。
「あ、ぁっあ、んあ!はぅっ」
「……くっぁ、丸本……まるもと……っ」
 律動を続けたまま抱きしめられて、深まった結合に嬌声の声が大きくなった。
 先輩、と呼ぼうとすれば、キスで唇を塞がれる。
 ここは学校なのにとか、先輩には彼女がいるのにとか。そんな事、どうでも良くなってきていた。
 例えこの行為が、男でも大丈夫ならば性処理に使ってしまえという悲しい物でも、先輩とこうやって繋がれたのならばもう、理由はいらない。
 名前を呼ばれながら抱きしめ、キスまでされて。まるで恋人同士みたいだなんて幸せな妄想に浸っていたから、ぽろっと……

「せんぱ……すき……」

 そう、言ってしまっていた。


 ピタリと音が止まる。
 さっきまでの濃厚な空気もシンと静まり、今自分が何を言ってしまったのかを気付かせるのには十分すぎた。
(――僕は何を……!)
 先輩は律動を止め、信じられない物を見る様な目でこちらを見下ろしている。
 その眼差しを受け止めるのが辛くて、怖くて、カタカタと震えながらぎゅっと目を閉じた。
「丸本……今、なんて……」
 茫然としたような響きに、ビクリと身を竦める。
「今……俺の事、すきって……言った?」
 慌てて首を横に振る。
 聞き間違いかと疑うくらいしか聞こえなかったのなら、そのまま聞き流して欲しい。
 でも、そんな訳にはいかなかった。
「言ったよな……?」
「い、いって、ませ……」
「なぁ、言ったよな?」
「いって、な……」
「……言ってくれよ……」
「……え?」
 低く囁いたと思えば、抱きすくめられた。
「言ってくれよ、すきって。嘘でも良い、今だけで良いから……っ」
「せ、ぱ……?」

「好きなんだ、丸本」

 息が、止まったかと思った。
 先輩が?誰を?僕を?――好き?
 ぶわりと体中を何かが駆け巡った。
 それは信じられないという思いと、喜び。身体はそれを顕著に表し、後孔に入っている先輩の熱を、愛しげにきゅうきゅうと締め付けた。
「っ!……う」
 快楽に呻いて耐える先輩に重い腕をどうにか伸ばし、制服のシャツの裾を握る。
「丸本……?」
「すき、です」
「……!」
 一瞬目を見開き、そして先輩は悲しげに微笑んだ。
「ん……ごめんな、ありがとう」
「ちが、」
「うん?」
「ちがう、んです。うそじゃ、ない……今だけじゃ、ない」
 必死で言葉を紡ぐ。
 嘘で言える訳が無い。ずっと、ずっと前から。

「ずっと、せんぱいのことが、すきでした」

 一瞬先輩は固まると、次の瞬間顔を歪めて倒れ込んできた。
「せんぱ……?ぁ、え……っぁ、あ!?」
「っゔ、ぁ……」
 耳元で先輩が呻き、びくくっと身体を震わせたと思ったら、体の中に熱い物が流れ込んで来たのだ。
 その熱い物と、ナカに挿れられている物が時折跳ねる感覚に、先輩が達したことが分かった。
「ご、め……耐え、切れなかった……」
 荒い息混じりで先輩は謝ると、顔を覗き込んで来る。
 達した事で漂う気だるげな感じが、とてつも無い色っぽさを出していて、それだけでも格好良いのに、その上慈しむ様な優しい眼差しを向けられてしまったら、赤面するのを抑える事が出来なかった。
「丸本……今の本当?」
 嬉しそうに聞かれるととても恥ずかしくて、でも伝えなければと小さく頷く。
 すると堪えきれないとばかりに、ぎゅうっと抱きしめられた。
「ごめん、こんな……丸本が他の男を好きだと思ったら、カッとして……最低だった。本当、ごめん」
 そこまで言って、ハッと先輩は後ろを向く。
 そこには先程叩きつけられたチョコがあって。
「あれも……もしかして、俺に?」
 苦笑交じりで頷けば、泣きそうな顔で再度ごめんと繰り返された。
「ごめん、俺なんて事……絶対食べるから」
 あんなにぐしゃぐしゃになった物を、先輩が食べる所なんて想像出来なくて、でも必死に謝る先輩が何だか可愛くて小さく笑えば、先輩は謝るのを止めてそっと頬を撫できた。
 嬉しさに身を委ねようとして……重大な事を思い出す。
「でも……せんぱい、彼女が……」
「彼女?」
 怪訝げな顔をした先輩を、おそるおそる窺う。
「彼女に会うついでに、ぼくを……家までおくってくれてたんじゃ、ないんですか?」
「……それ、どこで聞いた?」
 う、噂で聞いて……と口籠れば、先輩は小さく溜息を吐いた。
 何か呆れさせてしまったのだろうか、と不安がじわりと胸の中に滲み始めたが、「……格好つけるとろくなこと無いな」という呟きと共に困った様な笑みを向けられて、自分に向けた溜息では無い事に気付く。
「彼女なんかいない。そもそも用事なんか無かったんだ、でも口実が無いと送って行けなさそうだったから……ごめん」
 嘘を吐いてごめんな、と先輩は謝った。
 でも、それはつまり、嘘を吐いてまで送りたいと思ってくれたんだろうか……なんて、身の程知らずな事を思って赤面すると、まるでそれを見通しているかの様に先輩は微笑んだ。
「丸本の、ためだけだから」
 そう言われた瞬間に、涙が止まらなくなった。
 あんまりにも嬉しくて、一人で勘違いしていたのが恥ずかしくて、叶わないと思っていた恋が実った事が信じられなくて、そしてとても幸せすぎて。
 ひぐ、と鼻を鳴らせば瞼に唇が落されて、する……っと指に先輩の指が絡んできた。
「ごめん、本当に。こんな事して嫌われても仕方が無い……けど、まだ俺の事好きと思ってくれてるなら……」
「すき、すきです、今も、前も、すきです……せんぱい」
 嫌いになんて、なれません。
 そう最後まで言い切る前に、言葉は先輩の唇へと呑み込まれていった。


 手を繋ぎながら数えきれないくらいキスをした。
 触れる様なキスから、舌を絡め合う様な深いキスまで。
 今しているのは、深いキス。舌と舌を擦り合わせる、まるで口でのセックスみたいなキスはしているだけでとろりと意識が蕩ける。が、その蕩けた意識の中で、ふと違和感を覚えた。
(――あ、れ?)
 なんか、もしかして……。
 そろりと先輩を窺えば、目元を薄らと色気で染めながら見つめ返される。
「ごめん……また、」
 そう。僕のナカに挿れっぱなしにしていた先輩の熱が、キスをしている間に再び硬くなっていて。
 掠れた声で、「もう一回、シても……良い?」と問われたら、もう頷くしかなかった。
 ゆるゆると先輩の腰が動き始めるが、それはさっきの様な乱暴な動きじゃ無くてとても優しい物。互いに快楽を与える動きだった。
「丸本……気持ち良い?」
「は、あ……っんっは、はい……」
「良かった」
 ふっと優しく笑った先輩は本当にこちらを気遣ってくれているのが分かったけど、その瞳の奥に、微かに淡い快楽に焦れている色があるのにも気付く。
 先輩もあのチョコを食べてしまって、身体の火照りが治まっていないのだろう。そしてそれは、自分も同じで。
「せんぱい……」
「ん?」
「えっと……そ、の……僕の事は、気にしないで……せんぱいの好きに、う、動いてください……」
 そう言って、これじゃあ先輩は気遣って遠慮してしまうと慌てて言葉を重ねる。
「あの、僕も……っまだ、か、身体が……あの……」
 だからと言って『身体が火照っているから強く動いて』、なんて恥ずかしい事を直球で言える訳なくて。
 尻すぼみになりながらもごもごと呟いていると、強引に唇を奪われた。
 荒々しい口付けをされながら腰を掴まれると、ガツガツとキスと同じような荒々しい動きで揺さぶられる。
 でもそれがとても気持ち良くて。
 心が通じ合ってるだけで、こんなにも違うんだと初めて知った。

「まる、もと、丸本……っ、青っあお、青……!」
「せ、んぱ……っんあ!あぁあっ、んっんっんうぅっ!」
 腰の動きは荒々しいのに、握られる手が、施されるキスが、優しい。
 思いきり突き上げられて、隙間が無いくらいピッタリとくっついたまま腰を八の字にぐりぐりと回されると目の前にパチパチと火花が散るくらい気持ち良かった。
「……――っ!!!は、あ!アぁ、あ……っ!や、ぁ……っせんぱ、や、たすけ……っ」
「青、あお……っ好きだ、青……っ」
「やぁあ!せ、ぱ……っあ、あ、おしり、ひもち……ぃあぁああ!!!」

 後は、快楽を二人で貪っただけ。
 何度もイって、イかして、イかされてを繰り返し、その合間に壊れた様に互いを呼んだ。



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