Novel | ナノ


▼ 5

 敷きっ放しだった布団に横になると、総十郎が服を脱ぎながら覆い被さって来た。袴も脱いだ総十郎に、ちょっと目を見張る。
「……(ふんどし)
(あ、そっか。昔はボクサーパンツとか無い……。)
 友達とかが褌はいてたら笑う。絶対笑うと思うのに、総十郎には何でか似合っていた。
 渋いだからだろうか……なんて再度ちらりと見たら、褌の布が微かに持ち上げられている事に気付いて赤面する。
『秋邦殿……』
「はいっ!」
 いつもはしないような返事をしてしまって、思わず顔を合わせると、ふふっと笑いあった。
『申し訳ないが、服を脱いではくださらぬか。この時代の服の作りは余り良く分からぬ故……』
「あっ、うん。そうだよね」
 そう言いながら着ていた衣服を脱ぎ始めるが、なんだかストリップショーを見せている気分になってくる。
 ズボンに手を掛けた時にちらっと総十郎を見れば、物凄いこっちを見ていて思わず目を逸らしてしまった。
 ストン、とズボンを落とし、ああ下着も一緒に脱げば良かったと後悔しながら、布団の上に座ると、ボクサーパンツのゴムに手を掛け、足を抜いた。
『……綺麗でござるな』
 伸ばされた足を、すっと総十郎が撫でる。総十郎を前から見るのは初めてで、がっしりとした腕や胸に切られた後があるのが分かった。そんな身体を見ていると、なんだか男として貧弱な気がして情けなくなる。

『秋邦殿……何か、油の様な物はござらんか』
「油?」
『滑りを良くするための物……ああ、軟膏でも良いでござる』
「えっと、じゃあコレ……」
 傍にあった机の下の段の引き出しから、ローションを取り出して渡す。使っていたやつの残りだが、滑りを良くするならこれで多分良いだろう。
『……それでは、俯せになって下さらんか』
「ん」
 ローションのボトルを受け取った総十郎が次に出した指示に従う。俯せになった方が、息子も隠れて気が楽だと思ったら、腰を掴んで高く上げさせられて慌てる。おまけに足も軽く開かせられて、酷く情けない恰好になっている事が分かる。
 夕方でカーテンは閉めたと言っても、お互いの姿が見えるくらいには明るい。
 慌てている間に尻の間にローションを垂らされ、自分では触った事の無い部分を撫でられた。声を上げて反射的に腰を引こうとしても、逞しい腕で固定されていて逃げられない。
 思っていた以上にとんとんと進んでいく下準備について行くのに必死で、気付いた時にはもう指先を入れられる寸前だった。
『痛かったら言って下されよ……』
「えっ、ちょっ、……っあ!」
 ぬぐ……っと中に入ってきた指に、驚き、呻く。
「……っふ、ぅう……」
『息を吐いて、力を抜いて下され……そう、ゆっくり……』
「んぅ、う……ぁ」
『確かここらへんに……何か感じられたら言って下され……』
 ぐにぐにと内壁を指で探られて、その違和感に眉根を寄せる。
 でも指先がある一点を揉み込んだ瞬間、まだ萎えている性器から何かが漏れそうな感覚がした。
「っああ!」
『ん、ここでござろうか』
「……っふ……っなんか、いや……っ」
『辛いでござるか』
 慌てて顔を横から覗き込んできた総十郎を、横目で睨み付ける。
「……っ、なんか、総十郎凄く慣れてる……っ」
『そ、れは……』
「初めてじゃない」
『う……その、一度付き合いで男娼と……』
「だっ……」
 男娼とか、男娼とか!自分は肉体関係を持った事が無いなんて口が裂けても言えないけど、同性とは無いし、でもそんなの嫉妬したってどうしようもないのに嫉妬してしまう。
「……やっぱ昔遊んでたんだ?」
『そ、そうではござらん!』
「……まぁ良いけどさ……昔の事なんて言えないし……」
 痛む胸を抱えて枕に顔を埋めると、弄って貰いやすいように足を広げ、後孔の力を意識して抜こうと心がける。総十郎はそんな俺の髪を撫で、耳の後ろに軽く唇を落として来た。
『申し訳ござらん……しかし、この様な想いを抱いたのは秋邦殿ただ一人でござる……』
 無言を貫けば、信じてくだされ、と悲しそうな声が耳をくすぐった。
「……別に信じてないとかじゃなくて……ちょっと、その……嫉妬しただけだから……気にしないで、ごめん」
 切実な総十郎の声に何だか申し訳なくなってきて、そう呟くと、ああ格好悪いと思いながらぎゅっと枕を抱き締める。もうやだ。こんな気持ち重くて手に持ってられない。
 どろどろと濃くて濁っているこんな気持ちが恋なのだろうか。愛なのだろうか。俺が今まで付き合って来た人達は、こんな気持ちを持ってたんだろうか。
 ……そうだと分かると、今までの自分がとてつもなく人の事を考えていなかったのだな、と思い知らされた。

『……嫉妬してくれるのは嬉しいでござるが、上の空は頂けませんな』
「ひゃうっ!」
 急にペニスを掴まれ、上下に扱かれて腰が跳ねる。ここを刺激されて気持ち良くない訳が無い。
『今この瞬間、拙者以外の事を考えるのはやめてくだされ……』
「……っぁ、それ、嫉妬……?」
『そうですな、嫉妬でござる』
 首を捻れば、眉を顰めて不機嫌そうにしている総十郎が目に入って、思わず笑ってしまう。それにつられるように総十郎も笑った。お互い恰好悪い者同士、恰好悪い所を曝け出せばいいかと、くすくすと笑い声を立てながらどちらからとも言わず顔を近づけ、唇を重ねた。

 総十郎にリードされて、ゆっくりと後孔を緩めていく。指が三本入るようになった頃、そろそろ良いかと指を引き抜かれた。
『……良いでござるか、秋邦殿』
 その言葉に振り返れば、褌をずらして剛直を取り出している姿が目に入る。
 既に熱り立っているそれは血管が浮き出て、時々ビクッと別の生き物の様に動いていた。自分にも同じ物がついていると言えど、他人の完勃ちのそれを生で見るのは初めてで、その存在感に生唾を飲みこむ。
 自分の物が大きいとは言いづらいけど、それなりのサイズだと思うのに、総十郎のは身体に見合う大きさで一回り以上デカい。
 そんなの入れたらケツが壊れるんじゃないかな、なんて今更ながら怖くなってきた。
『秋邦殿……』
「あっ、うん!大丈夫……」
『嫌でござったら止め――』
「駄目、嫌だっ」
 ストップの意味を含む総十郎の言葉を遮る。
「嫌だ、止めるのはいや。総十郎、早く――」
 自分で尻の肉を掴むと、横にぐっと押し広げる。
「挿れ――あ゙あ゙ぁああああぁ!!!」
 「挿れて」と口にする前に、総十郎に腰を掴まれ、思い切り奥まで突き入れられた。
 腹を突き破りそうな勢いのそれを受け入れた後孔は、総十郎が念入りに解してくれたのが幸いしてどうにか切れずに済んだようだ。
 それでも初めてなのにこんな扱いをされて、痛みと圧迫感に喉が狭まり、ひゅーひゅーと鳴る。

『秋邦殿……っ』
「え゙っ、ぁあ゙!!」
 まだ総十郎の剛直に慣れていない後孔を、総十郎が踏み荒らす。
 ぬこぬこと浅く出し入れされて、動きが良くなると大きく突き上げられた。内壁が捲り上がって、総十郎に絡み付くのが分かる。
 快楽なんかそこに無くて、激痛と衝撃に汚い声が出た。
「ゔっ、ぐ……ぐぅ!!」
『秋邦殿、秋邦殿……っ』
「そ……っじゅ、ろ……っ」
 ガツガツと突き上げる総十郎を止めようと首を捻ると、そこにいたのは獣の雄だった。
 目を爛々と光らせ、猛った牙で獲物を貪る獣。
 その餓えた様子はあの柔和な総十郎からは想像がつかない物で、ああなるほど、こんな風に抱かれたら一発で孕んじゃいそうだな、なんて下品な事を虚ろな頭で思う程荒々しかった。
 その獣と目が合えば顔が近づいて、唇に歯を立てられる。唇に走るのは通常のキスでは感じる筈の無い、皮を破かれるちりっとした痛み。
『……っ、離れたく、無い……!』
 唇が離れた時に聞こえた押し殺された言葉に、息を飲んだ。それと同時に、痛みもどこか遠のいた気がした。
 止めようと思って掴んだ腕をそのままに、離れたばかりの唇を追いかけて重ねる。重ねたまま、腰を総十郎の動きに合わせてゆるゆると動かし始めた。辛いのは俺だけじゃない。総十郎も辛いと思ってくれている。
 ……必要とされている痛みなら、耐えられる。
「総十郎、好き、好きだよ……大好き」
 そう言った途端、総十郎の腰の動きが止まった。
 腰に回された腕が、ぐっと強く締められる。

『……っ何故、拙者は死んでいるのでござろうか……っ』
 ぱたたっと背中に何か落ちるのが分かった。
『死人でも、良いと。秋邦殿に出会えて、守れるのは死人であるからだと、ならば満足だと……。なれど欲が溢れてくる。もっと秋邦殿の傍に居たい。傍に……っ』
 その言葉に涙が出そうになる。
 俺だって一緒に居たい。でも、それは無理なんだ。
「総十郎……向き、変えたいから一回抜いてい?」
 ずるっと熱が抜けていく感覚に背筋を震わせながら、抜けきると仰向けになって総十郎の頬を挟んだ。
「……総十郎、俺待ってるよ」
『……秋邦、殿』
「ずっとお前を待ってる。ここで。だから会いに来て」
 転生すると総十郎は言った。ならここで待ってる。お前が再びこの世界に戻ってくるのを。
『……待っててくださるのか』
「うん。だから早く来て」
『……分かり申した』
 秋邦殿を長くお待たせする訳にはいきませぬ故、とふっと笑った総十郎と次は快楽を分かち合う為に腰を繋げた。


「あ、うっん、ん、んっ」
 さっきよりも痛くないけれど、圧迫感のみで快楽を与えてくれない後ろだけでイくのは無理だ。
 総十郎の硬く割れた腹に、濡れた熱の先端を擦り付ける様な形で快楽を得る。
「あっ、そうじゅうろ、気持ち、いい?」
『っは、勿論……っ』
 そう言って快楽に顔を歪ませる総十郎が嬉しい。でも、その額には汗を掻いていない。
 他人がこの情事を見たら、俺は一人で布団の上で善がり、喘いでいる様にしか見えないのだろうかと思うと、ぞっとして総十郎の腰に足を絡ませて密着した。
 その時、ごりっと総十郎の熱が中の何かを擦り上げて、目を見開く。
「ひ、ぃっ!」
『?……秋邦殿?』
 その擦り上げた所から、凄まじい快楽が走った。はくはくと浅い息をすれば、総十郎の腰が再びさっきの所を擦る。
「ひ、ぁああんっ!」
 自分の声とは思えない様な高い声に、総十郎の目がいやらしく光った。
『此処……悦いのでござるか?』
 くんっ、くんっと掘り上げる様な動きに四肢を痙攣させる。
「やっ、あぁ、ダメ!」
『悦いのですな……』
「んぁああああ!!!」
 舌なめずりをする総十郎はそこを重点的に刺激してきて、目の前がちかちかする。
 腰が腰を打つ音が早くなり、腹の間でペニスがもみくちゃにされるのも相まって、もう何が何だか分からない快楽に放り込まれた。
「あああぁあっ、あっ、ダメ、おかしくなる……!あふっ、んっ」
『秋邦殿……っ』
「イく、あ、イっく、イ……っ!!んんぁああ!!」
『……っ!』
 足の先を伸ばしながら全身で絶頂に達すると、びゅっと総十郎の腹に白濁を散らす。
 達する時に後孔も締めてしまったのか、総十郎も呻き、どくどくと中に熱を注いだ。

 二人で荒い息を吐いてそれなりに落ち着くと、ずるりと総十郎が中から出ていく。緩んでひくひくと蠢く後孔からとろ……っと何かが出て来るのが分かって、指でそれを掬えば、かき混ぜられた白濁が指についた。
 ……これも俺にしか見えないのかな、と思って口に含めば苦いとも何とも言えない味が口の中に広がった。多分これも俺にしか味わえないのだろう。
 無言のまま体を重ねると、抱きしめあいながら目を閉じた。……こんなに気持ち良くて、心が満たされて、そしてこんなに切ないセックスは初めてだった。



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