▼ 3
獲物を狩る時、森の中を駆ける時、ふっといつも思考し話している時とは違う猛々しい思考に切り替わる時がある。
それはこの虎の身体が元から持っていた本能の名残の様な物だろうと、育ての親は言っていた。
ナツラがこの姿のまま抱いてくれと言ったその時から、同じ衝動が身体を支配していた。
快楽を共にする行為では無く、自分のモノにするために犯し、己の精を受け入れさせ、匂いを塗りつける行為。
激しい飢餓感が身体を襲い、ただ自分の四肢の下にある柔らかい肢体を犯し尽くす事しか頭に無くなる。
精をその身体の中にぶち撒けた瞬間、その飢餓を満たす幸福感に身震いをした。
身体を離すと支えが無くなった事で、白い肢体がくたりと力無く横たわる。
まだ小さく痙攣をしている身体、その足の間から大量の白濁がゴプリと音を立てながら漏れ出るのを見て愉悦にざわりと毛が逆立った。
いつもの人間の姿で行った時とは違う感情の衝動。
――これで、こいつは俺の雌だ……!
自分の中の獣が嬉しくて仕方が無いと咆哮した。
荒く息が切れる中、オリウルが自分の中から出て行った事で、塞いでいた中身が後孔から溢れだす。
(――ああ、勿体、ない……)
掠れる思考で止めないと、と思うのに熱で広げられた後孔はぽっかりと口を広げていて、力が入らない今ではひくひくと僅かに開閉するだけだった。
気怠い心地良さに息を吐くと同時に、がばりと抱きすくめられて思わず身体が強張る。
それは予想していた獣の感触では無く、逞しい人間の物だったから。
「オリウ――んっ、ふぁ」
上を向かされるとすぐに唇を塞がれる。ふわっと舌を擽る甘さはきっとあの花の物だ。
なされるがまま咥内を蹂躙され、唇が離れると舌と舌を糸が繋ぐ。
「オリウル」
「今……凄く、嬉しい」
そう囁いたと思ったら、ぎゅっと抱きしめられて胸板に押し付けられる。
「……どうしてか分からない。でも、今凄く嬉しい。俺と一緒に森に来ると言ってくれた時からナツラは俺の恋人で、伴侶で、番だと思っていたのに、まるで……今、本当に全部自分の物になった様な感じがする」
うっとりと囁くオリウルに嬉しさが溢れて止まらない。
暖かい胸に頬を押し当て、微笑む。
「僕も……そう。オリウルの全てを受け入れられた気がする」
虎の姿の時、彼はオリウルだった。しかし人間の姿の時、虎だと分からない様に彼はキーオンと名乗っていた。
キーオンという名前が偽りという訳では無い。どちらも同じオリウル。
今ではオリウルという名で統一しているが、それでも異なる姿それぞれに名を持っていた事でどこか微かな一線が引かれてしまっていた。
それを身の内で一つにした感覚。
ふとオリウルの髪が前に落ちて来て、表情が分からない事に気が付く。
重い腕を伸ばして頬を撫でる様に掻き上げて――。
「ナツラは俺の物だ。もう誰にも渡さない」
その下から現れた鋭い獣の瞳に思わず息を呑んだ。
優勢の位置に立った勝者の獣の瞳。自信と愉悦と、荒々しさと。それらが全て混ざった瞳に支配される。
固まっていると髪を掻き上げていた腕を掴まれ、その内側に唇を付けられた。
そこにはあの子虎に付けられた引っ掻き傷や甘噛みの傷がある。
「――もう他の雄の痕なんてつけさせない」
「っ!」
そう囁いてガッとそこに歯を立てられた。
鋭い犬歯が傷に突き刺さり、滲み僅かに滴る朱をぺちゃぺちゃと舐め取られる。
その舌の動きにずくんと腰が疼いた。
「オリウル……」
身体を再び満たし始める熱に浮かされながら、誘う様に愛しい人の名前を口にする。
舐められている腕とは逆の腕を背中から逞しい腰へとそろそろと這わせた。
ふっ、とオリウルが笑う気配がし、再び口づけられる。
花の味の次のキスは血の味がした。
じゅぷじゅぷと卑猥な音を立てて、オリウルの熱が出入りする。
中から溢れる程注がれたそこは熱を一突きされるごとに白い液を零した。
虎の性器とはまた違う性器。大きく、熱く、張ったカリがごりごりと中を擦り、堪らなくなる。
「あっああ!は、うんっあ!やっあ、ああぁ!」
「はっ、凄いな……っ、中がとろとろだ……っ」
快楽に眉を寄せ、頬で笑うオリウルの婀娜っぽい表情に胸が高鳴る。
この精悍な顔で微笑んだり、快楽を貪って恍惚とするのを見るのが凄く好きだ。それが自分で得てくれる快楽ならば猶更。
「オリ、ウル……オリウルっあ、あう、きもちっ、気持ちひい……っもっと、もっとシて……ぇ」
「ああ……っふ」
軽く息を詰めた後、オリウルはにやりと笑みを浮かべた。
「でもナツラは激しいのも好きだが、こういう動きも好きだろう?」
そう言って激しい動きを止めると、ゆっくりと腰を回し始めた。
さっきまでのどこか荒々しい感じは無く、じりじりとした厭らしい腰使いに深い息を吐いた。
「あ、あ、あ……」
「ナツラ」
身体を隙間が無いくらい、ぴっとりと重ねるとオリウルが耳元で囁き、舌と唇で耳を舐る。
官能を炙る様なゆっくりとした動きに堪らず音を上げた。
「いや、やぁっ、おね、が……オリウル、たすけ……っ」
「……何が?」
「ひぅっ……こんな、も、つらいから……っ」
お願いだから激しくして欲しいと言外に伝えれば、精悍な顔に優しい笑顔が灯る。
「どこがどう辛い……?」
「ふ、ぅ、あ……あう……っ」
「ナツラ、どうして欲しいか言ってくれれば、俺はその通りにする」
その甘美で優しい言葉に涙を零しながら、どもりどもり言葉を口にする。
「お、おねが……っナカ……っオリウル、もっと激しく、して……っおねがい、もっと……奥、つ、突いて……っ」
「分かった」
笑みを浮かべるとオリウルの肩に力が入る。
その力が胸を伝い、腹を伝い、ゆっくりとした動作で腰に辿り着いた瞬間、ずん!!と脳天まで重い衝撃が走った。
「……っは!あ゙!!」
背中を反らせ、口を大きく開ける。
目が宙を飛び、舌が突っぱねてしまう程激しい衝撃と快楽だった。
再びゆっくりと肩に力が入り、同じ様に移動して重い一突き。また力が入り、一突き。
声も上げられない快楽にいつの間にか白濁を腹の上に洩らしていた。
びくりびくりと痙攣している間もなく、両膝を持ち上げられ結合部を晒される。そしてそのまま激しい律動が始まった。
オリウル自身が吐き出した精にしっとりと濡れている下生えに、白濁を纏わりつかせて後孔から出たり入ったりする性器は卑猥すぎてくらくらした。
「あ、あぁあ、あ、んっんっ」
「ナツラ……ナツラ……っ」
息を乱し、腰を振るオリウルの色っぽさに快楽に疲労しているというのに、身体は更なる高みへと駆け上がる。
「あっオリウル……だいすき、ひぁうっ、だい、すき……っ」
「俺も、ナツラが好きだ……っ」
「ひぁあ、あああァあ――……!!」
「はっ、あ……っゔっ」
身を屈め唇を合わせると、その体勢で奥まで熱が入り込み、その余りの深さに何も出さずに絶頂に達する。
真っ白な快楽にナカの熱をぎゅぅうっと締め付けてしまい、オリウルの呻きと共に奥の方で熱い精を感じた。
二人でぐしゃぐしゃになった寝床の上に横たわる。
荒い息を吐きながらも、オリウルはしっかりと抱きしめてくれていた。
「……なんか、勿体ない、ね」
「何がだ?」
後孔から溢れる暖かい精液に、自嘲じみた笑みを浮かべる。
「……ああ……そういう事か」
それで分かったのかオリウルは唸った後、がぶりと首筋に噛みついて来た。
「い、痛っ」
「馬鹿。子供なんかいらないと言ったばかりだろう。……それにな、例えナツラが人間の女だろうと、虎の雌だろうと子供は生まれん」
「えっ何で?」
「俺は生物として異質だと言っただろう?性交は出来ても、実は結ばない。……育ての親が言っていた」
「あ、あの赤い鳥の」
そうなのか、と胸の中で呟いた。
紅の身体のオリウルの育て親。彼女には何度も会っている。
もしかして彼女は自分の家族を作ろうとしたのだろうか。そして無理なのだと悟ったのだろうか。
悲しい想像をオリウルの逞しい腕の抱擁と耳に心地良い声が振り払う。
「だから気にするな。俺はお前だけ、ナツラだけいてくれたらそれで良い。他には何もいらない」
そう言って髪に鼻先を埋め、すり、とすり寄せるオリウルにやっぱり僕は救われ、そしてまた惚れていく。
「ねぇオリウル、お願いがあるんだけど……」
「ん?」
「……また虎の姿になってもらっても、良い?今日はその姿で一緒に寝たい」
目を瞬かせたオリウルは勿論、と笑顔を見せて額に小さくキスを落としてくれた後、みるみる内にあの大きな白い虎の姿になった。
優しい灰色の瞳が「おいで」と言っている様で、その柔らかい毛並に身体を凭れさせる。
ふかふかのそこに顔を埋めながら、ふふっと笑えばオリウルが喉を鳴らして答えてくれた。
「明日は一緒に水浴びに行こうね」
明日も、明後日も、ずっと。
- 終 -
2011.11.30
【追記】