Novel | ナノ


▼ 2


「良かったね」
『ああ。親が昼寝をしている間に遊びに夢中で迷ったのだろう。良くある事だ』
「……うん」
 彼がいなくなった事で、いつもの状態に戻っただけだというのにやけに寂しくなる。
『寂しいか』
「ううんって言ったら嘘になるくらいは寂しいかな」
『……』
「でも僕にはオリウルがいるから」
 微笑んでオリウルを見れば、背中をするりと尾で撫でられた。
「僕らの家に帰ろうか」

洞窟を住処にしていると言っても、とても住み心地の良い場所だ。例の光る水晶を取って来て洞窟内を照らしてあるし、奥に小さな湧水があるから飲み水には困らない。
寝床も鳥から集めた羽毛を詰めたクッションがあったり、鞣した毛皮を敷いたりしてあるのでふかふかと暖かい。
それに何より、オリウルがいつも傍で添い寝をしてくれるので寒い事は無いのだ。
乱れている寝床を整えようと身を屈めた瞬間、ぐっと背中を押され、気が付けばオリウルが見下ろして来ている恰好になっていた。
「オリウル?」
オリウルは無言のまま、顔を首に埋めるとべろりと舐めあげてきた。
 柔らかい毛並が頬を擽る。
「どうしたの?」
 その頭を撫でながら抱きしめると、大きく息を吐く音がした。
『……金の方が好きか?』
「え?」
 何の事か分からずに首を傾げる。
『白よりも金色の方が好きか?……やけにあの子供に構っていた。そういえば俺が人間の姿で出会った時は子供だったな……まさか子供が好きなのか』
 じっとりとこちらを見つめる鋭い灰色の瞳は、不機嫌そうに眇められていて……思わず、笑ってしまった。
『何を笑う事がある』
「ふふっううん、くっ、ふ、はははっ」
 喉奥で微かに唸るオリウルに堪えたのだけど、堪えきれずに声を上げて笑ってしまう。
 笑いながら頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。
「うん、僕は子供が好きだよ」
 驚き、息を呑むオリウルに、また笑いを零した。
「でもオリウルに対する好きとは全然別。僕はオリウルが何よりも、誰よりも好き」
 丸い耳にそっと囁く。
「……泉で虎は子を大切にする獣だ、ってオリウル言ったでしょ?でも、オリウルは、その、親に捨てられたんだよね……?」
『俺は別だ。俺は生物として元々異質で――』
「うん。分かってる。でもね、僕はやっぱりそれって悲しいと思ったんだ」
 柔らかい毛並は指が簡単に埋まり、オリウルの様に優しく包んでくれる。それに頬ずりをして目を閉じた。
「僕は知ってる。家族に捨てられる悲しさを。子供の心がどれだけ傷つきやすいかを。だからね、僕は子供を大切にしたい。――そして、オリウルと一緒に家族を愛し、愛される喜びを感じたかったんだ」
 幼い頃、オリウルと会う事で心の傷が癒され、オリウルを見る事が出来なくなっても只管待ってくれて、そしてあの場所から救い出してくれた。
 一体どうすれば恩返しが出来るのか分からないのに、彼は毎日愛をくれて。もうどれだけの物をもらったかなんて分からなくなってしまった。
「あの子の親が死んでいる事を望んでいた訳じゃ無い。けど、あの子が僕らの子供になったら、一緒に育てて、温かい家族に……なんては思ってたんだ。……僕じゃ子供は産めないから」
『……』
「僕ね、オリウルにもらってばかりなんだ。何か返したい、何かあげたいと思うのに……もう何をもらったか、思い出せない程もらっちゃって……」
 困ってるんだ、と眉をハの字にして笑えばオリウルにキスをされた。
 獣の姿のままのキス。それは口と口を触れ合わせるだけの物だけど、とても暖かくて。
『俺はあげてばかりか?』
「え?」
『俺だってナツラから沢山貰っている。俺が他を愛せるようになったのも、日々がこんなに色鮮やかなのも、全てナツラのお陰だ。それこそ返しようが無い』
 家族の事も、子供の事も考えるな、とオリウルは続ける。
『子供なんかいらない。お前さえ居てくれればいい。ナツラが俺の恋人で、家族だ。俺はもう家族を愛し、愛される喜びを知っている。違うか?』
 嬉しい言葉に抱きしめる腕が震えた。
 ああ、いつもこうやってオリウルは何もかもから僕を救い出してくれる。
 ぎゅっと抱き着けば、ぐるぐると喉を鳴らされた。
「そう……そうだね、ありがとう、オリウル」
『ああ』
「あのね」
『ん?』
 優しい灰色の瞳を覗き込んで微笑む。
「僕は金色なんかより、ずっと白色の方が好きだから」

 そう言って、鼻の先に唇を落とした。
 それから何度もキスをしたり、尾で撫でられたり抱き締めたりをしていたが、スッとオリウルが身体を離した。
 そのまま洞窟の奥へ向かい、また直ぐに引き返してくる。その口に咥えられていたのは一輪の花。オリウルが人間の姿になるのに必要な花だ。
 厳密には花だけでは無く、花と変わりたい生物の一部を取り込まないと変わる事が出来ないが。
 ここから離れた澄んだ池にしか咲かないその花は、摘んで一日経つと直ぐに枯れてしまう。それでも奥の湧水に浸しておけば、一日くらいはもつ訳で。
 頻繁に虎の姿と人間の姿を行き来するオリウルは、こうやって予備の花を用意するのが日常になっていたりした。
『ナツラ、髪を一本くれ』
 そう催促するオリウル。
 人間の姿になるという事は、今からそういった事をするという事なのは間違いないだろう。
 既にオリウルの瞳は情欲で濡れていて、自分の身体もじわじわと高められていて火照っている。でも。
「オリウル、その……人間になるの待ってくれない?」
 おずおずと頼めば、オリウルから驚いた様な気配が漂って来た。
 それはそうかもしれない。今までオリウルとの行為を拒んだ事なんて、色々あった最初の時以降一度も無いから。
 慌てて誤解の無いように言葉を続ける。
「ち、違うんだよ?その、するのが嫌なんじゃなくて……」
『体調が悪いのか?』
「だ、大丈夫!そうじゃなくて」
 言っても良い物かと口籠る。
 提案してみてオリウルに引かれたらどうしよう、と心配が胸の中で渦巻くがオリウルが促す様な目で見てくれるから、小さい声でそっと口にしてみた。
「その……その恰好のままでシてみない?」
 オリウルが返事を返してくれない事に焦って言い訳をする。
「やっ!その、オリウルも毎回花取りにいくの面倒かなって思って、虎のままでも出来たら花とか気にしないでも……あっ!えっと!別にそんな、どこでもしたいからとか我慢できないからとかじゃなくて!花も毎日新しいの咲いてるけど、いっぱい咲いてる訳じゃ無いし、花の事を気にしないで出来るようになったらオリウルも楽かなぁ……なんて……思って……その……」
 最後は尻窄みになってしまって、俯く。ああオリウルの顔を見る事が出来ない……っ。
『……ナツラ』
「ふぁいっ!」
『何だその変な返事は』
 くっくと喉奥で笑う笑い声に顔を上げれば、柔らかい灰色が笑んでこちらを見つめていた。
『気持ちは嬉しいが、別に良い』
「な、何で?」
『何でって……。俺は虎だぞ?性器だって虎の物だ。人間の姿になれるのに何もそんな物を無理して受け入れる必要は……』
「む、無理なんてしてないよっ」
 慌てて否定して、まるでこれではその姿のまましたがっている様では無いかと赤面する。――いや、本当はその姿のまま“したい”んだ。
 浅ましいと嗤われても仕方が無い。でも、オリウルの本来の姿で繋がりたいとどこかでずっと思っていた。
 自分は人間の姿のオリウルが好きなのでは無く、オリウルそのものが好きだから。
『ナツラ』
「オリウルが嫌じゃ無かったら……したい、な」
 だから、貴方のその姿のままで僕を抱いてくれませんか?


『ナツラ、本当にするのか……?無理は……』
「無理なんてしてない、本当だよ」
 まだ余り気乗りのしていなさそうなオリウルの前で、衣服を一枚一枚脱いでいく。
 気乗りしない余りに出来ないんじゃと一瞬心配をしたが、晒される肌にオリウルの瞳にゆっくりと情欲の炎が灯っていくのが分かって安心した。
 全部服を脱ぎ終わると、オリウルの下に潜り込む。身体の大きさからすんなりと潜り込む事が出来た。
『……ナツラ』
 止める様な響きを持つ名前の呼び方に、早く手を出してしまおうと目の前の性器を包む柔らかい場所に手を伸ばす。
 人間のそことは違い、中にしまわれている状態のそれを、指先でふにふにと刺激していくと、ぬらりと濡れている様な先端が顔を出した。
 感じてくれているのを如実に表すそこが愛おしくて、そっと撫でる。
 オリウルが快楽で呻くのが聴こえたが、それはいつもの頭に直接聞こえてくる様な人間の言葉では無くて、今の姿から響く獣の呻きだった。
『ナツラっ!』
「お願い、させて……?」
 愛しい人の性器を目の前にした時から、既にもう頭は浮ついて使い物にならなくなってしまった。
 蕩けきっているに違いない眼差しでとろんと見つめると、引き寄せられるかの様にそれを咥内に招き入れる。
『っう……っ』
「ん、……ひょっぱい」
 呻きと唸り声が重なる中、舐める毎に育っていく性器の味にくらくらと酔う。
 人間とは違い余り凹凸が無く、つんと先の尖った形のそれは大きい。夢中になって舐めしゃぶりながら、傍に置いておいた獣脂や木の実の油を混ぜて作った軟膏をたっぷり指にとると、自分の後孔に埋めた。
「ん、ふぁ……ん」
 感じてもらえるように舌を蠢かし、頭を前後させ頬に擦り付ける。
 そんな愛撫をしながら、指は受け入れる準備を着々と進めた。感じる目的ではなく、準備の為だけに指を動かして孔を解し、慣らし、軟膏を塗り広げる。
「オリウルの……ん、おいひ」
 三本も指を後ろに咥えこみながら、蕩けた顔でオリウルの性器を愛撫する姿はきっと浅ましく、我に返れば恥ずかしくて死にたくなるに違いないのに止められなかった。
『ぐ……っナツラっ』
 呻いたオリウルが身体を無理矢理離し、気付けばオリウルの顔が目の前にあった。
 息が荒く、鋭い目がぎらぎらと光っている。
『これ以上は、俺の自制が利かない……っ』
 何かを振り払う様に頭を振るオリウルは本当に辛そうで。
『この姿だと強烈な欲の自制が出来ない。獣に近い思考になってしまう。ナツラ、今ならまだ、人間の姿になれる。だがこれ以上続けたら俺は獣の心に流されないと言いきれない……っ』
 だから、と続く言葉を唇で遮った。
「いいよ、それでも良い」
 激しくされても、痛くされても、オリウルと繋がれるのならば良い。
 そっとその頬を撫でた後、後ろを向くと俯せになって腰を上げる。
「ね……?お願い、抱いて……?」
 そう言った瞬間、唸り声と共に覆い被さられて、後孔に熱が当てられた。グルルル、という低い唸り声に頬を緩めながらその熱に後ろ手を伸ばし、支えて挿れ易くする。
 つぷっと先端が埋まったのと同時にナカに衝撃が走った。
「かっ……は!!」
 形のお陰ですんなりと入った物の、いきなりの質量に思わず息を詰める。
 しかしそれに慣れる間もなく、激しい律動が始まった。
「ああああああ!!あっあうっ、は、ぁっ!」
 がくがくがくと人間では出来ない速さの抽挿に身体が揺れ、ナカが捲れてしまいそうな気さえする。
 獣の交尾。そうとしか表現しようの無いそれは辛い物であると同時に、幼い頃から快楽に無理矢理浸され続け乱暴に扱われた事で身に付き、染みついていた物を再び開花させた。
「あっあう、気持ちいっ、あっああん!ひゃうっんっオリ、ウルぅ……っ!」
 痛みさえも快楽に変えてしまう身体。その痛みが愛しい相手からもたらされる物ならば快楽も一入甘い。
 自分も強請る様に腰を振り、寝床の敷物を握り締めてただ甘い嬌声を上げ続ける
「オリウル、激し、っ!ふあ!あ!ん、あぁあっあん、壊れちゃ、んっ、あ、あ!?ひゃあぁうう!!」
 だがそれも唐突に激しい快楽と共に終わりを見せた。
 獣の交尾は短い。さっきまで中を掻き回していた熱が、獣の咆哮と共に腹の奥深くで破裂するかの様に精を撒き散らしたのだ。
 その勢いと熱に押し上げられる様に真っ白な絶頂に達し、目を大きく見開き、反らした喉だけでなく全身を痙攣させながら自分の性器からも精を洩らす。
「あう、あ……あ……」
 まだ腹に注がれ続ける大量の精液に腰を震わせる。
 中に入り切らない分が結合部からぷちゅ、ぷちゅりと微かな音を立てて溢れ、太腿を濡らした。
 いつもとはまた違う快楽に目が虚ろになるが、幸せな気持ち一色だった。獣の姿で抱かれ、精を受けた事が嬉しくて仕方が無い。
 逞しい獣に組み敷かれ、一つになれた幸せに浸りながら腹の中を満たす熱に笑みを零した。



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