Novel | ナノ


▼ 11


「……今のは?」
 押し付けられた唇が離れた後、自分の唇に触れながらぽつりと呟くキーオン。
「今のは、何だ?」
「え?え、っと……キス、だけど……」
「きす……」
「う、うん……僕もシたのは初めてで……」
 呪われ子と口付けをしたいなんて人は、一人もいなかったから。
 自分の口にはいつも誰かの熱を銜え込まされていた。
 好きな人とこうするという話を聞いたり、恋人同士がしているのをちらりと見かけて知っている。
 でもきっと一生する事は無いだろうな、と唇を触って皮肉な笑みを浮かべた時もあったというのに。
「ナツラも初めてなのか」
「だ、だって好きな人とするんだよ?……僕を好きになってくれる人はいなかったから……」
「……ふぅん」
 そう呟いた後、次はキーオンから唇を重ねられた。
 ふにゅりと柔らかい熱が押し付けられた後、舌が下唇をなぞる。
「じゃあ俺はナツラが好きだから何度だってこうしても良いよな?」
 最後に端に犬歯を軽く突き立てて離れたキーオンは、ペロリと自分の唇を舐めながら嬉しそうに目を細めた。
「うん……」
 ああもう、こんなに幸せで良いのだろうか。
 何度も繰り返されるそっと触れたり、舐められたりするキスを受け入れながら嬉し涙が零れた。
 それさえも掬い取るキーオンの舌を感じながら太腿に直に当たる熱に色めいた息を吐く。
 嫌々と言えど、さっきまで抱かれていたから受け入れる準備は出来ている。それに湖の中で注がれた中身を自分で掻き出したから解しもしたような物だ。
(キーオンも手伝ってくれたし、もう十分……)
 はっきり言ってこんなに準備をしたのは、あの晩。初めて抱かれた十二の朔の夜以来な気がする。
 あの時は初めてで必要だったかもしれないが、今では慣れているし……それに……。
(――これ以上焦らされたらたまんない……っ)
 キーオンの丁寧で愛情に溢れた愛撫は蕩けるように心地よく、そして快楽に浸され続けた体はそれで満足してくれなかった。
 弄られ過ぎた後孔は早く熱が欲しいとひくつき、奥の方が突かれる感覚を思い出して疼く。
 挿れられる事を想像しただけでも震える息を吐いて、息同様震える手をキーオンの熱に伸ばした。
「……っ」
「キーオン……もう、挿れて……?」
 脈打つ熱をそろそろと擦り上げ、自分の後孔に導く。
 ぷちゅ……と音を立ててキーオンの先端が当たっただけでイってしまいそうなくらい興奮した。
「……っ良いのか?身体は辛くないか……?」
「うん……っ大丈夫……」
 むしろこれ以上お預けをされた方が辛い。……こんな気持ち初めてだ。
 快楽に我を失い、言われるがままに『挿れてください』と腰を振った事はあっても、こんな風に熱に浮かされていているみたいな状況といえど自分をしっかり持っている時に強請った事は無い。
 キーオンで満たされて、擦り上げられ、奥まで突いて欲しい。
「じゃあ……いくぞ?」
「うん……」
 後ろで息を詰める声がした瞬間、ぐぷりと切っ先が中を割って入って来た。
「ぁ……あぁああああ……」
(――入って、くる、ぅ……っ)
 愛しいと思った人と初めて繋がれた事に、身体が全身で喜ぶ。
 目が虚ろになり、口の端から唾液が零れても拭う事すら出来ない。
 もっと深い所まで埋めてもらおうと、意識せずに腰を上げていた。


 それに一溜りも無かったのはキーオンだ。
 本人の意思はなくとも開発されたナツラのそこは優しくキーオンを包み込み、本当に何人も銜え込んで来たのかと思うほどのきつさで搾り上げる。
 それが心も満たされた事で歓喜に打ち震え、ぐにぐにと蠢いているのだ。
 初めての体には刺激が強すぎて、さっき一度口淫でぎりぎりまで高められていたキーオンはあっという間にナツラの中に欲情をぶちまけてしまった。
「っ、ぐ」
「あ、出てる……」
 どくどくと中に注がれる熱に、うっとりと目を細める。
 自分で気持ち良くなってくれた事がただ嬉しい。
心地良さに浸りながら首を捻って後ろを振り向けば、呻きながら顔を顰めているキーオンが目に入った。
「気持ち良くなかった?」
「いや、気持ちは良かったが、なんというか……悔しいな」
 キーオン自身、いつもの手淫からは考えられないほどの速さに驚いていた。人間の性行為がどれくらいの長さが妥当なのかは分からないが、これは早すぎる気がする。
 そして何故か酷く悔しかった。
「初めてだもん、仕方ないよ……でも、まだ硬い」
 まだ中にいるキーオンを腰をゆっくり回して確かめると、一度吐き出したとは思えない硬さを保っている。吐き出された白濁が中で掻き回され、ぐちゅちゅっ、といやらしい音を立てた。
 はぁ、ん……と熱っぽい息を吐きながら、下腹部を軽く抑える。歳の割に大きなそれは、いっぱいとは言わなくとも、十分自分を満たしてくれた。
 いや、大きさだけの問題じゃない。ふわふわと体の浮くような快楽が心も満たす。
 気持ちの通じ合っている上での行為は、こんなにも気持ち良いのかと目を閉じる。
 潤滑剤代わりになって動きが良くなったそこは、絶え間なく疼くような快楽を伝えて来て、期待するかのように自分の先端からとろっ、と先走りが垂れるのが分かった。
「……ね、次は僕もきもち良くして……?」


 キーオンが腰を打ち付ける度に快楽が脳天まで突き刺さった。
「ひぁっ!あっ、ん……っんっんっ」
「っ、く」
 目の前の水晶に縋る様に手を回し、抱きつく。
 腰を大きな手が鷲掴み、何度も何度も打ち付ける腰から逃げないように固定している。
 パンパンと頬を張る様な音は広い洞窟内に木霊し、今自分が何をしているのかを突きつけるように知らせてきた。
「……っ、綺麗だ、ナツラ……この身体、ずっと触れてみたいと思っていた」
 キーオンが呻きに似た声で囁くと、腕や背中、腰に唇が這わされた。刺青に沿っているのだと、気づいて恥ずかしくなる。
「それ、ねっ……ぁあっ、呪われ子の、力を封じる為だ……って、んっ、彫られたんだ……っ」
 そう言った途端、腰が一度ピタリと止まったと思ったら痛みが背中に走った。
「いたぁ……っ!」
 振り向けば、ぎらぎらとした目で刺青に噛みついているキーオンがいた。歯型をつけるような甘噛みでは無いのが分かる。
「いっ、痛い、痛いよ……」
「……ごめん」
 薄らと血が滲むくらい噛まれたそこを、キーオンは謝ると静かに舐めてくれた。滑る舌が癒す様に舐める度に、腰が跳ねそうになる。
「……一度でも似合うと思った自分が憎い」
 ぼそりと吐き出された言葉に、胸がきゅうっと締め付けられるように嬉しさで痛んだ。
「僕は、嬉しいよ?」
 似合うと言われて、嫌な気持ちにはならない。だってこれは――。
「これはね、虎の模様を象ってるんだから……」
 呪い子が禍を招く事を防ぐために、神の獣の力を借りるのだと大婆様が言ったあの時から、刺青を入れられる痛みは苦痛では無くなった。
 だってこれはオリウルの模様なのだから。
 抱かれる度にボロボロになっていく心。でも体に彫られたこの模様を指でなぞっては、小さく微笑んだ。――お揃いだね、なんて届くはずも言葉を呟いて。
「――っ、それは……っ」
 剣呑な顔をしていたキーオンが、目を泳がせると片手で顔を覆った。
 手の下から覗く顔が、何だか嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。
「そうか。虎、の模様なのか……」
 そう呟いて再び刺青を撫でてくれたキーオンの手は、とても優しかった。
 その優しい眼差しがとても男らしくて、思わず後孔を締めつけてしまう。片目を瞑ってそれをやり過ごしたキーオンは、小さく笑うと再び腰を持って律動を再開した。
「……虎なら、嬉しい」
「え?あぁっあっはげ、しっ、んっ!」
 呟いた言葉を聞き返そうとしたけど、ガツガツと突き上げられて聞く間も無く喘ぐ。
「ひぁっ深、ふか……っなん、で?!」
(さ、さっきよりなんか大きくなってる?)
 律動を再開してからの中に入っている物の大きさに驚きながら、首を捩じって思わず息を呑んだ。
(――え、うそ、うそ……っ)
 そこに居たのは、背の高い逞しい体つきの美丈夫な青年だった。
 今までに無い速さの成長を遂げたキーオンを唖然と見つめる。
 眉を顰める精悍な顔。森で生活している所為か、引き締まった体躯は肉体美といっても過言ではない。
 そんな彼がふとこっちを見ている自分に気付いたのか、ふっと口角を上げ前髪を掻き上げると、顔を近づけて唇を重ねてきた。その匂い立つ色気に、一瞬にして飲まれてしまった。
「――っ!!」
 全身を戦慄かせながら高みに上り、先端を弾けさせる。
 びくびくと動くそこは、壊れてしまったように断続的に白濁を吐きだして、何度も高みに登らせられた。
「ひぁっあっイ、イって、イってる……っ」
「くっ、ナツラ……っすまん」
「え、うそ、いぁああぁあ!!」
 イった時の後孔の締め付けに再び高みがぐっと近づいたのか、キーオンが腰を掴みなおすと思い切り奥を抉ってきた。
 イったばかりで、ひくひくと蠢くそこをずちゅずちゅと突かれて、目の前が真っ白に弾ける。
 ごりごりと一番感じる所もひっくるめて擦り上げられて、身体が瘧の様にがくがくと震えるのが止められない。
(――だめ、ダメ、もう……もう……っ!!)
「ぁああぁあ、あ、あ、ああぁあ……!!」
「っ……う、っ」
 キーオンの息を詰める声と共に腰が押し付けられ、熱い物が中に振り掛けられる感覚に絶頂を振り切ってしまった身体は、とうとう震える中心から何も出さずに達してしまった。
 空イキなんて余程大人数で何回も抱かれ、出す物が無くなってからでもしないとする事は無かったのに、と頭の隅で思いながら、ひくっひくっと痙攣してその場で座り込みそうになったのを、キーオンが抱きとめてくれる。
「……ナツラ」
 愛している、と囁いてくれる低い声に唇に笑みを乗せ、静かに目を瞑って今この時の幸せを噛みしめた。




 あれから数日、キーオンと共にこの地底湖の広がる洞窟で過ごしている。
 早くキーオンの話していた森の深くに行きたくて、僕はもう大丈夫だから、と言うのだけれど、キーオンは首を横に振り「まだ、もう少しだ」といつも優しく頬を撫でる。
 キーオンは自分から見ても、酷く甘やかしてくれた。
 美味しい果物をどこからか取ってきてくれたり、寝る時は添い寝してくれたり、抱く時はもどかしいくらいに優しくしてくれる。そして蕩けそうなくらいの愛を絶え間なく注ぎ、囁いてくれた。
 それはこんなに幸せで良いのかと不安になるほどで、それをキーオンに伝えると笑って良いんだと答える。
 キーオンの急激な成長は、あれからは無かったけれど、それでもちょっとずつ成長している。もう同じ年くらいなんじゃないだろうか。背はもう抜かされてしまった。
 ただ明らかにゆっくりになっているから、もうあと二、三歳成長したら止まるだろうと、キーオンも言っていたから安心だ。
 成長したキーオンは目のやり場に困るほど格好良くて、一緒に水浴びとかどうすれば良いのか分からない。
 鋭い目つきなのに優しい眼差しをされると、その前に立つのも恥ずかしくてままならなかった。キーオンは膝枕がとても好きで、膝の上に乗っている髪をゆっくりと抄く。
 白い髪は見た目は色々な所で跳ねて手入れが行き届いて無い感じなのに、触るととても柔らかい。
 キーオンに膝枕をしている時が、一番オリウルを思い出した。
 悲しく、切ない大切な記憶。
 時々思わず静かに泣いてしまうと、キーオンの大きな手が涙を拭い、呪文の様に――綺麗だ――と囁いてくれた。
 キーオンは良く僕に言う。完全に低くなったその声は、どこか懐かしい響きで、綺麗だ、と言う。お前はどこも汚れていなくて、心がとても綺麗だ、と。
 それに小さく笑みを浮かべて曖昧に返すと、寂しそうな顔をして「信じてくれ」と彼はいつも言った。

 そんな日々がずっと続くなんて、きっと僕は心のどこかで信じていなかったんだ。




 いつもの様に食べ物を取りに行ったキーオンを迎えようと久しぶりに洞窟から出て、眩しい日光に目を細めた瞬間、思い切り地面に押し倒された。
 驚きで真っ白になっている間に手を後ろで縛り上げられ、目の前に影が落ちて顔を上げた。
 その人を見て全身の血の気が引き、真っ青になる。
「――お、大婆様……」
 漸く周りを把握して、がたがたと身体が震え始めた。大婆様の後ろにあるのは、飾りのある神輿。それで大婆様を運んできたのだろう。
 周りを槍を持った男達が囲み、その男達の大半が自分を抱いた事のある人だ。
「ナツラよ、何故村に帰って来ない」
「ぼ、僕は」
 戻りたくない。戻りたくない。キーオンと離れたくない。
「呪われ子、なら……村に居ない方が、良く、無いですか……?」
「お前、大婆様に意見するつもりか!」
 ガッ、と頬を殴られて地面に再び地面に身を伏せる事になった。
 痛みよりも恐怖で涙が浮かぶ。
「お前の仕事を放棄するつもりかえ」
 “仕事”という単語に、足元が崩れそうな絶望に突き落される。
 いやだ。もう、あんな風に抱かれるなんていやだ、イヤだ、嫌だ……!!
 沈黙で否定をすると、男達の間に怒りの空気が漂うのが分かった。
「どうしてお前がそんな気になったのだろうね……?」
 大婆様が身を屈め、長い爪を持った指が頬を撫でる。キーオンのあの長く男らしい指で優しく撫でてくれた感覚が消えてしまうようで涙が溢れた。
 たすけて、お願い……お願い、キーオン、助けて……!



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