Novel | ナノ


▼ 10


「痛いか?」
「痛いけど、嬉しい」
 蕩けそうな眼差しで、ふにゃりと力の抜けた笑みを浮かべるナツラは夜な夜な想像していたどのナツラよりも可愛らしく、そして淫靡だった。
 ごくりと喉が鳴り、思わず自然に名前を呼んでしまう。
「ナツラ……」
 その声音は自分で聞いても分かるほど切ない響きを持っていた。
 ……抱きたい。しかしナツラはあんな事のあった後で疲れているだろうし、無理は絶対にさせたくない。でもナツラに触れているだけで、体の疼きは増していった。
「――良いよ」
 ナツラが柔らかく微笑む。長い指を持った手がそっと俺の頬を撫でた。
「キーオンの好きにして……?」
 その言葉に体中が歓喜する。
 どくどくと煩い心臓を無視し、ナツラの手を取ると猛る己の中心に導いた。
 手が触れた瞬間にナツラの顔が赤くなる。
「ナツラ……初めてなんだ。教えてくれるか……?」
「え……はじ、めて……?」
 目を見開いてこっちを見た後、ナツラは「そうか、そうだよね……」と呟いて俯き、急に胸を手で押して体を離した。
「ナツラ?」
「やっぱり止めよう……ダメだよ。僕の人生をキーオンにあげる事は出来ても、キーオンの人生を奪う事は出来ない」
 ナツラの視線はとても真っ直ぐで、さっきまでの様に揺らいでいない。
 でもそこに心の距離を感じる。
「ごめんね、キーオンに甘え過ぎてたんだ……。ありがとう、僕にこんな風に接してくれただけで、もう十分だよ。僕はその記憶だけで生きていける。はじめては、大切な人と……好きになった女の子とするべきだよ」
 にっこりと優しい笑みを浮かべたナツラを見て初めてはっきりと、大人になったんだなと思った。
 子供を見守り、その未来を思いやる優しい眼差しは歳を重ねた証だ。……だが、それを俺に向けるのは間違っている。
 ナツラの両肩を掴むと思い切り押し倒した。
「大切な人?それはナツラの事だ」
「違う。キーオン、将来伴侶となって一緒に家庭を築いていく人を見つけないと」
「何度も行ったはずだ。俺はナツラが好きで、一生を共にしたいのもナツラだけだ。抱きたいのも、笑顔をみたいのも、何をするのにもナツラが一緒が良い。……何を余裕ぶっている?俺の前でそんな顔をするのは止めろ、無駄だ」
 そう言ったとたんに笑みが剥がれ落ち、ナツラの唇が戦慄き始める。
「余裕ぶってなんかないよ……!僕は怖い。怖いんだ……大切な物をなくすのはもう嫌だ。あんな悲しい想いは二度としたくない……!幸せを奪うのが嫌なんて嘘だよ、奪ってでもキーオンと一緒にいたいよ……。でもね、僕は昔から抱かれてるからもう違和感なくなっちゃったけど、男同士なんだよ?いつか、きっと……きっと……飽きちゃうよ、僕なんか。女の子の方が良かったなって思う日が来るよ。……僕はて……キーオンに捨てられる日を数えながら傍に居られるほど強くない……だから」
「莫迦か」
「えぇっ?」
 自分の想いを一言で片付けられて、びっくりするナツラ。その頭を一回ポンと叩いて溜息を吐く。
「俺がナツラを捨てるなんて事、有る訳が無いだろう」
「そんな……わかんないよ!」
「いや、絶対に無い」
 だって自分はナツラに会うために、こんな人間の姿をしているのだから。
 そこまでして傍に居たいと思った存在はナツラだけだし、この先もナツラだけだろう。
「抱きたいだなんて思ったのはナツラだけだ。他の人間を見ても俺は何にも感じないし、例え裸の女を見たって欲情すらしないだろう。賭けたって良い。俺は初めの時からずっとナツラの事だけを考えて、夜な夜な白濁を吐いていたんだぞ?」
「え、え?初めの時……って、まさか……その、精通って事……?」
「さぁ、それを“せいつう”というのかは知らないが」
 パクパクと口を開いたり閉じたりしているナツラは可愛らしく、面白い。
 どうやら少しは俺がどれだけナツラの事を好きなのか分かってくれたみたいだ。――元の姿に戻った時、それ以上にナツラを想っていた事を伝えてやろう。
「だから……な?教えてくれ、ナツラ」
 ナツラを引き寄せながら、真っ赤に染まった耳朶にそう吹き込んだ。

 水晶から降りると、ナツラは身に着けていた服を脱ぎ始めた。
 あんまりそんな目で見ないで……と恥ずかしそうに裸体を晒すナツラは本当に可愛らしい。
「えっと……じゃあ、キーオンはここに座って……?」
 指示された少し低めの水晶に座ると、俺の足の間にナツラは座り込んだ。
 おずおずとナツラの手が俺の中心に伸ばされる。服の上からそっと撫でられるだけで痛む程疼くそれに吐息を吐くと、ちらっとこちらを見た後、ナツラはズボンと下着をずらした。
 途中引っかかったそれを、長い指が優しく取り出す。
「……あぅ……えっと……大きい、よね……?」
 年の割に……と、目の前に晒された性器を見て赤面しながら目を泳がせるナツラの反応は、本当に何人もの男に抱かれてきたのだろうかと思うほど初心だ。
「勃ってるから、かな……?皮も……被って、無いし……じゃ、じゃあ……ごめんね」
「何が――うっ!」
 何に対しての謝罪かと聞こうと開いた口は呻き声を漏らした。
 ナツラの口にぱっくりと性器を包み込まれ、舌で刺激される。
「ここ……とか、ここ……きもひよくなひ?」
 もごもごと咥えたまま喋るナツラに答えようとするが、初めての快楽に上手く舌が回らない。いつも自分の手でやっていた物とは比べものにならないくらいの快楽。
 先端の割れ目や裏の筋の所を、舌が這う度に腰が震えた。
「ナツ、ラ……っ、ぁっ」
「ん、む……ん、ん、ちゅっ」
 ナツラの頭が上下し、根本を指で扱かれる。
 頬の肉に先端を擦り付けられると先端の割れ目から何か漏れた気さえした。
「ナツラ、ナツラ……っ」
「ふん?」
 髪に指を絡めてどうにか名前を呼ぶと、ナツラが上目使いでこちらを見上げてくる。
 もうそれだけで白濁を吐いてしまいそうなのだが、ナツラが咥えている以上吐き出せない。腹に力を入れてその衝動を耐える。
「口を、離せ。余り綺麗と言える物じゃないし、それにそろそろ出、る」
「ひいよ?」
「っ!」
 不定期に当たる舌と、小首を傾げてみせるナツラに必死に腹筋を使う。
 下腹部に血管が浮くほど力が入っているのを見て、ナツラが不思議な視線を向けるのが分かった。
「……とにかく一度口を離してくれ」
 荒い息を抑えつつそう言うとナツラの口が離れる。眉がハの字になって酷く悲しそうだ。
「ごめんね、気持ち悪かった……?」
 溜息を吐いてナツラを見ると、びくりと肩を竦める。
 「あのな……気持ち悪い訳が無いだろう。俺はナツラに触られているならどこでも心地良い。ただ、俺もナツラに何かしてやりたいんだ。それとも抱くというのはこうも一方的に尽くす物なのか?」
 ナツラがそうだ、というのならそうなのかもしれないが、何だか違うと思った。
 これじゃナツラを乱暴に抱いてきた男達と何も変わらない。
「あ……うん……じゃあ……あの、ね」
 ナツラは立ち上がると、背を向けた。
 水晶から放たれる光に照らされて滑らかな肌に、照らされる場所と影になる場所が出来る。
「ここ……を、慣らして……キーオンを受け入れるんだけど」
 するっとナツラの長い指が双丘の間を滑った。
 影が濃く良く見えないそこを想像して喉が鳴る。
「慣らすの……手伝ってくれ、る?」
 掠れた声でどうにか了解を示すと、ナツラはこちらにおずおず尻を突きだしてきた。
 まさかそんな事をされるとは思わずに唖然と口を開く。
 影になって見えなかった場所が無防備に晒される。
 滑らかで引き締まった双丘の間。普段なら密やかに晒される事の無い場所に、ぽってりと朱い花が咲いていた。
 そこにナツラが手本を見せるように、唾液で濡らした指を体を捻って突き立てる。
 ひくひくと蠢きながらしっかり指を咥えるそこに眩暈がした。
「こうやって……んっ、慣らすと、後が楽なんだ……あっ」
 ゆっくり指を抜き差しして見せるナツラにふらふらと近寄ると、そこを食い入るように見つめる。
「……やってみて、良いか?」
「うん……」
 俺の声にナツラの指が引き抜かれ、場所を空けた。
 抜かれた指を欲しがる様にひくひくと開閉しているその縁は、ぷっくりと膨れていて、綺麗な朱に彩られている。
 自分の唾液を指に絡ませると、そこにゆっくり潜り込ませた。
 中が熱く、指を優しく包んでくる。
 その感触を指で感じるだけで、下腹がずしりと重くなった。
 さっきナツラがしていたように指の抜き差しを始めると、中が絡み付いてくる感覚が分かる。
「ん、ぁ……ん……ん……」
 今すぐにでも襲い掛かりたいのを我慢して、ちゅくちゅくと中を弄っているとふとナツラのその後孔の下に目がいった。
 ナツラが声を上げ、僅かに体を動かす度にぷらぷらと揺れるもの。
 柔らかい皮に包まれた卵の様な形のそれは薄い色で、指に纏っていた唾液が少し垂れてテラテラと光り、いいかにも美味そうだ。
 だから……その場で膝をつき指はそのままで、思わず食べてしまった。




 キーオンが俺も何かしたいと言ってくれたのは凄く嬉しかった。……それと同時に凄く恥ずかしかった。
 優しいセックスなんてされた事が無いから、一体どうすれば良いのか分からない。
 僕がして欲しい事……と考えたのだけれど、むしろ僕がキーオンにしたいくらいで……。
 口で奉仕を止めろと言われた時は、気持ち悪かったのかな……と悲しくなるのと同時に、キーオンの白いのを飲めない事を残念に思っている自分がいた。
 そんな自分を心で叱りながら、一番してもらって嬉しいのは、体に負担の少ないのが嬉しいかな……と思って解すのを手伝ってもらうことにする。
 自分で解すよりも解してもらった方が、負担が少ないから……それに、よく解してあった方がキーオンも気持ち良くなれると思う。

 そう思ってお願いしたのは間違いだったかも……と目の前の水晶に縋るように掴まりながら涙目になる。
 キーオンの動き一つ一つが優しい。労わる様に触れ、絶対に傷つけない様に気を付けてくれているのが凄く分かった。
 だからなのだろうか。
(凄い、気持ち、いい……っ)
 乱暴なセックスを強いられた事で、かなり強く扱われないとイけなくなっていた筈なのに。
 キーオンが触れた所から、じわじわと気持ち良さが広がる。いつもの性急で嵐みたいな快楽ではなく、甘くじわじわと蝕む快楽。
(こんなの、おかしくなっちゃ……)
 依存性のある毒みたいなこれを、与え続けられたら自分はどうなってしまうんだろう。期待と不安に身震いした瞬間。
「ひぁっ!?」
 ありえない場所に走った感覚に、ビクンと背中を反らせる。
 振り返れば、双球を口に含んで愛撫しているキーオンが目に入った。
「や、やっ!どこ、どこを……!」
「ん……美味しそうだったから、つい」
 つい、と言いながらはむはむとキーオンは唇でそこを刺激して、間に時折軽く長めの犬歯をそっと突き立ててくる。
「だ、ちょっ、離してっ、そんなとこ……!」
「この感触が良い」
 片方は口の中で転がしたり、吸ったりして、もう片方はふにふにと指で揉まれる。
 人にそんな所を舐められるのなんて初めてで、腰が砕けそうな快楽に目の前の水晶に爪を立てるけど、つるつると滑ってしまった。
 必死に身を捩り、手を伸ばしてキーオンを止めようとすると。
「ならこっちなら良いか?」
 次に舌が這わされた場所に、声を上げられずにはいられなかった。
 キーオンの指が二本差し込まれている後孔。その縁にキーオンは舌を這わせたのだ。
「やぁああ!!汚いから止めてっ!」
 その言葉を無視して、指に沿って舌を中に潜り込ませようと動かされる。
 ひどい、さっきキーオンは汚いから止めろって言ったのに。そんな風に舐めないで。おかしくなってしまう。
 先の方だけ挿れられた舌先がペトペトと中の壁を舐めるのが分かって、涙が零れてきた。
 すると驚いたようにキーオンが顔を上げ、慌てて涙に唇を寄せてくる。
「そんなに嫌だったか。すまない、泣かないでくれ……」
 溢れる涙を唇ですくっていくキーオンに、瞼を閉じればべろりと頬を舐めあげられた。
「……凄く、恥ずかしいから……いやだ……」
「分かった。もうしない……だから、な?笑ってくれ」
 目を開けると、こちらをおずおずと窺っているキーオンが目に入って思わず小さく笑ってしまう。いつもは強気なのに、僕が泣いたくらいでこんな顔をするなんて。
 それがどうしてなのかが、分からないくらい馬鹿では無い。
 言いようの無い愛おしさが溢れて、それに突き動かされる様に僕は首を捻ったままキーオンの唇に自分の唇を重ねた。



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