ある昔、ある村に一人の男がいた。
村の外れの大きな屋敷に住む男は、村の住民に気味悪がられていた。
それは何も薄暗く窓からは中を窺う事が困難で、壁には蔦が蔓延っている陰気な屋敷に住んでいるからではない。
いつも通夜の様に陰鬱な表情、落ち窪んだ眼、青白い肌、まだそんな歳では無いだろうに白髪の多い髪に猫背。見た目同様性格も口が裂けても決して陽気とは言えない物で、笑顔を見た事が無いどころか想像すら出来ない。声を掛けても唸り声と勘違いしそうな低い声でボソボソと返事をする、そんな人となりの所為だった。
そんな男の職業は人形職人だった。
町に出る事も殆ど無く、ずっと屋敷に籠りっきりの日々で作られる人形達。
それらは本当にあの男から生み出されたとは思えないほど表情豊かで美しく、薔薇色に染まっている頬はもしや生きているのでは無いだろうかと思わせるには十分で、息をしているのではと思わず口に手を当てて確かめた者は一人では無いはずだ。
彼の事をただの陰気で偏屈な男だと思っていた人間は、男の作品を見ると皆意見を変え、そして口を揃えて同じ事を言うのだ。
『あの男は人形を愛しているのだ。
人形を愛する人間は何人もいるかもしれない。だが彼は人形を愛するだけでは無く、同じだけ人形に愛されているのだ。
彼が人形を愛せば愛するほど人形は彼を愛す。
彼は生気を灌ぎ、魂を削って人形に命を吹き込んでいるのだ』 と。
これはそんな人形を愛し、人形に愛された天才人形職人の最高傑作と呼ばれる不思議な人形達のお話。
【追記】