※ちょっとだけ自主欠損
-----
「綺麗な色だと、俺は思うよ」
そう言ってあなたは笑ってくれたのに。
「髪もその右目も、俺は好きだよ」
褒めてくれたのに。
「お前……、その色……!」
町には近づけなくて、ようやく人伝いに届いた噂であなたが崖から落ちて頭を打ったと知った。
だから心配で心配で、人に見つかったら捕まって痛めつけられるから、闇に紛れてひっそりとあなたの家を尋ねたら、
顔を見た瞬間、頭に包帯を巻いたあなたは大声で叫び、嫌悪の目で僕を睨んだ。
「何をしに来た!寄るな化け物!」
その大声を聞きつけて、駆けつけて来た人間に捕まる前に転がるように町を飛び出した。
森に戻ると、茫然とその場に座り込んだ。
あれは本当に彼だったのだろうか。いやでも確かに、彼の家だった。彼だった。
頭を打って僕の事を忘れたというのだろうか。
腰辺りまでうねる自身の髪をみつめていると、視界が涙で煙った。
綺麗だといって編みこんでくれたりもした。短く切っているのを勿体ないと言ってくれた。なのに。
記憶を無くしていても彼は彼だ。つまりは……きっと彼は同情で綺麗だと言っていたのだ。本当は醜いと、気持ち悪いと思っていたのを、隠していたんだ。
嗚咽を零しながら髪を鷲掴むと、指の鋭い爪で切り落とした。ばさりと音を立てて、切り落とされた髪が蛇のようにうねる。
そして髪を切り落とした爪を、涙の溢れる自分の右目に持って行き――。
痛みが頭でガンガンと響く。
頬を濡らすのは涙だけではない。
真っ赤に染まった右の手のひらの中の、今し方自分から抉り出した塊を地面に投げ捨てた。
痛くて痛くて痛くて涙が止まらなかった。
この夜、片目の化け物が森に生まれた。