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血まみれのシーツで

※若干グロ注意
カニバ
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 男は泣いていた。
 嗚咽を零しながら、涙をただ垂れ流しにして。一糸纏わず、引き締まった身体を縮めこませて、泣いていた。
 男が崩れる様に腰を落としているのはベッドの上で。
 そんな場所でまるで迷子になってしまったかのような悲痛そうな広い背中は、どこか違和感を覚えさせた。
 男の大きな手がぐしゃりとシーツを掴んで、真っ白なシーツに皺が寄る。いや、真っ白なのは男が座っている部分だけだ。
 その隣。添い寝をしていたならばそこに誰か寝ているであろう場所は、ベットリと赤に濡れていた。
 丁度人間一人分の大きさの赤の上には、所々ぐちゃりとした生々しく濡れた物が拳大の大きさで転がっている。
 男は腫れた瞼からそれに視線を向けると、またその目玉から涙を垂れ流した。
 その涙を、白い手が拭った。

 突如現れた、今までその場に無かったその手が伸びる場所を辿れば、ありえない光景が目に入っただろう。
 その手は、真っ赤に濡れたシーツの中心から“生えて”いた。
 泣き続ける男は、その手に涙を拭われてもなんら驚いたような素振りも恐怖の色も見せなかったが、さらに涙の勢いは増した。
 ぞわり、ぞわりと肉片が蠢き、白い腕に集まる。
 集まった肉塊はだんだんと人の形を作り上げ、白い腕から徐々に白い肌の若い男が現れた。
 その白い肌の男は出来たばかりの上半身をシーツから伸び上がらせると、泣き続ける男の頬に唇を寄せた。
「泣かないで、ラジルデ……泣かないで」
 まだ下半身は出来るには時間が必要なのか、上半身だけの白い肌の男は泣き続ける男をあやす。
「……俺は……ッ」
「良いんだよ、ラジルデ。だから、泣かないで」
 男の逞しい腕が、上半身だけの男の身体を掻き抱く。
 離すまいとするかのような力の籠ったそれに、上半身だけの男は男の肩に頬を擦り付け、そっと目を閉じ。

「ラジルデ、僕は美味しかった?」

 男は再び絶望に涙した。
 男は恋人であるこの男を喰らったのだ。
 それも今夜だけでは無い。毎晩、毎晩、毎晩、愛おしい者の肉体を引き裂いて喰った。
 その度に絶望をする。愛おしくてたまらないはずの相手を喰ってしまった事に。自分の悪食さに。
 しかし何よりも――美味だったことに。

 美味しかった。
 彼の血は滑らかで温かくて、甘くて、とろりとしていて。
 美味しかった。
 彼の肉は柔らかくて、弾力があって、引き裂く時の感触がたまらなくて。
 美味しかった。
 眼球は舌で転がした。骨は砕いて中の髄まで食べた。脳は濃厚で、頭蓋骨についてしまった部分まで舐め取った。臓器は健康そうなピンク色で、筋肉よりもぷにぷにとした歯触りで、でも弾力は筋肉よりあって。何度も何度も咀嚼すればするほど旨味が口に広がった。
 心臓は引き裂いた後も暫く動いていて、その脈動を楽しむ様に舌を這わせた後、そっと歯を立ててコリコリとした食感を楽しんだ。
 性器を食べた時には思わず自分のを勃たせてしまった。フェラをするように何度か唇で愛撫をした後、優しく噛み千切って飲み込んだ。
 美味しかった。美味しかった。美味しかった!
 彼の全てがご馳走だった。

「お、いし、か……った……」
「良かった」
 男が絞り出すようにそう応えると、上半身だけの男は嬉しそうにほほ笑んだ。
「違う!俺は、俺は、君を……」
「良いんだよ。それなら何も悪くないよ」
「ちがう、違う……っ俺は……」
「ラジルデ」
 呼ばれて男は涙に塗れた顔を、彼に向けた。

「僕は、美味しかったんでしょう?」
「あ……ああ、ああああ……」
 男はわなわなと震えていたが、その唇を青年の白い首に触れさせ。
「美味しかった……ッ」
 そして唾液に濡れた舌でその首筋を舐ると、再び歯を立てた。

 夜ごと、一人の青年の肉体が貪られる。

 

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