盗賊の家系に生まれた者、妊婦なのに盗みをしたりしようとした女性から生まれた者、実際には無実なのに拷問にかけられて泥棒の「自白」をした者が縛り首にされたとき、彼らが童貞であって、死に際に尿や精液を地にたらすと、その場所からアルラウネ、別名ガルゲンメンラインが生じるとされる。
アルラウネを引き抜く方法は犬に引き抜かせる。
そうして手に入れたアルラウネを赤ブドウ酒できれいに洗い、紅白模様の絹布で包み、箱に収める。アルラウネは毎週金曜日に取り出して風呂で洗い、新月の日には新しい布を着せなければならない。
そうしてアルラウネにいろんな質問をすると、この植物は未来のことや秘密のことを教えてくれる。だからこれを手に入れたものは裕福になるのである。しかしアルラウネにあまり大きな要求をすると力が弱って死んでしまうこともある。
持ち主が死ぬと、末の息子がこれを相続する。
父さんがいつ、これを手に入れたのかは知らない。
父さんは未来の事を良く当てた。それで事故などの難を逃れた事は一度や二度じゃ無かった。
秘密を聞いても父さんは教えてくれず、ただ死ぬ間際に、手紙と小さな箱を俺に渡してこの世を去った。
「おはよう、アルラウネ」
小箱の蓋を開けてそっと囁く。
「おはようございます」
鼠くらいしか納められそうにない小箱の中から、小さい声が返事をした。
手を伸ばして布に包まれた『彼』の頬を指で撫でる。
「気分はどう?」
「最近力を使ってないのでとても良いです」
チクリと棘を刺すような答えに、小さく苦笑を零す。頬を撫でていた手で、次は髪を優しくなでた。
アルラウネの髪はてっぺんの方が黄色い花びらで、徐々に金糸の様な髪になっている。だからまるで花で出来た王冠を掲げている様に見えた。
彼の下半身を隠しているスカートのようなそれは、よく見れば彼自身から生えている葉だと分かるだろう。
透き通るような肌の肢体は片手で包める程の彼は花の妖精だ。いや、花というより根っこだろうか。
大切にすれば色々な秘密を教えてくれるという、可愛らしい特性を持つ彼らが生まれる要素は、案外生臭く淫靡な物だ。
だからこんなに可愛らしい容姿をしているのに、そこはかとなく艶めかしさを持っているのかもしれない。
「僕に質問は無いんですか?この世の真理や、宇宙の果てはどうなっているか……なんて質問に答える事は出来ませんが、未来の事を示唆したり、ちょっとした秘密ならお答えできるんですよ。今だってこの村から十五マイル離れた小さな林に、お金を稼げる秘密が眠っているかもしれないのに。僕は貴方が質問してくれないと、答えられないんですよ」
「うーん、そういうのには興味が無いからなぁ……」
苦笑を零せば、アルラウネは俯いて頬を撫でていた指に手を添えた。その手の平の小ささは、指の先の四分の一も無い。
「僕が用済みならばどうぞ捨ててください。質問をされないアルラウネなんて役立たずにも程がある」
「そんな事、出来ない」
きっぱりと言い切れば、アルラウネは黙りこくってしまった。
「……じゃあ、一つだけ教えて」
「!はい、なんなりと」
そう言った途端、パッと顔を上げて嬉しそうに目を輝かせた彼に思わず笑みが零れた。
父は本当に良い物を遺してくれた。
華奢で、健気で、愛おしい生き物。
「僕の事、好き?」
ぽかん、とした後、頬を真っ赤に染めた彼が小さな小さな口を震わせながら紡いだ答えは僕のみぞ知る。
【追記】