「ねぇ、ター君、『カベドン』って何?」
俺より頭二つ分は高いアイツは、小首を傾げながらそう聞いて来た。
色鮮やかなゴムで横髪を結んであるのは、また女子にオモチャにされたのだろう。
「はぁ?」
「なんかねー女子に水野君くらい背が高かったらカベドンとかされたら萌えるーとか言われたんだけど、カベドンって何か分かんなくてー。新しいどんぶり?なんでそれが萌えるの?」
バカだけど背が高くて顔も割かし良いコイツは、すぐに女子にオモチャにされ――そして、結構モテる。そのことが気に食わなくて、眉間に皺を寄せた。
(それはつまりお前に壁ドンされたいっていう事だろうが)
水野と俺は所謂恋人というやつで。だけどバカなコイツは恋人の前で簡単に女子と楽しそうに遊ぶ。
……まぁ、恋愛対象として見ていないのは十も承知なのだけれど、むかつく物はむかつく。
溜息を吐きながら俺は腕を掴むと、思い切り引き寄せた。
「え?」と間抜けな声を上げるそいつは身体がデカイ分、引っ張った腕がびりびりと痛んだが気にしない。
バランスを崩したその身体を思い切り壁に押し付け、腕で挟んで動けないようにした。
「え、え?ター君?」
「これが、壁ドン」
身長差があるため、俺がコイツを見上げる形になっているのが情けない。
本来なら壁ドンした側と顔が近いか、見下ろす形になってないと萌えないんだろうなーと、自分の身長に少し傷ついていると、水野は顔を覆って震え始めた。
「おい?」
「……っば、やばい、ター君むっちゃ萌える……っ」
指の間から覗く顔は真っ赤になっていて、コイツがバカで良かったな、なんて思った。