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情けない淫魔


「ねぇ、お願い、もう食べさせてよぉ……」
 目に涙を浮かべながら懇願しているのは、俺の恋人。付き合い始めて半年くらいになる気がする。
 コイツのしつこいまでのアタックに折れ、付き合うことになり……そうしてズルズルと続いている関係。
 茶色のふわふわとした髪を揺らし、満面の笑顔で名前を呼んで駆け寄って来るコイツのことが、実は満更では無い事は秘密だ。
 そんなコイツは今、俺の脚の間に崩れた様な正座をしてデカイ身体を押し込み、整った顔をぐしゃぐしゃに歪めて懇願していた。
「……っは、我慢しろよ」
「そ、そんなぁ……。ねぇもう俺限界だよ、お願い……お願い、ねぇ」
 キュウキュウと鳴く犬の様な情けない声を上げる恋人。何をそんなにお願いしているのかと言うと。

「あっ先走り垂れた……っ勿体無いよう……」

 さっきから俺の手の中で扱かれている性器を、しゃぶらせてくれと言っているのだ。
 変態だからというのではない。俺の恋人であるコイツは淫魔なのだ。
 勿論比喩などでは無い。人間の精気を糧として生きる、正真正銘の淫魔。
 とりわけ俺の精気はコイツの好みらしく、付き合う前からどれだけ美味で甘いかを心情たっぷりに語られた。
 精気は身体に触れるだけで得る事が出来るが、その対象が欲情していたら更に多く得られるらしい。
 そして、手や肩と言った部位よりも性器から直だと尚更。
 だから今この状態は、コイツにとってご馳走が目の前で湯気を出している様な物なのだ。

 ハフハフと息を荒げながら、食い入るように俺の扱かれる性器を見つめるコイツ。
 ちらちらとこちらを窺う表情が、本当に切なさそうだ。
 淫魔が精気を得るには、対象に何かしらの許可がいる。
 俺が『良し』と言えばそれで良いのだが……。でも切なさそうな表情に騙されてはいけない。
 コイツは、こっそりと自慰をしていた俺の部屋に「美味しそうな匂いがするぅう!!!」と叫んで、ノックもせずに飛び込んで来た馬鹿なのだ。
 だからお仕置きとして焦らしに焦らしていたのだが……。
「食べたい、食べたいよ……う……っふぇ、っう……ふ……っ」
 とうとう耐え切れずにポロポロと泣きだしてしまったコイツに折れた。
 そんなに食べたいのか、これが。
「ほら」
「んぐっ」
 自身の先走りで濡れた手をそいつの口に押し込む。
 途端に涙を止め、とろけそうな表情で舐めしゃぶり始めた。
 現金な奴め。
「美味い?」
 そう聞くとこくこくと何度も首を縦に振る。
 正直、先走りとか精液とか、普通なら不味いし口にするのも躊躇われる様なそれを、こうも美味しそうにしゃぶられたり飲まれたりするのは、あまり悪い気はしない。
 口から指を出せば、名残惜しそうに指を目で追うが、その頬にペニスを当てれば途端に指の事など頭から飛んだようだ。
「欲しい?」
「欲しい」
 即答し、息を荒げ、潤み、飢えた目で見つめてくる。
 その飢えた表情が堪らなくて、腰をゾクゾクと何かが這い上がってくるのが分かった。
「じゃあ先っぽだけ良いよ」
 そう言い終わる前に、男らしい少し厚い唇が先端に吸い付いた。
 ちゅ、としている事に反してやけに可愛らしい音を鳴らしたと思えば、舌先でもっと出せと言わんばかりに尿道口を抉られる。
 鋭い快楽に喉を反らして喘げば、慌ただしくチャックが下ろされる音がした。
 目線を下に向けると、自分の逸物を取り出して荒々しく扱いている。
 ペニスをしゃぶりながら自慰とか。
「変態」
 その男にしゃぶらせている自分を棚に上げて、目を細めて罵れば取り出された逸物が更に膨らむのが分かった。ドMめ。
 先端を口から出そうとすると、腰を掴んで拒まれる。
 その手に爪を立てて外すと、ベッドに横になって太腿を掴み、脚を広げてみせた。
 ごくり、と喉仏が上下するのを見届けて、にやりと口端で笑う。

「おいで」


 首輪を外された犬に、骨までしゃぶりつくされたのは、言うまでもない。

 

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