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氷と炎と

 顔を合わせれば(いが)み合い、殴り合い、互いを傷つけた。
 そうすれば心を蝕む痛みは、罵られる痛みだと思えた。
 そうすれば体を走る痛みは、怪我の痛みだと思えた。

「あのさ」
 俺の腕を押さえつけるアイツの手の平から、肉が焼けただれる様な音が響き、白い蒸気が上がる。
 激痛で、アイツのいつも涼しげに澄ましている顔が歪む。
 俺の体はお前を傷つけるばかりで、些細な触れ合いすら許されない。
 俺はお前に傷以外、何も与える事が出来ないんだ。

「俺は、アンタに」
 撫でればそこが焼け爛れる。
 キスをすればそこが溶けて行く。
 優しく触れただけのつもりでも、アイツは悲鳴を押し殺した。

 だから、愛してるなんて囁ける訳が無かった。

 触れられないなら。触れることで痛みを走らせるだけなら、傷つけた方がましだった。
 どちらにせよ傷つけるならば、己の意思が伴って傷つけたかった。
 そうする事で心が血を流し軋んでも。

「アンタに一度ちゃんと触れるなら、死んでも良いと思ってたって知ってたか」

 そう言ってアイツは唇の端で笑うと、俺に覆いかぶさって来た。
「っ、馬鹿野郎!!!」
 俺だってお前に触れたかった。
 傷つけてでも傍に居たかった。触れたかった。
 でも。

 冷たい指先が頬を撫で、比喩などでは無く、『泡立って消えた』。
 それをアイツは失笑交じりで見た後、全身を使って俺を抱き締め――唇に。

 唇に、触れたのは蒸気。
 俺の腕の中でアイツは一瞬にして溶け、消えた。

 お前の唇は、俺の唇に触れたのだろうか。
 俺の腕は、お前の背に回せたのだろうか。

 頬に一滴落ちた水滴は、アイツが溶けた物か。だがそれを確かめるより早く、それも消えた。
 ……ああ俺の力は、アイツの一部を残す事すら許さないのか。何もかもを奪っていくのか。
「ちくしょう……っ」

 いきたい、いきたい、お前と生きたい。
 いきたい、いきたい、お前と逝きたい。

「畜生ォオ!!」

 なぁ俺も連れて行ってくれ。

 あいしてると囁かせてくれ。








追記


 

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