ばか馬っ鹿! | ナノ


馬鹿ですか?

リバ(?)/3P/告白
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「ごぶっ!げふっ、ごほっ!」
 俺はテイクアウトを頼んだコーラを思いきり吹き出した。少し鼻に逆流して痛い。水が入っても痛いけど、炭酸だと更に物凄く痛いことが分かった。わーお、一つ賢くなれたぞやったね……じゃなくて。
「ご、ごめん。全然意味が分からん」
 咳き込んだことでずれた茶色の縁眼鏡を掛け直すと、おずおずと顔をあげた。




 学校の帰り道。
 部活があった日は必ず寄るファーストフード店で、友人とバーガーのセットを買い、同じような習慣を持つ学生達で溢れかえる店内を避け、いつもの公園に行って、ベンチに座ってコーラを飲んでいたら友人に告白された。
 因みに同性だ。
 いやね、俺別にそういうのに偏見は無い方だと思うのだ。
 むしろ同性という壁を超える程の想いがあるんだから、純粋にすげぇと思う。
 そんな体験をする日が来ようとは想像もしてなかったけど、実際に経験してみるとあれだな。驚いた後、普通に何かこう……胸がこそばいな。
 いや、付き合うか付き合わないかは別にしてだよ?
 てか、例え同性でも人に好かれて嫌な訳は無いと思うんだけど、そこんとこどう?モテないからそんな事言えんのかね?……でも無くてですね。
 だから同性のダチに告白されたのが意味分かんない訳じゃないのだ。
 意味が分かんないのは……。

「「隆二りゅうじ、俺達と付き合って」」

 『達』ってどゆこと?
 俺は俺を『リュウ』という愛称で呼ぶ友人を見つめた。
「……俺達?」
「そう」
「ああ」
「えっと、どっちかとじゃなくて、両方?」
「うん」
「ああ」
「あのね、分かっているとは思うんだけどさ、俺って人間はこれが一人しかいないんだなぁ」
「そうだね」
「分かっている」
 頭を抱える。
「え、つまりそれは俺に二股しろって事なの?」
 ハードだ。人生初めての告白が同性ってだけでも中々ハイレベルだと思うのに、おまけに二人いっぺんに付き合うとかさばき切れるわけが無い!絶対ボロが出る!

「ちがうよぉ。オレと基樹もときは了解してるから二股にはなんないって!」
 しゃがみこんでにこにこと笑みを浮かべて俺を見上げるのは、男なのに可愛らしいと形容しても良いくらいの面立ちをしている俺の友人、花園 千佳はなぞの ちか
 女装をさせればそこんじょの女の子より可愛くなると思うくらいだ。まあ、背はオレより二センチ高いのだけれど。

「だから安心して良い」
 ぽんっと肩に置かれた手に振り返ると、黒髪短髪のザ・漢な容姿の持ち主であるもう一人の俺の友人、久世 基樹くぜ もときが目を細めて俺を見つめていた。
 剣道部の主将という座に似合った純和風な静かな顔立ちで、俺より八センチも高い身長が道着に包まれると凄い威圧感を放つのを俺は知っている。

「はは、安心とかじゃなくってですね」
 乾いた笑い声を上げて二人を交互に見た。
「ど、どうして二人いっぺんな訳?」
「え?選びたい?基樹の方が好き?」
「や、そゆわけじゃないけど……もっ、基樹そんな傷ついた顔すんな!!嫌いとかじゃなくてだな、千佳とフィフティ・フィフティだ。半々だ、同じだ!」
 慌てて傷ついた様に顔を引き攣らせた基樹のアフターケアに走る。
 基樹は己に厳しいからか、負の感情に走ると、最終的に何に関してでも己を責める。『自分が弱かったから』『鍛練が足りなかったから』と、そりゃぁもう見てるこっちが「もう良いよ、十分だよ」と止めたくなるほどに。
 そんな俺を見て千佳は目を細めた。
「うふっ」
「な、なんだよ変な笑い方して……。てか、そんな事言ったら俺は女の子が好きなんですがね」
「知ってるよー?エロ本だってAVだって見た仲だしねぇ。タイプも把握してるもん」
「だよなぁ……」
 俺は溜息を吐いて、茶色く染めた天パの髪をがしがしと掻いた。
 基樹と千佳と親しくなったのは中学の時。二年でクラスが一緒になったからだ。
 元々二人は所謂幼馴染と言うヤツで、俺と親しくする前から仲の良い見目麗しい、でもタイプが全く異なる二人として校内で名高かった。
 そんな二人と仲良くなる事が出来、それから高二の今に至るまでずっとつるんできた仲だ。
だから色々と相手の事を知っていたりするのだが。
「女の子が好きなリュウは男に告られて気持ち悪いとかないの?それも親友からだよ?裏切られたーとか無いわけ?」
「うーん、それは思わないねぇ。他の奴に言われても多分思わないだろうけどさ……」
「でも嫌なら嫌ってスパーっと断ったら?それくらいの事で崩れる仲じゃないのはリュウも分かってるでしょ」
「そ、そんくらいって……。告白したのはそっちなのになんでそんな言い方すんだよ」
 俺は頭を掻いていた手を止めて、太腿に頬杖をついた。
 基樹と千佳の仲ほどじゃないけど、二人についてはそれなりに知ってるつもりだ。
 だからこそ
「……一緒にいて、お前等の事知ってるから。んでもって俺の事をお前等も知ってるだろうから、断れないんじゃないか。おバカ」
 俺が女の子を好きな事は傍にいた時間が長い分、良く知ってるだろう。
 それこそ俺のタイプや、好みのプレイとかが分かるくらいに。
 それを分かっていながら告白してくるなんてどれだけ勇気がいるか想像もつかない。
 千佳はこんな軽い口調だけど、実は物凄いビビリでチキンだ。俺もそうだけど、俺と並ぶかそれ以上。ポーカーフェイスが上手いだけ。
 基樹だって本当に真摯な奴なんだ。
 こんな二人の告白に答えてやりたいと思う反面、俺の胸の内にある感情は友情以外の何物でもない気がする。

「あのさ……なして俺?」
 別に平々凡々と言うほど見た目にインパクトが無い訳ではない……筈だが、とり合えずこの二人のように眼福物の顔では無いことは断言できる。
 中の中の上……いや、下手すると下かもしれない。
 茶色の天パの髪、それに合わせた焦げ茶の縁眼鏡。
 目は小さくも無いけど、大きくも無い。色白と言う程白くも無ければ、線も細くない。
 まぁ、言ってみれば女の子みたいな容姿だなんて口が裂けても言えない訳だ。
 人に言わせると『なんか柴犬っぽい』。
 片思いは数知れず、彼女いた経験はおろか告白された経験もした経験もなし。顔ははっきり言って好きになるきっかけではないだろう。
 じゃあ運動か?とも思ったが、その線も薄い。部活はバスケ部だけどもそんな役に立つほど上手く無い。足を引っ張るほどでもないけど。
 それよか剣道部の主将の基樹、陸上部のリレーでアンカーを任される千佳の方が断然出来る筈だ。頭だって、得意科目・苦手科目がはっきりと別れるふつーの頭。
 さて、一体俺のどこが良いのだろうか。どこにでもいそうな、ごく平均的な男子高生だ。

「隆二は人の事を良く見てる。それはしようと思っても中々出来ない」
「オレ達だけじゃないんだよ。他のクラスの人の事も。それで、いつもして欲しい、言って欲しい事をそっとしてくれる。そんな呼吸するみたいに優しいとこが好き」
 ベンチに座っている俺をしゃがみ込んで見上げる千佳、後ろに立って覗き込む基樹。
 鳶色の瞳と、漆黒の瞳が俺を捕える。
「それに可愛い」
「時々格好良いしね」
「欠伸したあとに鼻を擦るのとか、可愛い」
「ああ、わかるわかる。それにクシャミも可愛いよねぇ」
「そう。図書館が以外と好きで、真面目に本を読んでる横顔」
「あーあれ大好き!リュウの真面目な顔すっごい格好良い。でも、そこからへらっと笑うのもやばい!」
「名前呼ぶ声も」
「それは欠かせないでしょう」
「やめぇえええええええい!!」
 思わず俺は顔を覆って絶叫した。
「な、何なのその
 『あそこのお店美味しいよねー』
 『うんうん、私パスタ好きー』
 『あっ私もー!おまけにデザートも美味しいよね!』
 『おまけに安いしー』的な会話を繰り広げる女子高生みたいなノリでする俺への賛美!!はっずいわ!聞いてるこっちがはっずいわ!馬鹿か、ばっかかお前等!そこまで言えなんて言ってないわ!」
「あ、そんな突っ込みも好きー」
「だまらっしゃい!」
 シャウトした後、肩で息をする。
「分かった……よーく分かった。お前等が俺の事をマジで好きなんだって事は、恥ずかしさで身が焼尽するかと思うくらい分かった」
 ……中身に惚れてくれたって事なのね、と何度目か分からない溜息を吐いて、千佳の長めな薄茶の髪に手を伸ばした。
「でもさ、お前等も分かってるんだろ?俺が友情以上の感情を多分抱いてないってのは」
「……うん」
「ああ」
「ああ、ちげぇよ。そんな顔をさせたいわけじゃなくって」
 右手を前にある千佳の頭に。左手を後ろにある基樹の頭に乗せる。
 なでなでと手の平にしっくりとくるその頭を撫でくり回した。
「俺はさ、友情を壊したくないとかそーゆーのじゃなくって、純粋にお前等の気持ちに答えたいんだよ。お前等はどうして欲しい?付き合うっても、俺はどうすれば良い?」
「……リュウ〜〜っ」
 がばぁっと千佳に抱きつかれた。
「ああもう大好き。付き合って。気持ちが無くっても良い。付き合って、一緒にいて。それで良いから」
「それでって……今までとなんら変わらんじゃん?」
「良いんだ」
 後ろから基樹の腕が回される。
「それで良い。俺達はお前と恋人になれたっていう事実が一番欲しいから」
「……そんなもんなんかね?」
 良く分からん。……というのが本音だ。
「じゃあ、付き合うっても何時も通りで良い訳な」
「うん。あ、でもでも、勿論、リュウが良いなら恋人同士みたいな事、オレしたいよ?」
「たとえば?」
「でっ……デート、とか」
 俺の膝の上に跨って抱きついていた千佳は緊張の緒が切れたのか、いつもの作っているひょうひょうとした態度はどこかに行って、どもりながら赤面した。――……う、迂闊にも可愛いとか思っちゃったよ。
 いや、良いのか。恋仲になったなら別に……。
「それに、隆二が良いならHもしたいな」
 両頬を挟まれて上を向けさせられると、基樹が色っぽく笑っていた。――わあ、イイオトコ。
 またもや脈が速くなったが、『H』という言葉に頭が冷める。
「ま、待った。俺、男子高校生二人分の性欲ってか、アレをこの身に受け止めれるほどタフじゃない」
 何となくだけれど、俺が女役な気がする。
 む……無理無理無理無理!したこと無いけど、男って後ろの穴使うんだよな?
 女役はまだしも、二人もいっぺんにHしたら穴壊れる!え、まさか二輪刺しとか!?
 え、肛門ゆるゆるになったらどうすりゃいいの?オムツ着用?セックスしすぎで肛門科は恥死するから行けねぇよ。
「あ、うん。それは大丈夫」
 千佳が首を横に振りながら柔らかく微笑んだ。
「基樹はリュウを抱きたいけど、オレは違うから」
「へ?どゆこと?」
 千佳ってインポ?なんて男子高校生としてはかなり危ない可能性が脳内を駆け巡る。
「オレはリュウに抱かれたいの」
「……わ、わあい」
 予想外の告白に額を押さえて感嘆の声を上げた。
「じ、じゃあ、俺は基樹に抱かれて、千佳を抱く。と」
「うんそーいうこと!オレはネコ、基樹はタチって事で」
「……あのさ。そんな俺を仲介しなくても、千佳と基樹でヤっちゃえばー……なんて思ったんだけど……」
「「隆二じゃないと勃たない」」
「あ、あっそ……」
 その熱烈な言葉にまた額を押さえた。
 ね、ねぇそれって健全な男子高生としてどうなの。

「基樹と話したんだよ?最初はどっちがリュウと付き合うかで、喧嘩もして……」
「でも、隆二が好きな気持ちと、千佳に幸せになって欲しい気持ちは同じくらいだったから」
「オレも同じ。でさ、基樹は抱きたい。オレは抱かれたいなら、一緒に付き合っちゃえばいいんじゃないって!」
「いいんじゃないって……それで良いの?お前等はさ……」
「俺一人のじゃないというのは嫌だが、それが千佳なら別に良い」
「右に同じー」
 ……何かおかしい気がする。
 おかしい気はするが、でもこいつらがそれで満足するなら、まあ……俺も満足だ。
 それもやっぱりどこかおかしいのだろうかと思う。
 (――きっと類は友を呼ぶって奴なんだろうなぁ)

「だから、オレ達以外の奴に手ぇ出したら怒るからね」
「監禁する」
「か、監禁は嫌だなぁ……」
 基樹ならしかねないと顔を引き攣らせる。
 でもまぁ、イイ男の基樹と、そこんじょの女の子より可愛い千佳以外に良い子ってそうそういないだろうし。
 だからこの二人以外に心を向けることは多分ない。
 そう思いながら、ふと 思っている以上に俺はこいつ等の事が好きなのかもしれないと思った。
 (それはもしかしたら『友情』という名で括るには少し大きい好意かも…な)

 ふっと口の端で笑う。
 それは未だ可能性でしかない。
 だから今は口にしないが、確固たるものに変わったらこいつらに伝えてやろう。
「じゃあまずはさ」
 俺は笑いながら黒い頭と、茶色い頭を掻き抱いた。

「俺を本気にさせてくれよ」




『類は友を呼ぶ』

 集まったのは、少し周りとずれた馬鹿ばっか。
 ――だから、こういう関係も良いかもしれない。



- 終 - 
2011.01.09


 

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