この身捧げても | ナノ


治まらない熱

看病/我慢/甘/R18
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 寒く凍える季節。……風邪をひきました。

「ううー……」
 小さく呻いて軽く鼻を啜る。昨晩久しぶりに家に帰って来た母親は、身体の不調を訴える前に仕事に行ってしまった。そもそも訴えても放任主義の母の事だ。「甘えるんじゃないわよ」とでも言われて結果は同じだったかもしれない。
「薬、くすり……」
 熱で軋む身体に鞭打ち、階段を下りて薬を探す。
「……ない」
 まず救急箱がない。というかこの散乱した部屋の中から見つけるのは至難の業だと思う。……そもそも救急箱はあってもその中に風邪薬が入っているか定かでない。
 母親に聞こうにも、デザイナーとして忙しく、仕事第一の母がいつ帰って来るか分からないし、携帯も殆ど繋がらないのだ。
「デザイナーなら部屋くらい綺麗にして欲しい、な……」
 悲しさの籠る眼差しでソファーにオープンに掛けられた女性用の下着を見つめ、何の収穫も無いまま二階の自室に戻った。
 悪寒で震えながら携帯で学校にどうにか連絡をいれると、布団に包まって目を閉じる。
 こういう時は寝よう。目が覚めたらきっと少しは良くなっているはずだ。
 うとうととした思考の中で、聴き慣れた着信音が聴こえた気がしたけれど、重い腕を持ち上げるのが億劫で無視をしてしまった。

 オレは熱を出した時に見る夢がキライだ。
 幼い頃は熱を出すたびに同じ夢を見ていた。とても不安になる夢。
 いまではその夢の内容を思い出せず、熱を出しても夢が同じことは無いけど、不安になるのは一緒だった。
 夢だと分かっているのに、覚め方が分からないオレを捕えて離さない粘着質な夢。
「う……あ……」
 呻いて頭を降ると、その額に冷たい何か押し当てられた。
「……う……?」
 うっすらと目を開けてそれが何か確認しようとしたけれど、何か囁かれて、その声と響きに安心してオレはゆっくりと穏やかな夢に落ちていった。


 目が覚めると、未だに身体はだるいけど悪寒は減っていた。
 重い身体を起こすと汗でベタついていて気持ち悪い。
「……着替えなきゃ……」
 自分に言い聞かせる為にそう呟いたが、それは誰もいない自室を自覚させてしまう。
「……っ」
 さっき見た不安な夢の残滓と、風邪で不安定な精神、寂しさから涙が滲む。
 寂しい、苦しい。
「……ミネぇ」
 縋るように呼んだ最愛の人の名前。

「なんだ」

 それに返事が返ってきてベッドの上で飛び上がった。
「……え?え?」
 目を白黒させてドアを開けて入ってきたミネを見つめる。
「風邪ひいてんならすぐ連絡しろよ。どうせお前の母さん仕事でいねぇんだろ」
 低く少し不機嫌そうにそう言ったミネは、部屋に置いてある小さなテーブルの上にビニール袋を置いた。
 がさりと音を立てて中身を晒す。スポーツ飲料に多分薬であろう箱……と葱?と卵?と米……。
「ほら、額に貼ってるやつもう渇いてるだろ。新しいの貼るから剥がせ」
「え…?」
 自分の額に手を伸ばすと、そこには冷えピタが貼ってある。
「……ミネ、いつから……?」
 目を向けた時計はまだ13時半過ぎを指している。が、学校は?
「お前が連絡なしで休むなんて大方体調崩したに違いないと思って、サボった。案の定寝込んでるし、冷えピタあるけど薬ねぇから買ってきた。それにしてもお前ん家の冷蔵庫、ホントに何にもねぇな……お粥もつくれねぇってどういう事だ」
 溜息混じりにミネはそう言うと俺の額の冷えピタを貼り変え、「今から粥作ってやるからな」と背を向けた。
 反射的にその腕を思わず掴んでしまう。
「どうした?」
 ほぼ無意識で動いてしまった為に一体何て言えば良いのか分からず、かといって思いを正直に口にするのは躊躇われてわたわたと手を放した。
「……あ、ええっと、あの。……ありがとう」
 俯くと頭上でふっと笑うミネの気配がした。顔を上げる前にわしわしと頭を撫でられる。
「直ぐに作るから…な?」
 微笑まれたそれに、寂しくて掴んだのがばればれであることに赤面した。

 
 布団の中でミネを待っている間ふと携帯を見ると、ちかちかと着信を知らせる点滅が忙しなく瞬いているのに気づいた。
「……ん?うわ」
 開けてみてびっくりした。十を超える着信履歴やメールの数。勿論全部ミネから。
 メールの中身を見ていたら、部屋のドアが開いてミネが湯気の立っているお椀を持って来た。
「熱いから気をつけな」
 渡されたのは、刻んだ葱と卵の落してあるお粥。
「……おいしい」
「そりゃ良かった」
 囁かな塩味と、葱がアクセントになっている優しい味のお粥にそうぽつりと零す。
 もくもくと匙で掬って口に運ぶオレを見つめていたミネは、おもむろに服の裾から手を突っ込んで脇腹を撫でた。
「やっぱり汗掻いてんな。食い終わって薬飲んだら身体拭いてやっから」
「……うん」
 余り食欲は無かったのだけれど、美味しいお粥は食べやすくてお椀に入っていたのを全部食べてしまった。

「じゃあ薬な……って、え…」
 袋から薬の箱をとり出したと思ったらミネの手が止まる。
「……どうしたの?」
「……これ、座薬だ」
「え!」
 座薬なんて久しぶりに聞いた。幼稚園の時ぶりじゃないかな……。嫌だな……あの硬い感触と異物がある感じが嫌いだったりする。
 小さい頃、母さんに入れてもらった後、異物感が分からなくなるまでひんひん泣いていた記憶がある。
「ほ、他の薬はないの?」
「薬局の井上の婆さんに一番効く熱冷ましの薬くれっていって、どんなのかちゃんと見なかったからな……」
 井上のお婆さんの経営する古びた小さな薬局は、全部お婆さんが選んだ薬を渡される。
 それがベストな薬だと言われ、そして確かにそうだからお婆さんのお店は母さんが子供の頃から続いているとか。
 だから何を渡されたのか確かめなかったミネは仕方ないと思う。それだけの信頼があるのだから。……それでも座薬は嫌だ……。
「婆さんがくれたんだからこれが一番効くんだろ。ほら尻出せ」
「……い、イヤ」
「嫌じゃねぇよ、我が儘言うな」
 ベッドの上にミネが乗ってきたと思ったら、うつ伏せにさせられた。
 ただでさえ力で敵わないというのに風邪をひいた今、抗うと言っても手足をばたばたさせるだけ。
 そんなのミネには屁でも無いのだろう。腰を高く上げさせられると手際よくズボンと下着を下ろされる。
「ミネ、ミネっイヤ……ヤだ」
 じんわりと涙が滲んでくる。頭を振ると髪がパサパサ鳴った。
 涙を浮かべたオレに気付いたのか、ミネの腕が止まった。
「どうして嫌なんだ?いつもこれよりでけぇの咥え込んでんじゃねぇか」
「そ、それはイイけど座薬はヤだ……」
 いや、と続ければミネが黙った。もしかして我が儘言い過ぎて怒らせてしまっただろうか。
 そんなのもっとイヤだ。怒られて嫌われてしまうかもしれないなら、座薬くらい我慢する。
 オレは慌てて謝ろうと、腰を高く上げたまま頭を振り向かせる。が、後ろを指で撫でられる感覚がして、思わず腰が引けた。
「そういや喜一玩具嫌いだもんな。無機質な感じが駄目なのか……?」
 甘く低い声で穴の周りを弄られると、変な声が出そうになってしまう。
「喜一の嫌な事はしたくねぇんだけどさ、喜一が熱で魘されるのはもっと見たくねぇんだ。これが一番効くっていうんだから……な?」
 イイ子に出来るか?と頭を撫でられて、絆されたオレは静かに頷いた。


 くにくにと穴の周りを指の腹で揉まれる。ミネは痛くない様にしてくれているだけなんだろうけど、まるで今からそういう事をされるんじゃないかと思ってしまう。
 それくらいに優しく、甘い弄り方だ。
 甘く鼻を鳴らしてしまいそうになって、オレは枕に顔を埋めた。
「……じゃあそろそろ入れるぞ」
 穴に何か細いのが当たって、息を呑むと覚悟をした。

 ぷつ…っ

「うぁあぅ!?」
 驚きに背中を仰け反らして思わず叫ぶ。
「や、やぁ……っな、ナニ!?」
 ぷつりと中に入ってきた薬と共に、薬とは別の長い物が入ってきたのだ。
「ああ……俺の指」
 指?!な、なんで!?
 中で僅かに動かされる感覚から、第二関節くらい入っている気がする。
「こうすれば指に集中して薬の事わかんねぇだろ?」
 確かに中に挿れられた指の方が、存在感があり過ぎて薬の方が分からない。おかげで薬が入るあの嫌悪感が無かった。
 ……あの頃に比べて、中に挿れるのに慣れてしまったというのも、あるかもしれないけど。
 薬が溶けるまでこうしてやるから、というミネの言葉にオレは安心して身体の力を抜いた。……抜いて直ぐにもぞもぞと身体を動かし始める。
 薬の気持ち悪さがないのは良い。良いけど……。
(あ、あ、ミネの……指が……。)
 ミネの指がオレの悦いとこを時々掠めて、なんだか段々気持ち良くなってきてしまった。
 オレを気持ちヨくするためにしている訳ではないから、良いとこがもろに刺激される訳じゃない。
 でもその僅かにずれた感じが、かゆい所に手が届かないもどかしさが腰にクる。
(あ、ダメ。ダメ。オレ勃っちゃ……)
 枕をぎゅっと握ると、じんわりと身体を覆う快楽から目を背けた。
「もう良いな…」
「う、うん。ありが、ひぁああ!」
 ちゅぽん!と何の前触れもなく指を抜かれて、口を塞ぐ暇も無く高い声を上げてしまう。
 ミネが喘ぎに驚いたように身を強張らせたのが分かったが、手をオレの股に差し込んで小さく笑った。
「……ああ。そうか」
 羞恥で声も無く口をパクパクとさせるオレの身体を起こすと、ミネは自分の足の間にオレを挟んだ。
 下は何も付けない状態でミネに背中を預ける格好になる。
「もどかしかったか?ごめんな。抜いてやるよ」
「え!?」
 ミネは優しくそう言うと、半勃ちのオレのペニスを手で覆った。
「うぁあ!?」
 もにゅもにゅと袋を揉まれた後、竿を上下に擦られる。
 すぐに完勃ちになったそれは、先端からだらしなく先走りを零した。
 そこをくりくりと弄られると、オレの意識は直ぐに快楽で蕩けてしまう。
「あ、うう……ミネぇ、な、中……挿れ、て」
「……駄目」
 一緒にイきたい。そう言ったのにミネに拒否された。
「風邪ひいてんだから無理させれねぇ。キモチ良くすっから……ほら」
 途端に激しく上下に扱かれてオレは嬌声を上げた。
(で、でも、でも……っ)
 凭れている背中にミネのが当たっている――勃っているんだ。
「ダメ……だめだって、ば……ぁっ」
 熱でくらくらしながら、オレのモノを擦りあげるミネの手を力なく掴んだ。
 耳を優しく食まれて、片手で扱かれ、もう片手を腰に回される。ぴっとりとくっついた背中の温かさと、ごりごり当たるミネの熱に精神的にもどんどん追い詰められていく。
「ミネ、だって……こんなん……」
「んー……俺は後で自分ですっから」
「ヤだ、ヤだよぅ、ミネぇ……一緒に……」
 『一緒に』と言った瞬間に、ぐっとミネの熱が大きくなった気がした。
「……っは、俺が我慢できてる間にさっさとイけ……!」
 乱暴なその口調と手つきに、我慢していた白濁を散らしてしまう。
 快楽に身体を震わせた後、ふうっと意識が沈んでいった。




 イった後意識を失い、くったりと身体を凭れさせてきた喜一を支える。
 無言で手の平で受け止めた白濁を、側にあったティッシュで拭きとる。その後、一階に下りて手頃なタオルをお湯で濡らして絞った。それを持って喜一の部屋に戻ると汗で濡れた服を脱がせ、静かに身体を拭き、新しい服を着せる。
 それで終わりな筈、なのだが。
「いってぇ……」
 股間が破裂せんばかりに張り詰めていて痛い。
 据え膳を食べ損ねた息子はしくしくどころか、全身を震わせて号泣していた。
 今すぐ喜一に突っ込んで中で達したい。それが無理なら扱いて顔にぶっかけたい。しかし目の前の彼は今は病人だ。身体に負担になる事は勿論、汚しても駄目。
 けれど無防備に晒している身体に、抗えないほど欲が働く。
 舌打ちをするとベッドの横に座り、ズボンの前を寛げ、既に先走りを零す逸物を取り出すと乱暴に扱いた。
「はっ……ぁ……きい、ち……っ!」
 先程の喜一の媚態を脳内で再生すると、頭を喜一の脇腹に埋める。
 着せたばかりのシャツを肋骨辺りまで捲り、臍の周りに舌をぬとりと這わせた。
「は……っぐ……っ!」
 味蕾に微かな塩味を感じながら、絶頂に達する。張り詰めていた時間が長かった分、早い。
 喜一に掛らない様に手の平で受けるとティッシュで拭った。

「あー……」
 足りない。満足できない。目の前にご馳走がありながら喰らいつけないこのもどかしさ。
 でも喜一の穏やかな寝顔を見ると、欲よりも愛情が勝るから不思議だ。……まあ僅差ではあるが。
「……早く元気になれよ」
 俺は色々な想いを込めて喜一の額に口付けた。





- 終 - 



 

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