擬人化/血表現(微グロ)/兄弟/BADエンド/R15
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指に纏わりつく温もりとべたつき、そして辺りに満ちる生臭さ。
「お前は何を食っていたんだ?」
暗闇の中、自分の声だけがシンと響く。そこにいつも返ってくる返事は無い。
「俺が知らないと思って何を食っていたんだ?何をしていたんだ?誰にどんな顔で合っていたんだ……?」
ぐちゃりと音を立てて熱い物を指先で弄んだ。
「なあ……なあ……美味い物食っていたんだろ?楽しい思いをしていたんだろ?優しい顔で人と喋っていたんだろ?」
やはり返事は無い。
当たり前だ。自分が殺したのだから。
「俺が目が見えないからって自分だけ良い思いをしていたんだよな?」
『そんなことないよ兄さん!僕は兄さんの……』
「俺の面倒を見るのなんて疲れたよな?」
『そ……そんな事を何で言うの……兄さんは大切な……っ』
「俺を捨てるなんて許さねぇ」
見えない目を補うかの様に鋭くなった耳と鼻で弟を追い詰め、持っていた包丁で柔らかい腹を貫いた。
肉を裂く嫌な感触が手に伝わり、溢れ出す血潮の熱いこと。
『兄……さん……』
ごぼりと血が喉から溢れる音を響かせながら、最後の呼気と共に愛しい弟は俺を呼んでこと切れた。
「俺を一人にしないでくれよ……なあ?」
返事の無い弟の頭を掻き抱いて、兄は見えない目から涙を零した。
「何も見えねぇよ……真っ暗だ。何にも見えねぇ……」
生まれてこの方、目が見えた事はない。いつも闇の中だった。なのに今、灯火を拭き消してしまったかのように、いつもの闇がもっと暗く思えた。
本当は知っていた。
弟が自分の事を大切にしてくれていた事。
自分は二の次にして俺に良い物を食べさせてくれた事。
俺の目を直すために一生懸命に働いていた事。
本当は自分から「俺の事は放っておいていい」と言わなければいけなかった。
けれど弟なしではもう生きていけなかった。――例え、目が見えるようになったとしても。
優しい弟。だからこそ怖かった。その優しさは一体どこまで赦してくれるのかと。
血を吐くような叫びが辺りの空気を切り裂いた。
弟恋しや 弟恋しい……。
居なくなってほしくなかった。でも居なくなってしまった。
自分から壊してしまった。
ああ 弟恋しや オトトコイシ……。
今日も時鳥の後悔のなき声が響く。
- 終 -
2010.?.?