abduction ‐誘拐‐ 


「どうしても…?」

「だめぇ〜!!」

「ね〜」


女子高生のパワーって凄い…。
溜息をつきながら俺は手に持っていたものに再度目をやった。


「分かった…俺も男だ…。ここは腹を括ろう…」

「やり〜」

「そろそろだからね!」


きゃははっ ちょー楽しみ!!と明るい声をたてて手を振りながら女子は駆けて行った。


「はは…俺はちょー憂鬱」


俺はその場で乾いた笑い声を立てた。


「ま 頑張れ」


ぽんと肩に手が置かれる。
後ろを向くとニヤニヤした男どもが立っていた。


「…Et tu, Brute(ブルータス、お前もか)」


舌打ちをしながら呟くと


「「「Then fall, Caesar!(ならば倒れよ、シーザー!)」」」


自慢げに返された。
誰だよこいつらにこんなマイナーな返事の仕方教えたの…………俺か。

俺は本日何度目かのため息をつきながら手に持っているものをぐっと握り締めた。




「そこの、そこの村人。あそこの塔はいったいなんだ?」

「ああ、あそこには近づかない方がええですよ。悪い魔女がいるってぇ話だ。
そんでもって、可哀そうな娘がとらわれてるってぇ話もきく」


幕の後ろで素人のぎこちない芝居を聞きながら俺は自分の登場を待っていた。

村人の話を聞いた王子役の男子が草むらに隠れて、魔女が塔に近づいたら俺の出番。
塔の上から顔を覗かせて、魔女の呼びかけに答えてなっがい鬘を垂らすのだ。

そうこれは劇。内容は『ラプンツェル』

俺はこの話が嫌いだ。

まず『ラプンツェル』という名前がおかしい。
意味を知ってるか? 『チシャ菜』だ。
食用の葉っぱの名前を娘はつけられてしまったってわけだ。

いくらなんでもそれは可哀そう過ぎないか?
俺の名前が『キャベツ』で、おまけにそんな名前をつけられた理由が母親が隣家の『キャベツ』を無断で食ったからだったら俺はやるせなさすぎるぞ。

他にも突っ込みどころは満載だ
無断で食べた代償として1番はじめの子供を要求する隣家の魔女とか…。
特におかしいのはあれだ。
「ラプンツェル、ラプンツェルや、髪の毛を垂らしておくれ」のとこだ。

まあ、とりあえず…頭皮が剥げ落ちるわ!!!!
女の子になんて事要求すんだと思う。
魔女どころか王子までラプンツェルの髪の毛使って上がってくるからな。

おまけに王子が提案した逃避行の方法は毎日1本紐を持ってくるから、それを編んでロープにして逃げる。だ。
最初っからロープ持って来いや!
てか、梯子で良いだろ、梯子で!!

んでもって、魔女にばれたきっかけは「貴女重いわ、王子はするする登って来られるのに…」という娘の本音ポロリ…。


…って これらが一番嫌いな理由ではないけれど、とにかく矛盾がありすぎて嫌いだ。

それを皆の前で朗々と語ったら「夢が無い」と一蹴された。
いいんだよ。もうそんな年じゃねぇんだから。


お、そろそろ俺の出番だ。



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