ばたばたばたばた
…何だ、騒がしい。
布団の中で眉を顰める。
もぞりと寝返りを打とうとすると、俺の左腕にはサランの頭が。右わき腹にはアギアの腕が巻き付いていた。
動けない状態だが、心はなんとなく温かくなる。
サランを抱き寄せながらアギアの髪を手で梳くと目を閉じた、が。
バーン!!!
ドアが思い切り開けられる音と共に足音が近づいて来て布団を引き剥がされる。
毎度の事になってはいるが、温い布団から外に出されてしまった事で身を縮こまらせてしまう。
「…おい、アギア。起きろよ…お前だろ」
「……もう少し…」
「お前の所為で俺まで起こされるだろうが」
「シオイ様!」
「え、俺?」
まさか俺とは思わずに思わず細めていた目を擦りながら起き上った。
まだ眠りの中にいるサランの頭をそっと枕に乗せて欠伸を堪えつつリュスを見る。
焦ったような表情にこちらもつられて真面目な表情になってしまう。
「あの、ミオル殿が…!ミオル殿が、ごぶへっ!!!」
焦りの余り早口でどもるリュスの頭に綺麗な一閃が叩き込まれ、リュスは紫の髪を綺麗に散らしながら横に倒れた。
その後ろから現れたのは臙脂色の髪を高々と結い上げた美人。
「あ…。あんた」
初めてではない顔に思わず指をさすと、
「ナオユキ…だったね?アタシのとこは準備が出来た。支度をしな。一緒に行くよ」
赤の指の長さんは口の端を持ち上げて艶然と微笑んだ。
「だからっ どうして貴女はそうやってこちらに連絡を入れないで動くんですか…!!」
「あーあー五月蠅いねぇ。アンタ男だろう?
付いてるモン付いてるんだから、こんなちっさな事でそんな怒鳴るんじゃないよ。男は包容力と決断力があってなんぼだ」
「小さくないから言ってるんですよ!! 自分の立場を理解して、少しはこちらの事を――…」
「はいはい、タマとアソコの小さい男だねぇ。だからモテないんだよ」
「な…っ!!!」
余りの言いようにリュスが赤面して口籠る。
それを見てからからと豪快に笑う赤の指の長…ミオルさんは「生娘みたいな反応をしなさんな」とさらにリュスを赤面させていた。
そのやり取りを後ろから眺めながら歩く。
黒地に隅に灰色で不思議な文様が縫いこまれた袖の長い上着はズボンと同じデザインで、ズボンがゆったりしている割に上着の腰がぴったりとしていて衿も詰襟とまではいかないがすっきりとしたデザインだから全体的に締まった感じがする服装だ。
ちなみに前を止める構造が不思議な作りになっていて前から見ただけではどうやって止めているのか分からない。
何時もとは違う服装に何となく落ち着かない気持ちになるが、ミオルさんがくるりと振り返って更に緊張が増した。
「ごめんね、アンタには悪いと思ってるんだよ。でも驚かせたかったからさ」
少しだけ眉を寄せて謝るミオルさんに笑みを返す。
「いや、俺こそ急だったし、これから世話をしてもらうのはこっちなんだから気にしないでくれ」
「ほーら、聞いたかい?アンタもこれくらい男らしい台詞を言ってみなっていうんだ」
「ミオル殿…!!!」
がぁっと大きく噛みつく様に怒るリュスをひらひらと手の平を振ってあしらうとミオルさんが笑顔を向ける。
やっぱり美人だ。艶やかと表現するオーラを纏う女性。
ニィっと紅の唇が弧を描く。
「でも安心しな。今すぐとは言わないから。長くなるかもしれないし、アンタも出かける挨拶くらいしてから行きたいだろう?
昼過ぎにここを出る。それまで…いておやり」
くっと向けられた顎に後ろを振り返れば柱の後ろに小さな影がさっと隠れるのが目に入った。
それが何か分からない訳が無い。
三人とも同じ思いを含んだ笑みを口に浮かべた。
「ふふ、余程あんたの事がお好きなんだね。珍しい」
「そうなんですよ、人見知り勝ちなあの方にしてみれば本当、びっくりするくらい早く懐かれて」
優しく目を細めたミオルさんが口を開く。
「アタシは王に連絡がてら話がある。それが終わったら呼びに来るからね」
分かったと言えば、リュスと二人でまた口喧嘩を勃発させながら去っていった。
それを見届けた後、先ほどの柱に近づく。
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