「なあ…リュスが言ってた『豊穣の気』とかいう物を詳しく教えてくんねぇか」


色々考えている内に何となくそう聞いてしまっていた。
静かにアギアは顔を上げる。


「特に名は無い。…ただ、そう表現するのが一番近いだろう。
リュスは白の牙【ユーソン】の血を引いているのは知っているか?」


その言葉に首を縦に振って肯定する。


「ユーソンの血を引くもの全てとは言わん。
それ相応の訓練をし、そして天賦の才が無ければそれを見分けることは出来ない物だ。
あれはユーソンの血が薄いのにもかかわらず、天賦の才とそれを伸ばす努力をしてきたからな」


どこか抜けていて、こんなのが宰相で良いのかと思っていたリュスのイメージが少し変わった。
そうだよな。努力が無ければすぐにでもお役御免になっているだろう。


「…話が反れたな。
その例えて『豊穣の気』という物は、はっきり言ってそのままだ。
俺と交われば国が豊かになる。
簡単に言えば作物等収穫量が増える、病が減る。命豊かな国へと向かうわけだ。
どういう仕組みかは分からん。ただ、その『豊穣の気』とやらを国に満たすと、土が肥えるなど…そうだな奇跡といっても良いか…奇跡が、起こるのだ」


奇跡だなんて言葉を使われると猶更自分がそんな物を纏っているとは思えない。
俺は思わず眉を顰めた。


「…リュスの奴、何か間違ったんじゃ…?」

「多分間違ってはいないだろう」

「…なんで言い切れるんだよ」


アギアが口の端を持ち上げて見上げてくる。


「お前からは瑞々しい匂いがするからだ」

「…はぁ?」

「我が亡き母上と似た香りがする。
母上は香水を好まなかったが、いつもこのような香りがした。まぁお前の方がずっと濃いがな」


思わず腕を自分の鼻に押し当てて嗅いでしまう。
そんな匂うのだろうかと首を傾げると、アギアに笑われた。


「お前には分からんよ。この匂いは王の血筋の物にしか分からん」

「…じゃあサランは」

「まだ幼いから分からんだろうが、時期がくれば分かるようになるだろう」


ふぅん、と相槌をうちながらサランの寝顔を眺める為に身を捩じる。
サランも俺の事を匂うだなんていうようになるのだろうか。
うう、良い匂いなら良いけど、一緒に洗濯されるの嫌だなんて言われたらショックだな…。
そこまで考えてはっと気づく。

――そうだ、俺はこの子の成長を見届ける事は出来ない。

1年したら俺は元の世界に帰るんだ。
そう思うと急に胸が締め付けられるように痛んで、まだほんの少ししか傍にいないというのに、もうこんなにこの世界とそこにいる人々に愛着が湧いてしまっているのかと少し瞠目した。


「今はその指輪と石が仲介となっているが、俺と交わればその比ではない。
その指輪が仲介するのは気の1割にも満たない。それが俺を介せば全てを使える」

「…俺は交わらないと宣言したけど、リュスは正妃の座についてくれって言ったぞ」

「お前は規格外なほどの気を纏っているからな。その指輪を付けるだけでかなり国が潤う」

「ふぅん…」


指輪を指でなぞりながら返事をする。
真ん中に丸い白銀の石が嵌め込まれていて、その石周りと指輪の円周をぐるりと細い蔦が彫られているデザインだ。
石の色が色だけに余り派手な感じはしないが作りが細かい所が高価な感じがする。


「この指輪を他の人に付けるさせる事は出来ないのか?」

「莫迦者。それは正妃のみがつけれる由緒正しい物だぞ。そんなほいほい誰かれ付けられる安い物では無い」

「…そうなのか」


いや、だったら期限付きのぽっと出の俺も駄目なんじゃ…と思ったが、アギアに急に抱きしめられて考えていた事が吹っ飛ぶ。
アギアは体を上にずらすと、俺の頭を抱きかかえてきた。


「あ?どうした」

「お前も今日の事で疲れたろう。ゆっくり寝るが良い…別によかろう?俺がここで一緒に寝ても。
それとも何か?我が正妃は人を蹴落とす程寝相が悪いのかな?」

「ンな訳ねぇだろ…!お前だって今日初めて一緒に寝る訳じゃないだろうが…っ」

「ふふ、そうであったな。…レ・イギラ・ナロ・エ」


以前言われた時と同じように額に唇を落とされながら呟かれ、俺は渋々「良い夢みろよ」と言いながら目を閉じた。



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