warmth -温もり- 

二人分の髪を洗った後、自分の髪も洗い、風呂を出る。

それぞれ思い思いに身体を拭いているとまた妙な気持ちになった。
それは幼い頃に父親と一緒に銭湯に行った時のような、喉の奥がこそばいような気持ちを温かみのある物が包んでいるような感じで。
その温かさを全く血の繋がっていない他人から感じるなんてと不思議に思いながら、重みのある分厚いバスタオルで一生懸命頭を拭くサランを見、口の端に笑みを自然に浮かべた。

滑らかな肌触りの寝間着に着換えると、自分の部屋まで簡易の靴の間抜けた音を立てながら3人で歩く。


「じゃあおやすみ」


俺の部屋に一番最初につくのだけれど、サランの部屋まで3人で送る。
寝間着の裾を揺らしてサランがこっちを見、何か言いたげな顔をしながら「…おやすみなさい」と言った。


「どうした?」

「べっ、別に何もないですっ」


顔にこんな出ているのにばれていないと思っているのか、慌ててドアの取っ手に手を掛けるサラン。
それをアギアが肩を掴んで阻んだ。
サランの前に膝をつき、目線を同じにする。


「言いたい事があるのなら言うが良い。子供は言いたい事を我慢するものではない」


今のうちだけだぞ?我儘が言えるのは。と悪戯げに微笑むアギアにサランがゆっくり取っ手から手を離し、おずおずと俺を見た。

――俺?

もじもじと寝間着の端を掴み、思い切る様にばっと顔を上げる。


「きょ、今日だけで良いので…っ かか様と一緒に寝てはだめですかっ!」





「…何でお前もいるんだよ」


一人では広すぎるベッドにサランを招くのは全然結構な事だった。
サランが俺と寝るのが暑苦しくないとか言うんだったら、喜んで隣を空ける。
そう伝えるとサランは喜び勇んで俺のベッドに上がっていった。

その隣に身を横たえると、サランがおずおずと引っ付いて来て。
それが余りにも可愛くて頭を撫でてやるとまた嬉しそうな顔をしてくれるから、こっちの心は満たされていく。
そんなほくほくとした気持ちを抱えていたら、突然俺の隣に誰かが潜り込んできて、慌てて顔を向ければ素知らぬ顔をしたアギアが布団に包まっていたのだ。


「お前は自分のベッドで寝れば良いだろがっ」

「良いではないか。別に減る物では無し」

「確実にベッドの面積が減ってるわ!」


サランは今日の出来事で疲れ果ててしまったのか、すやすやと寝息を立てている。
サランの眠りを覚まさない様に俺達は小声で言い合った。


「我儘を言っていいのは子供だけじゃなかったのかよっ」

「ほれ、子供ではないか」

「屁理屈言うんじゃねぇ!中身は20過ぎの癖して可愛子ぶんなっ」

「余り声を上げるとサランが起きるぞ?」

「手前の所為だ!」


苛々と言い返すが、サランを起こしてしまうのは本意ではない。
仕方なく口を噤むとアギアがくっ付いてきた。


「次は何だよ…!」

「やはり温かい」

「…あ?」


胸の辺りにアギアの頭が来るから、今きっと俺の鼓動はアギアに聞こえているんだろう。


「お前の体温は心地いいな…」

「…」


何かを噛みしめる様に呟くアギアに口籠った。
こいつのこういう所がずるいと思う。

無意識かもしれないが、時折こうやって抱えている物をちらりと見せつける。
それを見せられても、俺がそれを全て分かってやれるはずがない。
だって俺は王としての立場の重さを知らない、そもそもこいつの過去さえ知らない。
俺が知っているのは、こいつが女性との行為に関してどこかずれていて、どこか下品で、サランの前では優しい父親で、国を一番に考えているという事…。
それとあの感謝しろと言わんばかりの笑みと、低く心地の良い声。そして書類に目を通す真面目な表情だ。

それを見て、それを知って、なおさらこいつがこんな表情をすると、その手を振りほどけない。
分かってやれない分、一緒に膝をついてやりたくなる。

それは決して同情ではなく、どちらかというと敬意に等しかった。



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