も、もう勢いだ!と震える手でがっとアギアの頬を挟むと身を屈め、ぐっと目を瞑ると唇を重ねる。
い、1…2…3…4…
5!!と顔を離そうとした瞬間にぐっと後頭部に手を回された。
驚きで目を見開くと薄っすらと開けられた赤紫とかち合う。
それがふっと細められた。
「て、っめ…!…む、ぐ…っ」
怒鳴ろうと口を開いた瞬間にぬるりと咥内に舌が入り込んできた。
とっさに噛んでやろうかと思ったが、あんまり優しく動き回るから身体から力が抜けてしまった。
そっと舌に触れたかと思うと歯列をなぞり、顎裏をねっとり舐めて、さっきの優しさはどうしたのかと思うほど激しく絡められる。
俺は立っていて、アギアは座っているから重心に従って唾液がアギアの咥内に流れ込んでいく。
ごくっとその喉仏が上下した事でその唾液を嚥下した事が分かった。
羞恥でかっと頬が熱くなるが抗う力が出ない。両手は今はアギアの肩で震えながら俺を支えている。
何度も見せつけるかのように上下するその喉に煽られ、がくりと腰が砕けた。
でもその腰さえアギアに支えられ、引き寄せられてキスは尚深い物になった。
「は、ぁ…んっ…む…う」
腰と後頭部に手を添えられてしまっては、ただ眉根に皺を寄せて受け入れるしかない。
――だ、駄目だ…。
ぼおっと頭がしてきた。
――俺…コイツのキスに弱…
認めたくない。認めたくないが………気持ちイイ。
している内に何となく牢獄でされたキスもうっすら思い出して来た。
もっと激しいものだった気がするが、どちらにせよ今の様に心地良かった。
片手で数えられる程しかアギアとキスをしていないが、分かった。このキスは俺にとってヤバい。
キスだけでこんなに蕩けた気分になった事が無い…と言ったら言い過ぎな気もするが本当に気持ちイイ…。
思わず自らせがみそうになっている事に気付いて、渾身の力でアギアの腕を振りほどく。
火事場の馬鹿力だ。…これ以上していたら何か色々と本当にヤバいと警鐘が鳴り響いていた。
「…っは、お、おま…っ」
肩で息をして怒鳴ろうとしたが、何食わぬ顔で唇を舐めるアギアを見てもうどっと疲れた。
「さあ食べるか」
「…もう…何も言わねぇよ」
がっくりと肩を落として俺は呻く。
呻いた俺の背中に何かがぶつかってきたと思ったら、ひしっと抱きしめられた。
振り向くとサランが俺の腰に顔を埋めている。
「サラ…「よく、良く分かりました…っ!」ン?」
がばっと上げた顔は今にも泣き出しそうで、だけどそれを必死に食いしばって耐えている。
「褒美というものは不用心にせがむ物でも与える物でも無いのですね…っ」
身を挺して教えてくださってどうもありがとうございます…っ と泣きそうに、それでいて自暴自棄気味な言い方に俺は学んでくれたという事はこれでいいのか…?と首を捻った。
テーブルにつくと用意してくれた食事に手をつける。
どれも温かいという事は、きっと料理人さん達が温め直してくれたのだと思う。
料理人さん達の心使いには本当に舌を巻く。
どれも美味しいだけで無くて、見た目も良いし、健康の事も考えていて、そして食べる人の事も熟知している。
つい先日は、食べている俺の横に立っていた料理人さんが小さく笑った理由を聞いたら
『今日のメインですけど、サラン様がお嫌いな材料が入っているのですが…どうやらお気づきになられなかったようです』
味に癖があるが、栄養価が高いので食べて頂きたかったから良かった と嬉しそうに言う料理人さんの顔には本当に優しい笑みが浮かんでいた。
他にもサランが来てからお茶菓子の形が可愛らしい物が増えた。
サランが子供という事を考えてだろうが、だからといって大人が楽しめない物だという事では全くない。
美味しい料理を口に入れて咀嚼しながら他にも…と思いを馳せた。
俺が廊下でポツリと呟いた体調不良が使用人さん達の一人の耳に入ったらしく、それが巡り巡って料理人さん達の耳に入ってその日の晩御飯がお腹に良い物ばかりだった事もあった。
…つまりこの城の人は皆優しいんだよなぁ…。
そんな結論が出て俺は一人頷いた。
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