幼さ特有の柔らかい皮膚の感覚を唇で味わうとサランの耳元で「俺から男にしたのは初めてだからな」と言って顔を離したら丸い目とぶつかった。

…なんつー阿保面。


「ぶっ」


思わず吹き出してしまう。


「くくっ…これで良いか?」

「は、はい…」


本当にしてもらえるとは思っていなかったのか頬を赤らめながらおずおずとサランが頷いた。
良かった。涙は止まったみたいだ。

それにしてもサランの【母親】に対する執着のような物は強いな…。
やはりずっと憧れていたものがあったのだろうかと頭を撫でながら思った。


「か、かか様、僕のコト好き…?」

「ああ。好きだぞ」

「本当?僕に黙っていなくならない…?」

「ああ本当。それに、ぜってぇお前に黙ってはいなくならない」

「そっか…ぁ」


泣き終わった真っ赤な目でサランは笑みを浮かべた。その笑顔にほっと胸を撫で下ろすと俺も笑い返す。


「それにしても腹減ったな」


柔らかい髪を撫でてやりながらそう呟く


「だろうな」

「うお!?」


低い声で返事をされて思わず驚いた。窓の外を見ていたからドアの方に誰かいるのに気付かなかった。


「皆夕食を済ませた。もう少し早く起きていたらお前も食べれたのだがな」


薄暗くてはっきりと見えない中、背の高い人物が部屋の中に入って来るとサランと勉強を始めた時に設置してもらった机に何か置く。
その後に手を打ち鳴らすと天井に光が灯った。


「皆はお前を待ちたいと言ったが、俺が待たなくて良いと命じて食べさせた。
その方がお前も気が楽だろうと思ってな。良かったか?」

「ああ…それで良かった。…ありがとうな」


礼を言うとアギアはくっと口の端を上げて笑った。

この城では朝昼晩の飯の時、城にいる人達皆集まって食事にする。
と言っても本当は全員ではなくて料理人さん達だけは俺達に料理を出しているため、後で食べているのだそうだが。
同じ机を囲む訳ではなく、大きな広間で地位の高い者は前、使用人さん達は後ろという感じで…ああ。額に傷を負った少年の魔法学校での生活。あれの映画に出てくる大広間みたいな感じといったらぴったりだ。
先生達が座ってる所にアギアや俺が座ってて、生徒が座ってるとこに使用人さん達な。

あの賑やかで温かい雰囲気の中で取る食事が好きだとアギアに零していた事を覚えていてくれたみたいだ。
確かにあの空間で食べれないのは悲しいが、俺が起きるまで待っててもらったら気を使ってしまう。


「それ俺の分…にしては多くないか?」


机の上に置かれた料理の量は明らかに一人分では無い。
こっちで主食と言われているパンに似たシエシュという食べ物も籠に盛られている量が多い。


「ああ。サランが食べてないからな」


目をサランに向けると恥ずかしそうに俯いている。


「食べろと言ったのだがお前の側を離れたがらなかった故」

「だって…お腹空かなかったから…その…」


なんやかんや言っているが詰まる所、俺を待っていてくれたと言う事なのだろう。
白い髪から出ている赤い耳が愛おしい。


「サラン」


零れる笑みをそのままにサランを抱きよせると髪に唇を落した。


「ありがとうな。おかげで寂しくない」

「…っ!はい!」


頬を紅潮させたままサランが嬉しそうに笑う。

…あーあっちに戻る時サラン持って帰りてぇな…。…駄目だろな。



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