「…でも…」


泣きやみはしたが、サランが納得いかない顔をして俯いた。


「僕だって…」

「ん?」


ぎゅっとシーツを握るサラン。


「かか様と…キ、ス…したい、のに…」

「………は?」


思わず阿保みたいな声を出してしまった俺にサランは力いっぱい


「僕だって、かか様とキスしたい…っ!」


と言った。

頭の中が一瞬止まる。
キス?キスってアレだよな。ちゅーだよな。
何故急に強い人からキスの話しになるのだろうか。


「さ、サラン。何でキスなんだ?」

「…父様だけずるい…」


え?アギア?


「も、もしかして、俺達を助けたのってアギアか?」

「そう。かか様、父様にしがみ付いて泣いて、おまけにふらふらで、それ見て父様がキスして、かか様を抱き上げて運んで…っ」


ぶつ切れで言葉としては成り立っていないが、なんとなく話は掴めた。


「お、俺そんな事して、されたのかよ…」


呆然と呟くが、サランには聞こえて無いみたいだ。涙目で俺を睨んでいる。


「ずるい…」


俺の上に跨ってサランはくしゃりと顔を歪めた。


「ま、待て待て、な?アギアが俺にキスしたのは…あー…アレだ。仮にも旦那であってだな…」


うわっ、『旦那』って!
言い聞かせる為だけだと思ってもぞわわっと背筋が泡立った。

一生口にしない筈だった単語だ。だって俺が貰うのは『女房』であって、『旦那』じゃない。


「じゃあ僕、かか様と結婚する!」

「は?」

「そうしたらキスしてもいいでしょ?」

「やや、待てよ。俺とお前は親子で…」

「血は繋がって無いからいいでしょっ?」

「や、そういうのじゃなくて…」


俺は男で、1年しかここにいないからお前の嫁はもちろん、婿にも…それに歳差が…と真面目な返答がぐるぐると回る。
それよりも何故そんなにキスに固執するのだろうか。
キス=強い人と認められたという式がサランの中で成り立っているのか?
もう頭がこんがらがって意味がわからない。

ふと目を上げるとべそべそとサランが泣いていた。


「あー…」


さっきみたいな思いを抱えて泣いている泣き方ではなくて、悲しくて泣いている泣き方だから胸が痛む。
サラン自身何を言っているのか分からないとこがあるみたいだ。今日の疲れから来ている節もあるかもしれない。

男泣きは大丈夫なのに、こういう泣き方は本当に駄目だ。

だから俺は思わずサランを引き寄せてキスをした。
これで泣きやんでくれるなら俺の唇の一つや二つやるよ、もう。

…といっても、唇の際ぎりぎりだ。


だってファーストが俺って可哀そうすぎるだろうが。



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