「かか様、きっともうすぐ人が来るよ…大丈夫だからね」


そっと声を掛けながら背中を撫でる。
少し冷える牢獄の中、僕はかか様を抱きしめながら…といっても、僕が包み込まれる形になっているのだけれど…鼻先をかか様の髪に埋めた。

良い匂いがする。

目を細めてその匂いを胸一杯に吸い込こむ。
震えは治まったけどまだ目は閉じているかか様の表情をちらりと窺って、かか様には申し訳ないけどもう少しこうしていたいと思った。


「なんだ、こんなとこにいたのか」


急に聞こえた声に驚いて見上げると


「父様!!」

「皆が探していたぞ?遊んでいたのか?」


不思議そうに首を傾げて鍵の上に手を翳す父様。
そうするとそこが淡く発光してカチャリと鍵が外れる音がした。

――そうか、父様は国王だから城の何処にでも行けるんだ。

未だ王位を継承していない自分には無い力だ。


「お前はここにも来ていたなと思って来てみれば…ん?」


ようやく父様はかか様の様子に気付いたのかしゃがんでかか様を覗きこむ。


「どうした、ナオ」

「かか様、こういう所が怖いって…」

「怖い?」


頷くと父様は僕にかか様から離れるように言った。
名残惜しく思いながらかか様から腕を離すとずるりとかか様の腕が落ちる。


「ナオ、大丈夫か」


父様が俯くかか様の額に手を当てて上を向かせた瞬間、がばりとかか様は父様の首に腕を絡めて抱きついた。


「!」


目を丸くする父様。かか様の顔は見えない。


「……っ、…」


小さくかか様が何か言った様な気がしたけど、僕の耳には聞こえなかった。
でも父様には聞こえたみたいで、大きな手の平でかか様の背中と頭を撫でる。


「大丈夫だ……寒かったな」


父様がそう言うとかか様の身体が大きく震えてぎゅうぅっと腕の力が強まったように見えた。
ゆっくり父様がかか様の身体を離してようやくかか様の顔が見える。


「!!」


父様は分かってたのか驚かなかったけど、僕は今日一番吃驚した。
かか様の目元がぐっしょりと濡れていたから。
小さく息をしているかか様の背を撫で続けながら父様が静かに言葉を続ける。


「立てるか?」


それに頷くとかか様はふらりと立ち上がった。


「歩けるか」

「ああ…」


でもその足はふらふらで父様に支えてもらってようやく立っている。


「抱きかかえようか」

「いや…」


表情を変えず応えたかか様を父様はみると、壁に押し付けて…キスをした。
かか様の手がびくりと動いたけど、動いただけで父様を押しのけようとしたりはしない。


「ん…む…」


父様の方が背が高いからかか様が見上げる形になっている。
父様とかか様は夫婦なのだからそういう事をしても当たり前なのだということは分かっているのだけど…それを見ながら何故か僕は胸がむかむかした。
変に濡れた音がする。

父様の手がかか様の後頭部に回って強く押し付けた。
かか様の手がまたびくりと震えて、父様の服のすそを小さく掴む。


「…っ、父様!」

「ん?」


父様が僕の声に振り向いた。
唇が離れたから、くたりとかか様が父様の肩に頭を預ける。

ああ 何だか見たくない。


「……かか様が苦しそうです…」

「ん?そうか」


父様は肩にあるかか様の頭をぽんぽんと撫でた後、ひょいっと抱き上げて檻の中から頭を下げて出た。


「サラン、行くぞ」

「…はい」


かか様は眠ってしまったようで身体を全て父様に預けきっていた。


…何故僕は小さいのだろう。
かか様を支える父様の大きな手の平と逞しい腕を見つめる。
僕が持っているのは小さな手の平と細い腕だ。

…悔しい。

僕が大きければ。強ければ、ああやってかか様に頼ってもらえるのに。
いや、一緒に閉じ込められてかか様を苦しめる事がまず無かったのに。

…悔しい。

僕は唇を噛み締めながら父様の後ろをついて行った。



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