「やっぱり駄目か」
格子を蹴りつけていた足を下ろして俺は溜息をついた。
どうやら開いていた扉が閉まった拍子で鍵が掛ってしまったようだ。
それもどういう仕組みになってるのか分からないが鍵穴が無い。
あったらピッキングが出来るとかではないが、何か特殊な鍵なのかもしれないという事が想定出来た。
「かか様、ごめんなさい…僕が入ったから」
「ンな事言うな。サランの所為じゃねぇから」
サランは申し訳なさで眉をハの字にして謝る。それに俺は笑って見せた。
「大丈夫だ。そろそろお茶の時間だし、それに俺達が来ないってなったら皆探してくれるだろうさ」
「うん…」
「それよか怖くないか?」
「それは大丈夫!」
しっかりと俺を見上げるサランの表情に申し訳ないという気持ちはあっても、そこに恐怖や無理をしている匂いはなかった。
それに少し安堵をおぼえる。
実を言うと…俺がぎりぎりだ。
自分の事で手一杯だから相手の事を考えずに済むのはありがたかった。
――…早くここから出たい。
額にじっとりと汗を浮かべてそう思った時、ふっと明りが小さくなった。
「!?」
「あ…」
思わず肩を揺らして驚く。
もう光源はこの檻の中にある手の平大のオレンジの明りしかない。
…そうか、人に反応する明りだったから人がいなくなったと判断されて消えたのか。
「…大丈夫か?」
「うん」
サランに聞いて、俺は檻に軽く凭れながら大きく深呼吸をした。
――…やばい…。
じっとりと汗の滲みでて来た手の平を握りしめて俺は奥歯を噛み締める。
こんな風に狭くて、暗くて、埃っぽい所は苦手だ。
中学生時代のトラウマが思い出されて腰の傷が疼く。
けれどそれをサランに気取られる訳にはいかない。
ただでさえこんな不安な状況なのだ。
これ以上幼いこの子の不安を煽ってはいけない。
そう思うのに身体が震え、汗が噴き出てくる。呼気も浅くなりつつある。
呼吸の数を数えてしまう。
瞬きの仕方を考えてしまう。
どんどん不安が煽られ、呼吸の仕方が分からなくなって、瞬き一つに違和感を感じる。
頼む、気づいてくれるな…気づくな…。
「…かか様?」
そんな願いも虚しく、サランが訝しげな顔で俺を見上げた。
暗いのに相当酷い顔色だったのか、サランの目が見開かれる。
「か、かか様!?どうしたの!?」
「あ…んでもねぇよ…大丈夫…」
「嘘!酷い顔色…っ」
サランに促されるまま、その場でべしゃりと尻をつけて壁に頭を凭れさせた。
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