「じゃあこの単語は?」
「…えっと…【美しい】?」
「じゃあこっち」
「…【誉め讃える】?」
「凄い凄い!かか様早いですね!」
サランが無邪気に手を打って笑顔で俺を見上げる。
俺は今、サランに教育を受けている。
いや、サランを教育してんじゃないんだ。教育されてます、だ。
…今情けないって言った奴出て来い。
一番恥ずかしい思いをしてんのは俺だ!!!
母親になっても良いか?と言った時のサランの喜びようと言ったらもう凄かった。
散歩だぞーと言った犬のはしゃぎようとそっくりだった。
『なら、かか様!僕に勉強を教えてください!』
『ああ、いいぞ』
そう言った次の日にサランは勉強道具を持って来て、その教材を開いて俺は頭を抱える羽目になった。
…そ、そうだった。俺、文字読めねぇんだった…!!!
もうやばい。さっぱりわからん。
心の底から申し訳ないと思いながらサランにそう伝えると、暫く考えた後にサランはこんな提案を出した。
それではもし良かったら、僕がお教えできませんか?と。
『勉強の方は今までの様に家庭教師に教えてもらいます。
それが終わったら僕がかか様に文字をお教えいたします。
その後、僕が家庭教師から習った事を口頭で復習しますから、それを聞いてもらっても良いですか?』
それを聞いた時の驚きは言葉に出来ない。本当に目の前の子どもが6歳なのか疑った程だ。
そんなこんなで俺はサランから文字を教えてもらっている。
いやもう、教師の俺もびっくりの教え方だよ。
帰ったら俺もこんな風に教えよう、と心に決めた。
もちろんサランとの勉強が終わったら必死で復習している。
20過ぎての頭に違う言語を叩きこむなんて涙目になるくらい辛いが、子供の手前恥はかけない。
…子供に文字が読めないと言った時点で末代までの恥をかいた気分だが。
「じゃあ今日はここまでにしましょう、かか様!」
「ん」
俺は新たに習った文法と単語と睨めっこしながら頷いた。
ちくしょう…なんであれとこれ似てんだよ…。
今夜も夜遅くまで復習だなと目の間を揉むと、サランが俺の手をとって微笑んだ。
「かか様、他に知りたい事は?僕が知ってる事なら何でもお教えします!」
「ん?んーそうだな…」
知りたい事なら沢山ある。
サランがいくら頭が良いといってもその中のいくつを知っているだろうか。
それにサランの復習も手伝ってやりたい。
「…あ、そうだ。サラン、お前この城の何処が何の部屋か分かってるか?」
「ほとんどは…」
「俺全然分からんのだわ。教えてくれないか?
その歩いてる途中でサランが今日教えてもらった事を話して欲しい」
「はい!」
じゃあ周りながらお話しを!と無邪気な笑顔でサランは俺を見つめた。
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