痛そうな表情をしているが、動揺も何も伝わって来ない。
「本当の事だ。言っただろうが、豊穣の気を多く纏っている者を王が抱けば国は豊かになると。
この国の人間は皆それが少ないのだ。多いの一人で出来ないならば少ないのを大人数…となるだろう?」
「そ、れは…」
確かに筋が通っているように見えて、それは余りに情がない。
いや、情が無いのは当たり前か。愛を育む行為ではなく、国を潤す行為なのだから。
でも、お前は良くても抱かれた相手はどうなる?
「相手には了承をとって抱く。それに俺は同じ相手を2度抱かん。そこに情が生まれてはいけないからな」
考えが顔に現れていたのかアギアが先回りして答えを言った。
「この呪いを掛けられた相手の時は不甲斐ない話だが酔っていた。相手にその話をせずにどうやら俺は抱いたらしい」
だからこの呪いは甘んじて受け入れた とアギアは俺を見る。
その瞳には全く悪気がある色は浮かんでいなかった。
「…で、も…」
俺はあんな幼い子供にそんな悲しい事を教えるのはやっぱり許せねぇよ…。
「アギア様の仰るのは確かですが、それを盾にご自分の良いように情事に励んでいらっしゃるのも本当です」
足音と共にリュスが入って来て、溜息混じりにそう言った。
「もう…急にお部屋からいなくなるのは止めてくださいといっているのに…。
誤解をしないでくださいね、シオイ様。
このように女性関係が乱れているのは歴代の王の中でも珍しいのです。
本当でしたら一人だけなのですが…普通ならそれなりの気を纏っている筈なのに…言い方は悪いのですが、アギア様の代だけおかしい程に皆、気が貧しいのです…。
気は使うと減ります。もちろんその事で身体に異常はありませんし、日がたてば満ちてくるのですけれど…。
皆、気は少ないのに、満ちるのが遅い…最悪のパターンなのです」
だから抱いては変え…というのが良いとは申しませんが…。
サラン様が王の座に就く頃には良い方が出てくると良いですね…とリュスは微笑んだ。
「ただいま戻りました、父上、かか様…あ!リュスだ!!」
お茶を持ったサランが扉を開けてパタパタとリュスに駆けよる。
「ああ、サラン様お久しゅうございます」
「そうだね…って、父上!?その頬はどうしたの!?」
「ん?ああ、ナオに殴られた」
「かか様が!?」
ぎょっと茶色の目が開かれて俺を見つめる。
な、何だか気まずい…。
「良い。まあ俺に非が無かったとは言い難いからな」
ひらひらとアギアは手を振ってサランに目を細めて見せた。
「…アギア」
「なんだ?」
「お前の仕方も、考えも間違っては無いと思う」
「ふむ」
「だけど…」
そこに情はない。
王という立場に情はいらないのかもしれない。
むしろ足枷になりかねないかもしれない。
それでも俺は目の前のこの子にそれを忘れて欲しく無かった。
「…サラン」
「はい、かか様!」
「…俺、ここにいる間だけで良ければお前の母親になるけど、お前はどう?」
此処にいる間だけで良い。
それを伝えれたらと思う。
それには母親という立場が身近で一番良いのかもしれない。
ならば、俺はお前の母親になろうと思う。
いいか?
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