かか様の顔を窺ったら、手の平で口を覆って震えていた。
「うっそ、いや、アイツの純粋な所を結集させたらこんな風になるか…?
いや、どうでもいいや。お前本当に可愛いなぁ」
滲むようにかか様の柔らかい笑顔が僕に注がれる。
――ああ、これが求めていた『母親』。
「かか様…っ」
僕を捨てたかか様、僕をキライなかか様、皆みんなウソのかか様だ。
この人が本当のかか様だ。
かか様の白い首に腕を回して抱きつく。
「…ん、そういや何で俺が『かか様』?」
「だって、父様のお妃サマなんでしょ?なら僕の『かか様』だもの」
「あ、かか様って『母様』か…って待てコラ」
ちょっと引き攣った顔でかか様が僕を引き剥がした。
「俺は男だぞ?」
「うん」
「だから母親にはなれねぇよ」
「え。かか様になってくれないの…?」
だって、父様の隣に立つヒトなんだよね?
だったら僕のかか様じゃないか。
それとも…。
「僕のかか様にはなりたくない…?」
じわりと涙が滲む。
こんなにかか様になって欲しいと思った事は無いのに。
「な、泣くな泣くな」
慌ててかか様が僕の背中を擦る。
ほら、優しい。
だから僕のかか様になってよ。
「お前にはお前の母さんがいるだろ?」
「…いないもん、僕を捨てたんだから」
そう言うとかか様は小さく息を呑んで「そうか…」と僕の頭を撫でた。
「でもンな事言ったって、母親ってのは字の通り女の人がなるモンだし、女の人の方が母性やら包容力やらあって向いてるだろ。
なにもこんな男で目つきの悪い俺がならなくても…」
「僕はあなたが良いの。ねぇ、かか様になってよ…」
また涙の滲む目で見上げると、かか様はたじたじとしていた。
かか様は僕に泣かれるのがダメみたいだ。
…よし、じゃあ泣こう。
かか様には悪いけど、嘘泣きは得意だ。
イヤなオンナノヒトに接している内に身に付けた技。
ポロっと泣けば流石に少しはたじろぐし、泣かしたといって周りの人から責められるし。
よし…。
目に少し力を入れて泣こうとした時、聴きなれた声がした。
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