『ああ、貴方が…』
そう言って微笑みかけるオンナノヒト。
ウソの笑顔。
気持ち悪い。キモチワルイ。
本当はキライなくせに。
居なくなっちゃえばイイって思ってるくせに――――
父様がクニのために新しいかか様を探しているのは知っていた。
でもそのためにお城に来るオンナノヒトが僕は嫌いだった。
父様の傍に、お妃になりたいという願いにかがやいている顔。
ウソの優しさ、ウソの笑顔。
言うとおりにしないと、すぐに歪むその顔。
どうせあなたも僕がいらないんだ。
――ねえ、婆や。今度のかか様はまたイヤなヒトかなぁ。
『どうでしょうか…でも、アギア様が正妃に認めた方ですから、今までの候補の方とは違うと思いますよ?』
――そうかなぁ。キモチワルイ顔で笑わないかなぁ。
『さぁ…でも男性の方ですから、きっと何かは違うと思いますよ』
――え、オトコノヒトなんだ。
『はい。そうですよ、それも「向こう側」の世界からいらっしゃったとか』
――ふうん、そうなんだ…。
――りょーりちょー
『おや、何時こちらにいらっしゃったのですか!お久しぶりでございます』
――ねぇ、新しいかか様、どんな人?イヤなヒト?
『ナオ様ですか…』
りょーりちょーが膝をついて目線を同じにして微笑んだ。
『良い方です。とてもお優しいですが…』
――が?
りょーりちょーの眉毛がハの字になった。
ああ、やっぱりダメなんだろうか。今回も…。
『あの方は1年だけですから…』
――1年だけ?なんで?
『ナオ様は「向こうの世界」からリュス様が連れて来た方。「向こうの世界」にナオ様の住むべき場所があるのですよ』
――ふうん。
りょーりちょーの言ってる事は良く分からない。
でも、皆の反応から新しいかか様はイイヒトなんだろうなと思った。
久しぶりにドキドキする。
新しいかか様。
貴方は僕にキモチワルイ笑顔を向けないかな?
僕をキライって言わないかな?
抱きしめて、笑って、隣で寝てくれるかな?
スキって言ってくれるかな…?
僕を必要としてくれるかな…?
そんなドキドキを抱えて、かか様の部屋をこっそり覗いた。
そこには確かにオトコノヒトが座っていた。
綺麗な茶色の髪、鋭い目……もしかしたら怖いヒト?
ううん。見た目だけで判断しちゃいけないよね。
りょーりちょーとか、婆やとか、悪い事言ってなかったし…。
それによく見たら格好良いオトコノヒトだと思った。
すっと通った鼻筋とか、綺麗な唇とか…。
その人は何か呟いて小さく笑った。
そのどこか傷ついたような笑い方に胸が跳ねる。
わたわたとドアの隙間からもう一度覗くと、オトコノヒトにしては長い睫毛が震えて濡れているみたいに見えた。
え、え、もしかして泣いてるの?
ど、どうしよう、どうしよう。
胸が五月蠅い。
その人が大きな音を立ててお茶を啜った瞬間何だか耐えれなくなって、僕はその人に飛びついた。
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