「頼む!長年の俺の夢を叶えてくれ!!
俺は襲いたいんじゃない!襲われたい…というか酷い目に会いたい!!
だっておかしいと思わへん?!なんで吸血側だからってSやとアカンの!?
Mがおったってええやんか!
メーアに言い伝えられとる話では、この世で味わった事のあらへん感覚がするって聞いたのに…っ!
仲間内の血ぃは不味うて飲めへんからってだぁれも飲んでくれへんし、襲ってくれへん!
おまけにようやくこの欲求に気ぃついたら、既に一族ン中でいっちゃん強ぉなってしもてて、殴る蹴るの暴力を受けられへんし!」


お…おおおおい!!
凄いカミングアウトを受けてるよ、俺!
ってか後半!関西弁!!


「おまけに見た目こんなんやから、やれ『非道』だの『冷酷』だの!!」


両手で顔を覆ってさめざめと泣くオレウリオスがなんだか可哀そうになってきた。
見た目で判断される辛さは俺も嫌と言うほど知っている。


「あんた血を飲む事は嫌いなのか?」

「ぐすっ…大好きや…」

「……へ?」

「だってアレやってる時、イきそうなくらい気持ちええんやもん!!でもそれじゃ満足できへんの!!」


わかる!?

…わかりません……というかわかりたくありません。

縋りつくような目で見られるとどうしようもない。
さっきまでの冷たい表情はどこにいったんだよ…。
俺は小さく溜息をつくと、わかったわかったと両手をあげた。


「俺は血を飲めない。けど見た目で判断される辛さは知ってるから…俺に出来る事ならしてやるよ」

「ホンマ!?」

「とりあえず何をしてもらえたら満足すんだ?」

「普通に暴力振るってくれればええよ!あ、詰るってのもええなぁ…」


ごめん。普通に暴力って、どうやったら『普通』に暴力振るえるかわかんねぇよ…。


「俺は暴力反対な人間だし、詰ろうにもあんたの悪いところがわかんない」

「えー、『この変態!』みたく言うてくれればええのに…」


それ自分で言っちゃうか?
それと限りなくきらきらした目でこっちを見るのは止めてくれ。


「…他には?」

「せやなぁ。酷い命令してもろて、それに全部従ったらご褒美に血ぃ吸わせてくれるとか!」

「酷い命令ってのは例えばどんな?」

「目の前で自淫させて、イク直前に寸止めとか――――」

「はいスト――――――ップ!!!!」


想像以上にディープだった!覚悟が足りなさすぎたわ!
俺はあんたの要望に応えられるスキルを身につけてねぇよ!!


「そんなに襲われたいなら夜に路地裏でもうろついて来いよ…」

「アホか!強くなりすぎた言うとるやろ!?背後から襲われてみ?反射で返り討ちにしてまうわ!!」

「じゃあ俺が襲ったって無理じゃねーかぁ!!」


まだ組み敷かれたまま俺は身体を戦慄かせて叫んだ。


「あんたなら大丈夫や」

「何を根拠におっしゃっるか!」

「一目見た瞬間にわかったんや あんたは俺よりも強い…あんたのこの目、捕食者の目ぇや…最っ高…」


うっとりとした表情を浮かべて俺の目元を長い指がなぞる。


「こんな目ぇに見られたら抗う気も起きひん。
それになんやの、あの笑い方っ!初めて合うた時、指舐めながら笑ったやろ!?
何やのあれ!『お前の事食ってやるよ』って言いたかったんか?!」


言わねぇよ!アレは指についた油舐めただけだって!
それに『捕食者』って何!
あきらかお前が捕食者側だよ!!


「…というか、お前も見た目で人を判断してんじゃねぇか…」

「見た目やない。勘や!本能やっ!!」

「俺の事あんな恐い目で睨んだくせに…」

「自分の中の衝動を堪えてたんやないの!それを無駄にしたのはあんたやんかぁ!!」


俺は俺の血を吸わないかって言ったつもりなんだが、そういう風にとられたとは…。
俺に非があるのなら仕方ないと眉間を指で揉む。
これを教訓にして軽い気持ちで滅多な事は口にするもんじゃないという事を身に刻もう。

俺は上半身を起こすと、肌蹴られた襟から覗くオレウリオスの首筋に歯を立てた。

…つまり二番目の提案『飲まないなら齧り付け』を実行した。
…だってこれしか俺には出来ないじゃねえか。
歯が触れた瞬間、オレウリオスが小さく身震いした事は見てなかった事にしよう…。

加減が良く分からないが、痛い方がいいのか?と歯に力を込めようとした、その時。


「シオイ様、お待たせしまし…ぇええええぇえええええええええ!?」


ドアの開く音、リュスの絶叫、何か食器の落ちる音、割れる音が響いた。

…どうすんだこの惨状ぉおっ!!!!



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