blood sucker ‐吸血者‐ 

一室にいるのは俺とオレウリオスだけ。
リュスはお茶を淹れてくると言って席を外している。

――あの野郎…逃げたな…。

リュスが黒の翼を恐れているのは一目瞭然だ。
その恐れを拭うためにも良い機会かな…と思っていたんだけどなぁ…。


「…えっとだな、知ってると思うが俺はこの世界に来たのはつい最近だから何も知らない。
あんたの知ってる事を全部教えてくれなんて無茶は言わない。ただ、あんたの種族の特徴とか文化とか…そういう事を少し教えてくれないか?」

「…」


オレウリオスは頷いたが、その後口を開く気配はない。
眉間に皺を寄せてまた人一人殺せそうな鋭い目で宙を睨んでいる。
その無言が気まずくて、気になっていた事を口にする。


「あ…のさ、もしかしてアンタ、俺の事嫌いなのか?1年しかいないのに図々しいとか思ってたり…?」


俺もそこは少し負い目を感じているのだが。


「いえ…そんなことは。王がそうおっしゃるのなら我ら長は従うまで。
王は何の考え無く行動するような方で無い事は重々承知しておりますから」

「あ、そうデスカ」


また沈黙。


「じ、じゃあさ、アンタは血を飲みたいとか思うのか?」


こういう事は直球で聞いた方が早いと思ってずばっと聞いてみた。


「血…」

「おう。な、なんだったら友好の証に一口いっとくか?」


はは、なーんつって。
と言うよりも先に俺は床に押し付けられていた。

目を閉じて、開けたら座っていなくて、鼻と鼻が触れ合いそうな距離にオレウリオスの顔があるという状態。
全く頭がついていかない。
痛みも何もなく俺は押し倒されているのだから。


「……………え?……あ…、や、すまない…これはそっちのタブーだったか…?」


ようやく振り絞った声でとにかく謝罪の言葉を口にした。

軽率な事をしたと悔やむ。
どうにかしてこの空気を打開しようとして空回りも良い所だ。
苦渋の表情をしているのが自分でも分かる。
その俺の顔を見てオレウリオスの表情がなおも険しい物になった。


「…頼む…血を…」


…え、冗談のつもりだったんだが 本当に飲みたいのか!?

思い切り驚いたが軽率な事を言ったのは俺の方だ。ここは謝罪の気持ちも込めて腹を括ろう。
せめて痛くしないで欲しい旨を伝えるために口を開いた。


「い、痛くしな「吸ってくれ!!!!!」


………はい?


「…吸う?」

「ああ!」

「誰が」

「あんたが」

「誰の」

「俺の」

「何を」

「血を!」

「………『お前』が『俺』の血を飲む?」

「『あんた』が『俺』の血を飲む!」


い………いやいやいや!違う違う!大きく違う!


「待ってくれ、俺は血を飲む食生活も文化も有してないんだが…?」

「じゃあ飲まなくて良い、ここに齧り付け!」


そう言って襟を肌蹴、首筋を俺に晒す吸血さん。

ど、どうすりゃいいんだ。
俺を喰えとライオンに言われたシマウマの気分だ。

微動だにしない俺の前でオレウリオスは頭を掻き毟った。



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