…これはモテるだろうな…。

最初の印象はそれ。
ミオルさんもまた魅力的な女性だがこの子は違うタイプで、はっきりいって俺達男はこういう顔の異性に弱い。
可憐という言葉がぴったりの深緑の髪のその子は何故かヘッドフォンを耳に掛けていた。

まあ明らか年下だから俺は恋愛対象じゃないけどな。
そう思っていた俺にちらりと萌黄色の瞳を向けてその子は眉を顰めた。

…ん? なんだ今の。
一瞬すごく嫌そうなってか、お前嫌いオーラがびしびし伝わって来たんだが…?

少し傷ついてる俺に気付く訳もなくリュスはその子の説明をし出した。


「彼が青の風【シャンテ】の長、ヴィアトル=セレイネ。16という若さではありますが皆彼に一目おいております。
青の風は、風を読み自然の動きを把握する事と唄に長けていますのと、一風変わった子孫の残し方をしますので他と比べると純血が多い一族でもあります」

「へえ…ん?…『彼』?」

「はい」

「…え、男?!」

「あ、セレイネ殿の前で『女顔』と言ってはいけませんからね!」

「え、あ、ええ!?」


じゃあやばいんじゃないかと慌てて彼の顔を見るがどうやらこの距離では聞こえなかったようだ。
ヘッドフォンのおかげかもしれない…。


「ヴィア、挨拶」


ミオルさんが肘でつつくと嫌そうな顔をしてヘッドホンをちょっと手で持ち上げ


「…ども」


と耳に心地よいアルトの声で一言呟くと、元に戻した。

…ええ!?それだけ?!


「…いつもあんな感じなのか?」

「ええ、ミオル殿以外とは中々…」


苦笑をしながらリュスが頷いた。
良かった…俺だけだったらかなり凹んでたわ。

靴の高い音を響かせて最後の長が現れる。
その人物を見た途端、リュスの表情が少し強張った。

頭だけで礼をしてそいつは鋭い銀の目で睨んできた。
あ。アイツは、さっき厨房の廊下で会った…。


「…彼は黒の翼【スィエロ】の長のフシェッフシフィアト=オレウリオスです」

「ぱーどん?」


なんつった?ふしゃっふ?


「フシェッフシフィアト=オレウリオス…お気をつけください」


ぐっとリュスの声が低くなった。


「黒の翼は赤の指と長年の確執がございます。
ミオル殿はそのような物に囚われない方なので長同士の揉め事は起こりませんが…」

「確執?何が原因で?」

「…実は…黒の翼は赤の指の血液を最大の美食としているのです」


えーっと…つまり吸血さんってことか?


「純血がいた3代目までの時期は通り魔並みに色々な所でメーアがスィエロに襲われ、血を吸われ殺されたと聞いています。
今では純血が完全にいなくなったため、血を好む者は少なく、食しても死ぬ程の量はとらないと聞きますが長年の恐れや怒りというのは中々消えず今も小さないざこざが続いております」


溜息をつきながらリュスは話す。


「そりゃ大変だな」

「そして血液を摂取する喜びは力が大きい者程大きいと聞きます」

「…」


…なんか話が見えて来たぞ。


「つまり、力の強い者がなる長であるあいつは吸血を好んでる可能性が高いってことか?」

「…はい。その場合、もちろんシオイ様も対象になりますのでお気を付けください…ということです」

「はっはそりゃないだろー。俺よりも他に上手そうな奴はごまんといそうだし?」

「しかし、彼らが何を基準に美味い・美味くないを見極めているのかは存じませんので…」

「…なるほど」


それなら俺でも良いという可能性があるのか。


「彼は有能ですが何を考えているのか私にも分からない事が多いものですから…」

「ふーん…わかった…じゃあさ」


オレウリオスだっけ?


「あんた、俺と話してみない?」

「ええ!?」


リュスが素っ頓狂な声を上げた。


「今の会話の中にそんな方向に進む要素がありました!?」

「リュス、あんたも同席すれば良いじゃねぇか。
この国の宰相が長の事が分からないってのはある意味問題じゃねぇか?」

「そ、そうですが…」


アギアが隣でにやにやと笑ってこっちを見ているのが分かる。
『お前は1年だけこの国の王の隣に座る。それをどのようにとるかはお前次第だ』と言って挑発的な笑みを浮かべたアギアの表情を思い出させる。

いいじゃねぇか 受けて立ってやろう。

あの多くの人をあの高さから見下ろした時の興奮が背筋を再度震わす。

俺だって男だ。国を己の力で豊かにしてみたいと思うのは日本男子に備わる本能みたいなもんだろう?
なにせ『一国一城』って言葉があるのだから。

自然に口角が上がってくる。その俺の笑みを見てオレウリオスが少し息を呑んだ。


「――構いません。私に拒否権はありません。お話をいたしましょう…王妃」

「王妃じゃねぇよ…俺の名前は塩井 直之だ」


ここにいる奴ら全員に宣言するように大きな声で俺は名乗った。



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