「コレ何、美味そう…」


俺はしげしげと皿に盛られた揚げ物を見つめ、一つとって頬張った。


「あ、ナオ様!」

「あっふ、あふ、あふいへふぉおいひい」


噛むと中から甘い汁が出てきて、はふはふ言いながら食べる。
そんな俺を口では叱りながら暖かい目で見て来てくれる皆が俺は好きだよ。うん。


「もうすぐお昼ですのに…」

「大丈夫。こんぐらい腹に入れても此処の料理は美味しいから完食出来る」


びしっと親指を立てると俺はにやりと笑ってもう一つ引っ掴んで、叱る声を背中に厨房を出た。




「なんかばあちゃんと話してるみたいだなぁ…」


もう亡き祖母は優しい人で料理も上手かった。
幼い頃から既に目つきが悪かった俺を可愛がってくれた人だ。


『ばあちゃん腹減ったー』

『もう少しだからお待ちな』

『ひっとつもーらい!』

『あ、これ直之!!』


…ってまったく同じじゃねぇか。

自分の成長の無さに半ば呆れながらもそもそと揚げ物を咀嚼する。

食べながらひっろい廊下をぶらぶらと歩いていると向こうから誰かがこっちに来るのが見えた。
広すぎるこの城の人間を皆知ってる訳ではないけれど、使用人の人達の服は統一されているから分かる。
だからこっちに向かってくる人物が使用人ではないことは一目瞭然だった。

黒に近い灰色というだけでも分かるが、服の形が違う。
何と言えばいいかな …ああチャイナ服!

と言っても襟の所とか、裾の長さとか、横のスリット感が…というだけなのだが。
そしてそれの下に同色のズボンを履いている。
いや履いてなかったら俺こんな悠長に見てないで踵を返して脱兎のごとく逃げるよ?だってこっちに近づいてくる奴…男だし。

久しぶり…というか初めて城の中で使用人以外の人間を見た俺はしげしげとその男を観察した。

これまた服と同色の髪と銀の目を持つ男は目つきが悪いという訳ではないが、きついと思う。
もしかしたら銀という冷たい色の所為もあるかもしれない。
けれど左目端にホクロがあってそれがきつさを緩和していた。

素直にいいなと思う。俺も顔のどっかにホクロがあったら、ちっとは印象が良くなったかもしれない。
でも悲しい事に俺の顔にはホクロの「ほ」の字もない。

俺は揚げ物を指で口に押し込んで、ついた油を舐めとりながら挨拶の気持ちを込めて笑った。

相手の顔が分かるくらいまで近づいていた男はその途端驚愕の色を浮かべた。
いやホントそれを見てこっちが驚きそうなくらいの表情。

そんな顔をした後、人を殺せるんじゃないかと思う睨みを俺に向けて去っていった。


えっと…とりあえず俺泣いて良い?

いやいやいや誰だって泣くってあれは!
なんで俺そんな目で見られなきゃいけねぇの?!
俺、見ためアレだけど中身普通だかんな!?

しばしの間呆然としていた俺は自分の名前を呼ぶ声ではっと我に返った。


「シーオーイーさーまぁあああああ!!!!!」

「おお、リュス」

「どこにいらしてたんですかっ!お急ぎください!」

「どこに?」

「今から、我が国の長に会ってもらいます!」

「は?」


ほらほら!と手を引かれながら俺は、暇な方が良かったかもしれないと少し思った。


「んな事急に言われても…俺こんなカッコだぜ?」

「急ではございません!5日前に、寝起きのシオイ様にご報告いたしました!」

「それ完全に俺聞こえてねぇよ…」


リュスが紫の髪を靡かせて歩く。俺もその速度に懸命についていく。
脚が短いんじゃねぇよ? いや短いかもしんないけどさ。
リュスがでかいから大股で歩かれるとコンパスの差で必然的に俺の方が歩数が多くなるわけで…。

言っとくけど俺は小さくないからな。
日本人男性の平均身長が確か171くらい…俺は175、な?小さくはないだろ?って今はそんな事どうでも良いか。


「今から行く部屋で我が国の四方を治める長達に会ってもらいます、格好は別にそのままでよろしいでしょう」


テキパキとリュスが話す。


「長達は友好とは限りません、皆とは申しませんが癖のある者が長になる事が多いので」

「…おう」


いったいどんな奴なんだと思いながら俺は頷いた。
とりあえず、変な事を口走らないようにしておこう…。



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