「……やっぱ無理、無理、無理だって…」


俺はとりあえず着てみたものの顔を覆って呻く。

もう1回着てるといえど、これは無理だ。肩が露出しすぎだ。がっぱりじゃねぇか。
前のドレスは首まで襟があったし、長袖みたいな感じだったから大丈夫だったが…。
こんなの見たら国民の皆さん吐いちゃうんじゃね…?


「シオイ様まだですか?」

「妃まだか?」


その声に俺はおずおずと姿を見せた。


「あのさぁ…やっぱり…」

「これは…」

「ほお…」


あんだよその反応!笑いたけりゃ笑えば…


「お似合いです!」

「中々だな」

「へ?」

「思った以上だ。さあ行くぞ妃」


俺の手を取ってアギアは歩き出した。俺もスカートの裾を翻しながら歩く。


「少し遅れている。民を待たせる訳にはいかない…そうだ妃、お前名前を未だ聞いていなかった。名前は何という?」

「直之…塩井 直之。」


なんだか全然ついていけない頭で俺はどうにか答えた。
え、似合ってるってマジか。全然喜べねぇんだけど…というか、似合ってるから良いとかそういう話でもない気が。


「じゃあナオで良いな」


俺の手をぎゅっと握ると笑顔で振り返り


「それではナオ、見るが良い」


ばぁんっと目の前の大きな扉を開いた。



――目の前に広がる眩しい光と、凄まじいまでの歓声。
眩しさに目が慣れた俺の目の前に広がるのは今まで見た事のない人の波だった。

アギアが開けた扉はバルコニーのような所に出る扉だったようで、俺はその人の波を高い所から見下ろしていた。


「ナオ。これが俺の国の民でこの1年お前のものにもなる民だ」


ぞわっと背筋が、脊髄が震える。
これが、1年だけでも俺のもの――…。

聞こえる歓声。王を讃える声。


「どうだ?良いものであろう」


嬉しそうにアギアは微笑んだ。


「俺を讃える声。喜びの声。
これを聞くたびに俺は民を守っていきたいと、守ってきて良かったと思う。
そして毎回この身が朽ちるまでこの国を良い方向へと導く事を神に、民に、己に誓う」


これが俺の宝だ。とアギアは目を細める。
その幼い横顔に22歳の大人の表情が見えて俺は思わず見蕩れた。


「手を出せナオ」


右手を出すと人指し指に指輪がはめられた。
アギアの髪と同じ白銀の石が中央に光る指輪。


「歴代の王妃が身につけるものだ。
この石と同じものがこの国の八方に安置されており、お前がこれを身につける事で同調して国を潤す」


指輪のはめられた右手にうやうやしく口付けながら。


「お前は1年だけだがこの国の王の隣に座る。それをどのようにとるかはお前次第だ」


片眼をつぶり含みのある笑みを浮かべ、アギアは「好きなようにやってみよ」と言った。



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