「…俺にこれを着ろと?」
俺は手元の服に目をやって唸った。
朝、すっきりした頭で部屋の備え付けの風呂に入って…出たら着ていた服が無くなっていて、これが置いてあった。
だから今の俺は腰にタオルを巻きつけているだけの状態だ。
「今日はこの国の人に、1年間だけだけどよろしくお願いしますっていう所謂お披露目なんだよな?」
「はい」
満面の笑みのリュスに俺は服を破きそうになって、手をぷるぷると震えさせた。
「じゃあなんでこんな服なんだろうな…?」
それは艶やかな濃緑のドレス。ちなみにぱっくりと肩が出るやつだ。
「お似合いですよ?」
「そういう事を聞きたいんじゃねーよっ!なんで女物なんだって話」
「え…だって、正妃の座に…」
「そうだよそう言ったけど、なんで服まで女物なんだ!?」
「ご趣味では…?」
驚いたような顔をするリュス。
「違わい!!あれは強制的に着せられたんだ!」
その返事にさらに驚いた顔をするリュスに俺は脱力した。
「もういいから…他の服出してくれ」
「ございません」
「………ほあ?」
何を言ってんだ?
「いやいや、さっき俺が着てたやつで良いから」
「だめです」
はい?
「…それは何故か聞いて良いかな?」
「民の前に出るのですよ?それなりの格好をしていただかないと!」
うん。なんか根本的な事がダメだぞ?
「それはわかるけど、ならばなおさら正妃の座に就く人が女装癖って思われたらダメじゃないかなーっと俺は思ったりするわけで…」
「そういう点なら問題ございません。この国の者は衣服の事はあまり気にしませんので」
「いやいや気にするだろうよ。男が女の物着てたら」
「朝からお前らはうるさいな」
凛とした声が部屋に響く。
目をそちらに向ければアギアが腕を組んでドアに凭れてたっていた。
「…だからと言ってあーゆーのも嫌だけどな…」
アギアの服装は布1枚で出来たような服だった。純白の布地に紺の線で模様が入っている。
明らかに腰に巻いて肩に掛けただけだろうって服装に、手首・足首・首に金細工の装身具。
それが難なく似合ってしまう美貌に脱帽だ。
俺は絶対に似合わない。このドレス並みに似合わない。
「ってかこの国特有の服装とかないのな…」
リュスの服に目を移しながら呟く。
俺の昨日の服は少し変わってはいたが探せば俺の世界でもありそうなものだったし、手元のドレスなんかもそれ専用の店に行けば普通に手に入りそうだ。
リュスの服はRPGに出てくる魔道師みたいな格好だし、アギアの格好はさっき言った通りで例えて見れば古代ギリシア…いやアラブの王?なイメージだ。
二人の共通点なんていったら服に描かれている幾何学模様だろうか。
俺のドレスの裾にも織り込まれている。
「ええまあ色々な文化が混じっていますからね…この国特有の、というのはございませんがアギア様が身につけていらっしゃるのはこの国の王が歴代身につけているものでございますし、私達の服に描かれている紋様は昔から伝わるものです」
「へえ…」
で、だ。
「とにかく男物の服をくれ」
「ですからこのような式典に相応しい服はこれしかございませんし、相応しい服でシオイ様のサイズに合う物はそれしかございません!」
「なんでこれは俺にぴったりなんだよっ」
「シオイ様が寝ている間にサイズを測って即急に作らせたからでございます!」
「あーのーなぁあああ…!じゃあその時に男物作らせてくれよ!」
「ですからこれがお好きだと――…」
「あーあー五月蠅い。妃、民の前に出る時だけこれを着てくれ。
すぐに男物を用意させるゆえ今はそれで我慢をして欲しい。時間もない」
びしりとアギアがそう言い、俺達はそれ以上口論が出来なかった。
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