「いっ…つ」
頭がガンガンする。
「うー…」
両手で顔を覆いながら呻いた。
まるで昨日のデジャビュだ。でも今日の方が頭が痛い。
…そうだ、昨日はがばがば酒を飲んで、何もかも忘れるほどに酔ったんだった。
二日酔いじみた気配を漂わせる頭を覚ます為に冷たい風呂でも浴びるかと身体を起こそうとして、腰に何かが絡まっているのに気付いた。
「ん…?」
ドレスではない。
リュスに昨日、余り見た事の無い作りの簡素な、だけども質の良い黒い布ズボン、紺の長袖…という落ちついた色合いの服を用意してもらってそれを今着ているはずだからだ。
布団を持ちあげて何なのかと確認して音を立てて凍りつく。
そこには腰に布を巻いただけの子供が俺に寄り添って寝ていた。
「―――!?、!!、?!」
声もなく、口をパクパクとさせる。
昨日の記憶はない。まさか?!と頭を『犯罪』という言葉がぐるぐると回った。
おそるおそる顔を窺う。
子供は白い長い髪を乱れさせてくーくーと寝息を立てて寝ていた。
長い睫毛が呼吸をするたびに震える。
小さい唇も、すっと通った鼻筋も、細い手足もやはり記憶にない。
まあ前後不覚にまで酔ったから覚えてるも糞もないのだが…。
すべてのパーツが理想的な位置に配置されているその顔では男か女かさえも判別できない。
――だ、大丈夫だ。あれだけ酔ってたら勃たねぇ。
うんうんと必死に自分に言い聞かせる。
その時。布団を捲られて寒くなったのか、子供の瞼が震えて開かれた。
「!!」
何を言われるかと息をのんで見守ると、白い睫毛に縁取られた赤紫の目をこっちに向けて
「…寒い…」
と一言。
慌てて布団を掛け直してやると、腰にまたぎゅっとしがみついて
「…まだ眠い…そなたももう少し眠れ…」
と低めの声で囁かれた。
なんだ男かと少し安堵していると、バターン!!と大きな音で部屋のドアが開いて、リュスが凄い形相で立っていた。
そのままの形相で俺を見ると、つかつかと近寄って布団を剥ぎ取る。
「やはりいらっしゃいましたね!?」
少年が低く呻いて俺の腰に回していた腕を更に締めた。
その腕をがっと掴むとひきはがしにかかるリュス。
「いけません!!もうお目覚めのお時間なのですよ?!」
「もう少し…」
「もう1時間も遅いのですから!!」
しぶしぶと俺から離れる少年。
色々なところで白く長い髪が金の止め具で纏められている。
「お前も宰相なのに大変だな」
「いえいえ仕事ですから」
子守なんて…と憐れんだ目で見ると苦笑しながらリュスは首を横に振った。
「で、そいつは誰だ?」
ずこんずこんと疼く頭を軽く押さえながら少年を指さす。
「あ…この方は」
「ファルテーロ13代目王。アギアラト=ファルテーロ=ユリレイアだ」
眠たげにしていた少年が急にはっきりとした口調で話して、真っ直ぐな目で見る。
「我が城へようこそ我が妃よ」
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